■"足りない部分を補完する力"を育てる
しかし、順天堂大学蹴球部の門を叩くまでのサッカー人生でそういった特性を"考える"ことを求められてきた学生は「全然いない」と吉村さんは嘆きます。そういった学生たちの中から順天堂大学蹴球部はプロ選手を輩出し続けてきました。もし、小学生からサッカーの特性を考えることを求める環境があったら選手の成長、ひいては日本サッカーを熟成させることに繋がる可能性があるのではないでしょうか。
「たとえば、大学選抜(注:2013年に行われたユニバーシアードに臨んだ全日本大学選抜のこと。吉村さんはここで監督を務めた)だと下田北斗(現・ヴァンフォーレ甲府)ですね。彼は"絶対的に走らないといけない"と言っていました。それは、サッカーの本質を知っているし、サッカーの特性を知っているからこそ、自分の下手な部分を補完できる要素として"走力"を考えている訳です。そういうアプローチが幼少期とか育成期から求められれば、日本のサッカー界も変わってくると思います」
この下田選手のように下手を走力で補うことを吉村さんは"補完する力"と言います。サッカーの特性を理解した上で、重要になってくるのが"補完する力"です。
「補完できる力は自分のパワーになります。自立した人間として力強く生きていくための力を"人間力"と言ったりしますが、これはつまり"補完する力"です。ぼくは去年も一昨年もずっと、『試合でベストメンバーを組まない』と選手たちに話してきました。明らかに力はないけどやろうとする姿勢はあるし、コンセプトを理解しているし戦術的理解も高いけどパフォーマンスは低い選手がピッチにいたとして『じゃあ、(周りの選手は)どうするの?』、そう問いかけてきました。その選手がミスをするのを馬鹿にするのか、ミスをしっかりと誰かが補完してあげるのか。サポートしてやれるのか。そこでの学習能力と補完する力と、修正する力。そのへんがぼくは具体的なサッカー選手としての人間力だと思います。たとえば『160cmのGKがいたらどうする』と選手に投げかけて『先生が使わなければ良い』と学生は言うんですけど(笑) 、ぼくは『いや、おれはそいつを使いたいんだ』と答えます(笑)。そうしたときに、どういうプレーをするかが大事です」
極端な話ではありますが、吉村さんはこのように学生に問いかけ、"考えさせる"状況をつくってきたと言います。そこで"チームとして足りない部分をどう補うか"という考え方が大切だということに気づかせてきました。大学生でも考えることに戸惑いを見せる選手が大半のなか、それをジュニア年代から養うことができれば、人間力を備えた立派な大人に成長するでしょう。
後編では、吉村監督がサッカーの特性と仲間を補完する力が大事だと考えるに至った経緯や、ジュニア年代の"親”が子どもにどう接するべきかについて取り上げます。
吉村雅文さんの考えに共感する高峯弘樹ヘッドコーチが指揮を執るサカイク親子キャンプ開催決定!
子どもの考える力を育てる最新記事が届く!サカイクメルマガに登録しよう!
取材・文 竹中玲央奈 写真 サカイク編集部