■全少が、サッカーを辞めてしまう原因になりかねない
「わが子をプロ選手に!」
ヒートアップするお父さんお母さんの中には「せめて全少は出ておかないと」「地区大会のいいところまで行っていないと」という声なき声があるようです。
塚田さんに「全少に出ないとプロにはなれませんか?」と聞くと「もちろんそんなことはありません」という答えが返ってきました。
「全少に出ていないプロ選手はたくさんいますし、子どもたちはどこで成長するかわかりません。全少を経験したことで大きく伸びる選手もいれば、全少で結果を残せなくてもその先のステップに進むための確かな経験を積んで、中学、高校、大学で花開く選手だって大勢います」
熱心なはずのお父さんやお母さんのこうした思い違いに話が及ぶと、塚田さんは優しい声のまま少し悲しい表情になります。
「『勝てなかった』『できなかった』ことでサッカーを嫌いになってしまう。サッカーをやめてしまうことの方が問題です」
続けていればこれからいくらでも成長の伸びしろがありますが、やめてしまえばそこですべての可能性が閉ざされます。またしても大人の「良かれと思って」が子どもの可能性を奪う結果になっているのです。
■海外の保護者は、試合後の対応がうまい
海外では、どうなのでしょうか。たとえば、アメリカでは小学生のうちは試合のスコアをつけない(勝敗をはっきりさせない)、欧州でも全国規模の大会は行わないなど「勝利を目的にしない育成」がスタンダードになっています。日本でも目先の勝利ではなく試合経験を多くしようとリーグ戦主体の改革が進んでいます。塚田さんは、こうした試みはリーグ戦にもトーナメントにもメリットがあることを、しっかりと理解するいいきっかけになると言います。
「日本では全少を目標とするチームが多くありますが、リーグ戦文化が育てば、戦い方や試合の進め方、選手の起用法を含め大きく変わっていくと思います。海外は環境がいいとよく言いますが、海外の保護者は日本よりも熱心で、さらに一人ひとりがサッカーを良く知っているので、ヒートアップ具合も日本よりすごいんです。でも大きく違うのは、負けた後の対処ですね」
塚田さんによれば、日本では試合後のベンチや保護者を見ればスコアボードを見なくても試合結果がわかると言います。
「子どもたちはうなだれて、指導者も保護者もがっくり肩を落としている。こ世の終わりみたいな顔をしているんです。海外はそういうことはあまりない。くやしがっているのでしょうが、『ここは良かった!』『よくがんばった』と、勝敗を受け入れる準備があるように思います」
こうした負けたあとの関わり方は「負けたらすべてが終わり」というトーナメント方式の全少に象徴される日本の問題点だと言います。
今年行われたワールドカップでの日本代表の戦いぶりの中にもさまざまな課題がみつかりました。こうした課題を解決するためには監督の交代や選手のレベルアップよりも、育成年代を含めた日本全体の底上げが必要。そのためにも塚田さんは小学生年代の意識改革、サッカー文化の再構築が重要だと言います。
子どもたちがサッカーを続け、次のステップで輝くためには勝利至上主義や短期的な目線での指導でなく、子どもの将来に目を向けた指導やサポートが不可欠なのです。
取材・文/大塚一樹 写真/サカイク編集部