子どもがご飯を食べきれず残してしまいそうなとき、あなたはなんと声をかけますか?
しつけの一環として「残さず食べなさい」と声をかける読者が多いのではないでしょうか。
それは、ひとつの正解です。つくってくれた人への感謝を表わすためにも、出されたものを残さず食べることは大切なことです。ですが、正解はひとつだけではないかもしれません。
サカイクが提案する“考えるサッカーを子どもたちに”指導を、実際に子どもたちに行う『サカイクキャンプ』では、食事はビュッフェ形式で行います。そして、食事を残した子どもたちに「全部食べるまで席を立つな」というような声をかけることはしません。
そこには、しつけとは異なる明確な狙いがあります。
サカイクキャンプやシンキングサッカースクールでヘッドコーチを務める高峯弘樹さんが、その真意を説明します。(取材・文 出川啓太(サカイク編集部))
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■雪の日は長靴と運動靴のどちらを履く? 子どもに考えさせよう
「これは今朝、実際にぼくの家庭であった会話です。雪が降っていたので、小学1年生の娘が玄関でぼくにこう聞きました。『今日は長靴と運動靴、どっちがいい?』と」
あなたなら、どう答えますか? 高峯コーチはこう答えました。
「どっちがいいと思う?」
そこで子どもが少し考えて「運動靴でいく」と答えると、お母さんから「長靴にしなさい!」というひと言が飛んできました。
「これは男性目線なのかもしれませんし、帰ったら怒られそうなのであまり言いたくないのですが勇気を出して言うと、嫁の声かけはちょっと違うのではないかと思いました。それは、長靴を履いていくことが間違った選択だということではありません。娘が失敗しないように正解を教えてしまう行為が間違いだと思ったんです」
運動靴で登校したら、子どもが雪に足を滑らせて転んでしまうかもしれない。転んだときに頭を打ってケガをしてしまうかもしれない。そう思うと心配でしかたない、というのが親の心情。「長靴にしなさい!」は、子どものことを考えた結果、出てきた言葉なのでしょう。でも、それが本当に子どものためになったのでしょうか。転んで雪に服を濡らすことも大事な経験ではないでしょうか。あなたが良かれと思って言った「長靴にしなさい!」は、子どもの出した答えを否定してしまう結果につながらないでしょうか。
「運動靴を履いて登校するとします。娘は近所の友達と登校しますが、その集合場所には、ぼくと一緒に向かいます。雪が滑るということは、ぼくがその時間に伝えることができます。娘が途中で『滑るから、やっぱり長靴でいく』と言えば、一緒に引き返すこともできます。娘が転んだら、立ち上がるまで見守ってあげること、立ち上がれないようなら手を引っ張って立たせてあげることができるんです。ぼくたちの役割は、子どもを転ばせないことではなく、転んだら立ち上がれるように見守ってあげることではないでしょうか?」
失敗は成功の元。これはサッカーを教えるコツでもあります。
■失敗して「次はどうしよう?」と考えることが成長につながる
サカイクキャンプやシンキングサッカースクールのトレーニングも、「そこはシュートだろ」や「あと1タッチはやくパスを出すべきだろう」というような声かけはしません。それは、そういった声かけが前述の「長靴にしなさい!」に等しいからです。
「サッカーのトレーニングでも『どっちがいいと思う?』という声かけは有効です。『いまの場面、パスとシュートどっちが良かったかな?』と声をかけることで子どもは考えてくれます」
あきらかにパスが正解の場面で子どもが『シュート』と答えたとしても、「いや、シュートだろ」と子どもが出した答えを否定する必要はありません。
「子どもの出した答えを『よし、そっか』と受け止め、『次はどうしようか?』と考えさせてあげるようにしています」
この『次はどうしようか?』がポイントです。
「雪で足を滑らせて転んじゃったね。次はどうしようか?」
そう声をかけることで、次の雪の日は、自ら長靴を選ぶようになるのではないでしょうか。
取材・文/サカイク編集部 出川啓太