考える力
「ゆるい指導じゃ強くならない」と言われたけれど......周囲の予想を裏切った町クラブ躍進の秘密
公開:2017年11月30日 更新:2017年12月 8日
■保護者の説得と、サッカーの原理原則の指導
「試合をしないと強くならないのでは?」と戸惑う保護者らを、「一緒に子どもの未来を育てましょう」と説得もしたそうです。多様な経験をさせようと、サッカーの遠征に充てていた冬休みにスキー遠征や被災地訪問を企画したり、試合を入れていた土日に「宝物さがし大会」「運動会」を催しました。サッカーを媒介に、クラブにいることが楽しいという感覚を持ってほしかったのです。
と同時に、もうひとつ着手したのは、サッカー面での細かいアプローチです。
末本さんは当時をこう振り返ります。
「当時は、教えるべきことを教える、という部分が弱かったと思う。あまりに多くのことを選手任せにしていたし、判断の基準となるべきところや教えることと判断させることの確立がまだできていなかった」
「低学年からサッカーをすること、発達段階に合わせて何をどのタイミングで伝えていくか、判断基準を明確にすること、サッカー選手として外せない『ボールを前に運ぶ、前にいく、ボールを奪う、ボールを守る、ゴールを奪う』要素をしっかり身に付けて、次の年代に渡していくことを伝えました」
一気にゴール前に放り込むだけでなく、崩す、いなすといったプロセスの理解。サッカーの原理原則を教えたそうです。
■ゆるい空気でも強く―。失敗を客観視し、自分たちが変われたことが躍進の鍵
「そんなにゆるい空気じゃ、強くならないぞ」
他クラブの先輩コーチに言われたが、気にしなかったといいます。議論を積み重ねて出した自分たちのチェンジプランに自信があったからです。
このような「ゆとり」を持たせたことが奏功したのでしょう。
卆団生がきちんと「あと伸び」し始めたのです。ジュビロ磐田に籍を置きアンダー世代の日本代表にも名を連ねる小川航基選手をはじめ、ここ数年で中学や高校で全国大会へ出場した選手は12人もいます。
躍進の鍵は、末本さんらスタッフが自分たちの失敗を客観視する力を持っていたこと。3つのネガティブなポイントをきちんと受け止め、自分たちが変わることをいとわなかったのです。
末本さんは振り返ります。
「うまくいってなくて、その原因がわかったら、あとは変えることに全力を尽くせばいい。シンプルなんですけどね」
いやいや。そのシンプルが難しいのです。ですが、彼らの道のりが「変えるが勝ち」だということを教えてくれています。
