■なぜ、子ども目線で話をする必要があるかを見失わないで
この日、長男チームはなかなか勝てずに3試合で1分2敗。4試合目も負けたあとは流石にみんながっかり。審判なしルールでやっても、最終的に順位がつかなくても、試合をすればだれだって勝ちたいのは当然ですから。小さい子はとくに他人と比べたがるもの。負ければ悔しいのは自然な感情。そんなしょんぼりムードの子どもたちをコーチが集めると、スッとしゃがんでゆっくりと彼らの目を見ながら話をしていました。
「子どもと話をするときは彼らの目線で話をすることが大事」というのは聞いたことがあると思います。でも行為が先に来てしまうことがありませんか? 何のために子ども目線で話すのかが曖昧になることがありませんか?
このコーチはライセンスを持っているわけでもないし、講習会等に足繁く通っているわけでもない、どこにでもいる普通のボランティアコーチです。でもがっかりしている子どもたちに試合における大切なことを伝えようと言う思いがあり、それが自然に「子供目線で話をする」という行為として現れていました。それが本当に人と人との大切な心のつながりなのだと思います。ノウハウはその通りにやることが目的化すると、本来の意味を失ってしまうものですから。
■好きなサッカーを誰にも邪魔されずにできる環境をつくってあげよう
観戦に訪れているお父さんお母さんの理解があるのも大事なポイントなのでしょう。「そこでパスをしろ!」「なんで取りに行かないんだ!」「オイ、今のファールじゃないのか!」といった外からの不要な声がないだけで、どれだけ子どもたちにのびのびとサッカーをさせることが出来ることか。ドイツにもマナーの悪い親はいます。何もかもが素晴らしいと諸手を挙げて賞賛するつもりもありません。でも誰に言われるわけでもなく、ピッチから数メートル離れたところに立ち、子どもたちのプレーを優しい眼差しで楽しそうに見ている彼らの姿を、ぼくは美しいものだなと感じ入ったのです。
新チームでの初めての大会。長男は2ゴール2アシストを挙げ、チームメイトやコーチ、その他の大人たちから祝福されていました。でもそれ以上に、自分が大好きなサッカーを誰にも邪魔されずにできるという環境でプレーできたことが何より幸せだったことでしょう。大切な思い出がぼくの中でまた一つ増えました。
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取材・文 中野吉之伴