■最初は理解できなくても、子どもたちは徐々に理解してくれる
「生徒たちも最初はなかなか理解できなかったと思います。どうしてサッカーとは関係のないことをやらなければいけないのかと。でも、徐々に理解してもらえるようになって、生徒たちからいろいろなことに積極的に取り組んでもらえるようになりました。積極性が芽生えてくると責任感が生まれるんです。その1年後、チームは初の関東リーグ昇格を果たすことができました」
有力選手を集めたわけではないのに短期間で躍進できたのは、選手たちがライフスキルを磨いた成果だと大森さんは考えている。選手たちが自ら審判をしたり、試合会場の草むしりをしたり、町の清掃に出向いたりしたのも、すべては自らのサッカー人生を豊かにするため。
ライフスキル向上による意識改革によって、いろいろな場面で実を結ぶことを学生たちは感じてくれたのではないか――。そうやって目を細めながら、大森さんは自分のことのように、学生たちの成長を喜んでいる。自分が成し遂げることができなかったプロという道へと、何人もの教え子が巣立っていった。
「ライフスキルを上げることは、結局、サッカーの上達につながるのです。良い準備をすることが、結局は良い生活につながるのです。ピッチ上でいえば、良い守備をすることが良い攻撃へとつながるのです。そうしたオフ・ザ・ピッチの行動が、オン・ザ・ピッチの行動と密接にリンクしていることを感じることができました。ライフスキル向上による意識改革。それによっていろいろな場面で実を結ぶことを子どもたちは感じてくれたと思いますし、その後の長い人生を有意義なものにしてくれると信じています」
大森酉三郎(おおもり・ゆうざぶろう)
一般社団法人 星槎湘南大磯総合型スポーツクラブ・クラブ長。1969年12月7日生まれ、神奈川県平塚市出身。藤嶺藤沢高、中央大を経て、社会人リーグ関東一部の海上自衛隊厚木基地マーカスでプレー。01年からは指導者へ転身し、03年まで厚木マーカスのコーチを務めた後、04年から神奈川大学サッカー部監督に就任。09年にはユニバーシアード日本代表コーチを兼務し銅メダル獲得に貢献。2010年に湘南ベルマーレフットボールアカデミーダイレクターを経て、2012年より現職。
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取材・文・写真 小須田泰二