■アドバイスではなく、サッカーボールを使った『遊び方』を教える
それと、子どもにはボールをおもちゃだと思う感覚を持ってほしいです。親が「あーしろ、こうしろ」と言うのが一番ダメ。とにかく遊びたくなるように促しましょう。たとえば左足しか使っていなかったら「右足でチャレンジしてみたら?」とか。「足の裏をつかってみたら?」とか。アドバイスではなく『遊び方』を教えてあげる。そこでポイントとなるのが、まずは家の中でやってみること。外に出ると走ってしまうので疲れるし、限られた狭いスペースでボールと遊ぶことで技術を習得できます。大事なポイントは以下の3つです。
・2歳から5歳までの子どもに、ボールをつかって遊ぶことを習慣づける。
・ボールを家の中で蹴ることを許してあげる。
・ボールを蹴るではなくマニピュレーション(操る)する方法を教える。
それと子どもがボールを操っている動画を撮って見せることは非常に効果的だと思っています。たとえばスマートフォンで動画を撮り終わると、効果音が鳴ります。わが家では、その途端に子どもたちが「見せて!、見せて!」と自分のプレーを見たがります。見ることによって自分のプレーを分析できるし、その時にうまく親が褒めてあげると、さらに練習したい気持ちになります。とにかく褒めること、動画を撮ること、家の中でやることにチャレンジしてみましょう。
――なるほど。そのほかに大事なことはありますか?
子どもたちが自ら練習することです。『1万時間ルール』をご存知でしょうか? なにかのエキスパートになるには1万時間の練習が必要だということです。1万時間というと長く感じますが、ブラジルのサッカー少年は13歳で達成します。それはストリートサッカーがあるからです。ヨーロッパだと20歳くらい。ヨーロッパとラテン系の国とは7年間くらいの差がある。たとえばタイガーウッズや錦織圭は、少年時代に濃密な一万時間を過ごしてきました。タイガーウッズは親がゴルフをしていました。コーチだけでなく親がなにをしてあげられるか、がとても重要です。有名大学に入るためには、学校だけでは足りないところを塾で補いますよね。それと同じことはサッカーにも当てはまります。サッカーの練習をピッチ外でできるか。そこに親が気づくことが重要なんです」
■なでしこJAPANの宮間あやを育てた父親
――親の関わり方といえば、なでしこジャパンのキャプテンである宮間あや選手のお父さんは、彼女が小学生のころにサッカーチームをつくりました。
彼女が10歳のころ、わたしのスクールに来たことを覚えています。彼女はわたしに育てられたといってくれますが、彼女を育てたのはお父さんです。わたしのところに来た時には、すでにうまかった。親の影響は大きいのです。
――ふたりのサッカー少年の父親として、トムが大事にしていることはありますか?
親として一番大事なことは、子どもたちが楽しんでいること。それは親がどう関わるかで変わってきます。子どもを褒めてあげる、手助けしてあげる、引き出してあげる。興味を持つことで子どもは喋ってくれます。「今日はなにをやったの? 今日はなにか違うことしたの?」と聞くだけで子どもは話したくなるものです。会話をするだけで子どものモチベーションは上がります。子どもにとって一番嬉しいことは試合や練習を親が見にきてくれることだと思います。
それと、自分のすることに責任を持たせること。たとえば、時間に遅れないことや忘れ物をしないこと。日本では、子どもが寝坊しないように母親が目覚まし時計の役割をこなします。子どもがすね当てやスパイクを忘れたら親が届けに行く。それはダメ。自分で準備できるようになることも、スポーツをする意味のひとつです。
トム・バイヤー
“トムさん”の愛称でおなじみのU-12のサッカーコーチ。20年近く日本やアジア各国で指導者として活躍、これまでに延べ50万人以上 を指導した実績を持つ。2008年からは自らが日本に紹介し、15年に渡り普及に努めた「クーバーコーチング」を離れて独立。(株)T3を設立。さらなるサッカー指導と、普及活動に打ち込んでいる。公式WEBサイト
聞き手/上野道彦