今年から全日本少年サッカー大会が夏から冬に移行し、大会の予選にはリーグ戦が導入されはじめました。
「トーナメントよりもリーグ戦の大会を」
このような少年サッカー大会のリーグ戦化を強調する声は、以前より存在しました。なぜ、トーナメントよりリーグ戦なのでしょうか? あなたは考えてみたことはありますか? それは単なる組み合わせ方式の違いではありません。
サッカーに関する課題解決を図るサッカーコンサルタントとして活躍しながら、アーセナルサッカースクール市川の代表を務める幸野健一さん。ジュニア年代の指導者が中心となって誕生した『U-11プレミアリーグ』の責任者でもある幸野さんに、リーグ戦化の意味について話をうかがいました。(取材・文 鈴木智之 写真 鈴木蹴一)
■トーナメントよりリーグ戦。その理由とは?
――幸野さんは何年も前から『育成年代のリーグ戦化』を提唱しています。近年、日本サッカー協会もリーグ戦化を進めていますが、リーグ戦を導入することが、選手の育成にどのような影響をおよぼすのでしょうか?
幸野:育成年代の大会を見ると、多くがトーナメント形式で行われています。代表的なのが高校サッカー選手権で、一回戦で負けたチームはそこで終わり。強いチームが何試合もできるシステムです。つまり、弱いチームの選手は経験できる真剣勝負の数が少なくなってしまうんです。リーグ戦の場合、あらかじめ試合数が決まっているので、勝っても負けても、真剣勝負の機会は確保されています。選手は公式戦などの真剣勝負を経験することで成長していくもの。練習試合ではなく、緊張感を持った中でどれだけ練習の成果を発揮できるか。その繰り返しが、選手を成長させていくと思っています。
――幸野さんは、育成年代の指導者が中心となって作った『U-11プレミアリーグ』の責任者もされています。これは、どのような理由で立ち上げたのでしょうか?
幸野:私は昔から、育成年代のリーグ戦化こそが、日本サッカーの強化につながると思っています。外から意見していても変わらないので、それならば自分たちでやってみようと。東京や神奈川の指導者が中心となり、U-11年代のリーグ戦化を実現するなかで、私が代表を務めるアーセナルSS市川も参加し、千葉県でも開催することになりました。グラウンド確保の問題もあるので初年度は難しいですが、なるべくホーム&アウェイに準ずる形で、同じ対戦相手と1年間に2回試合をするレギュレーションにしています。
――なぜ、同じ相手と2回試合をする形にしたのですか?
ここに、私が考えるリーグ戦化のポイントがあります。プロのリーグ戦は原則としてホーム&アウェイで行われます。同じ相手と2回試合をするということは、最初の試合を戦った経験を、次の試合に活かすことができるわけです。もし最初の試合で負けたのであれば、失点場面を振り返って、次に同じやられ方をしないように対策を練る。分析をして、試合でトライする。それを繰り返すことが、選手や指導者の成長につながる、ひとつの方法だと思います。現にヨーロッパのサッカー強国は、7歳からリーグ戦を取り入れていますよね。僕らよりサッカーの歴史が古い彼らが試行錯誤し、辿り着いた最適な育成環境がリーグ戦なのです。
――5月にU-11プレミアリーグ千葉がスタートしましたが、どのようなレギュレーションなのでしょうか?
プレミアリーグ千葉は、原則として1日あたり、1チーム1試合です。もちろん、フレンドリーマッチは行いますが、できれば1日に1試合だけにしたいと思っています。やはり、1日に2試合も3試合も戦うとなると、選手たちのプレーインテンシティは下がってしまいます。選手の強化にとって大切なのは、目の前の1試合に向けて最大の準備をして、全力を出し切ること。サッカーとは、瞬間的に爆発的なスプリントをしたり、球際の局面でパワーを発揮したりと、短時間で一気に力を出すことが求められるスポーツです。日本は社会全体がそうなのですが、長時間労働がよしとされていて、常に80%の力で長くやる。それはサッカーというスポーツの特性上、トレーニング効果が薄れると思います。
――トーナメント形式の場合、実力が下のチームが勝つこともありますが、通年のリーグだと、実力が結果に正しく反映されます。
リーグ戦をすることで、ヒエラルキーができますよね。トーナメントの場合、1回戦負けのチームと3回戦負けのチームの間に、差を見出すのは難しいです。リーグ戦でカテゴリーが1部、2部、3部と別れると、どのチームが強いかは一目瞭然。選手の中に「1部でプレーしたい」という気持ちが出てくるのは自然なことですよね。それに合わせて、クラブを自由に移籍できるシステムも必要です。それぞれの選手が、自分に適したレベルのリーグ、チームで毎週末、公式戦をプレーできる。それがプレイヤーズファーストだと思います。現状だと、プロになりたい子とサッカーを楽しみたい子が同じチームにいて、お互いに言い合ったりすることもあるわけですよね。同じ志を持つ子同士が、同じレベルのチームでサッカーができる仕組みを作れば、そういうことも起きにくくなります。これは、みんなにとって幸せな仕組みになるはずなんです。
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取材・文 鈴木智之 写真 鈴木蹴一