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「サッカーを教えていませんか? だから、うまくならないんです」川崎フロンターレ風間八宏監督に学ぶサッカー少年の育て方

公開:2016年6月14日 更新:2021年1月27日

キーワード:トラウムトレーニング川崎フロンターレ楽しむ親子風間八宏

次節にもJ1ファーストステージ優勝の可能性が出てきた川崎フロンターレ。監督を務める風間八宏さんは、10代のころから各年代の代表に選ばれつづけ、ドイツのクラブでも活躍しました。Jリーグ創設後はサンフレッチェ広島に所属し、記念すべき日本人第1号ゴールを挙げた人物でもあります。彼の唯一無二で独特なサッカー観や技術論は多く報じられている部分でもありますが、今回は"サッカーをする子どもを持つ親"としての立場から、サッカーを通じて学べるものや両親の心構えなどを語っていただきました。(取材・文 竹中玲央奈 写真 八木竜馬)
 
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■好きなようにやらせてあげることこそ、子どもが伸びる秘訣

“どのように教えれば子どもはサッカーがうまくなるのでしょう?”という疑問や質問は風間監督のもとにいまでも多く寄せられると言います。テレビ番組でのわかりやすい解説でお茶の間の支持を集め、現場における選手育成にも定評があることを考えれば、当然のように思える。ところが開口一番返ってきた答えは意外なものでした。
 
「『サッカーを"教えて"いませんか?だから、うまくならないんです』とわたしは答えています。たとえばわたし自身、現役時代はうまい選手だったかもしれないけど、その経験で培ってきたものを子どもたちにただ与えても、自分を超える選手にならないかもしれないし、時代遅れの選手になってしまうかもしれない。だから、“子どもの好きにやらせてあげれば良いのではないか”と考えていますし、それが伸びる秘訣でもあります」
 
サッカーをするにあたっての最低限の技術は教える一方で、深く入れ込み過ぎず、自主性に任せる。これが風間監督の考えのようです。こういった考えに至るまでには、監督自身がサッカー少年として育ってきた環境や経験に裏付けされています。逆に、両親からの接し方は自身のマインドのベースには「まったく無かった」と断言します。
 
「わたしは小学校5年生でサッカーをはじめたのですが、あっという間にのめり込みました。ボールがわたしの言うことを聞いてくれない、だからおもしろいと、どんどんサッカーにはまっていきました。辛いことがあっても、ボール一つあれば一人で何時間でも遊んでいられました。ボールは、自分がやった分だけ自分に返してくれる最高の友だちだったので、手と同じようにボールを足でつかめないか、手よりも足のほうがおもしろいことはできないかと、いろんな工夫をするのが最高の遊びになっていました。それに、勝てばほめてもらえる、すごいプレーをすれば驚かれる、どんどん強い相手に会える。そうやって楽しむことで、どんどん自分がうまくなっていくことを感じていました」
 
サッカーをしているときが、辛いことや嫌なことを忘れられる貴重な時間。それは、年代を問わずプレーヤーとして活動しているすべての人に当てはまることでしょう。このサッカーをする”楽しい”時間の中で得られるさまざまな経験や、局面局面で自ら考えてプレーをすることが、子どもたちを成長させると風間監督はつづけます。
 
「逆に、強い相手や、負けることが怖くなることもありました。小6で初めて市の大会の決勝に行ったときに、吐き気がしたことを今でも思い出します。前日にグラウンドにいって、『グラウンドの大きさもボールもいつもと同じだ、きっとやれる』と思って、家に帰りました。今考えれば、できるようになればなるほど負けることが怖くなり、自分がチームを勝たせなければいけない、そのためにうまくならなければいけないと、感じていました。わたしは母親に育てられましたが、そんなわたしに母は何も言いませんでした。自分が好きなものなら、とことんやればいいという考え方だったと思います。人にやらされるのではなく、大きくても小さくても、戦う場所は自らで切り開いていかなければなりません。そしてその場は、必ず多くのことを教えてくれます。それを見守ってあげるのが親や先生の役目なんだと思います」
 
 

■スポーツの中で許される“争い”が、子どもを育てる

「今は、本来であれば”戦ってはいけない”社会ですよね(笑)。でも、サッカーに限らずスポーツというのはルールの中で戦える。戦うという行為は、大きくこころが動く。”こころが動く”ということはそれだけ”ものを考える”ようになるということ。悲しいことも、嬉しいことも、怒ることも、”落ち着かなきゃ”と冷静になることもある。そうやっていろいろな経験を得られるのですが、それを、親や、学校の先生が教えるにも限界があります。スポーツの中で、自分自身で気がついたり感じたり、負けるのが嫌だと思ったらそれなりに工夫をするようになる。それから、そこに向かって”考えて実行するようになる”。この経験が当人を成長させます」
 
スポーツの中で許される”争い”のなかで、多くの喜怒哀楽を経験できるだけでなく、ライバルに勝つための工夫や努力を重ねることもできます。そのなかで、子どもたちは人間として成長していきます。成長の種が多く巻かれているピッチの中に送り込まれることで、子どもたちはいろいろと吸収するのです。だからこそ、風間監督は「ご両親はそこに対して応援してあげることが1番いい」と口にしました。
 
「子どもたちは親が思っている以上にサッカーをプレーすることで、いろいろなことを学びます。よく『うちの子はサッカーができない、向いていない』とか言うけれど、それは子どもたちが後で決めること。そういうところは少し寛大になってあげるといいと思います」
 
“寛大になる”という考えに関して、風間監督が小さいころに起きたあるエピソードを教えてくれました。
 
 
次ページ:親も一緒に楽しめればいい
 

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取材・文 竹中玲央奈 写真 八木竜馬

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