考える力
孤高の天才、中田英寿がイタリアで活躍できた理由、ハリル監督解任の理由でもある「コミュニケーション」とはいったい何なのか
公開:2018年5月 9日
「コミュニケーションが大事」
サッカーに関わらず、コミュニケーションの重要性は様々なスポーツにおいて認識されています。
では「コミュニケーションとは何か?」と問われた時、どのように答えたらいいのでしょうか。
定義があいまいな分、その認識は人によって異なるのではないでしょうか。辞書では言語、身ぶりなどを媒介手段とした精神的交流のこと、と説明されています。しかし、ただ言葉を伝えるだけでは、「コミュニケーション」は成り立っているとは言えません。
本当の「コミュニケーション」とは何か。つくば言語技術教育研究所の三森ゆりか先生に話を伺いました。(取材・文:原山裕平)
(C)新井賢一
■コミュニケーションとは単なる言葉のやり取りではない
「コミュニケーションは、相手が空っぽだと成立しない。相手に考える力がまずは必要なんです」
三森先生はコミュニケーションの大前提として「考える力」の必要性を指摘します。双方にその力がなければ、コミュニケーションは成立しないのです。
「その力をお互いに持ったうえで、相手の考えていることを引き出し合いながら会話していくことで、初めてコミュニケーションが成り立っていると言えます。単なる言葉のやり取りではなく、考えている事柄を共有し合う。そういうやり取りが深いコミュニケーションを生むのです」
たとえば、一方しか考えを持っていない場合はどうなるのか。三森先生は元日本代表の中田英寿選手のエピソードを用いて説明します。
「サッカーではパスがコミュニケーションと言えるでしょう。パス一本を通す時、出し手と受け手との間にコミュニケーションが成立していなければ、そのパスは通ることはありません。日本代表時代の中田選手の場合、そういったことが頻繁に起こりました。結果として中田選手のパスミスとして受け止められてしまいましたが、本当にそうだったでしょうか。考えを持ってパスを出していた中田選手に対し、受け手側は考えを持っていなかった。それではパスはつながりません。コミュニケーションも同じで、状況を共有し合いながらそれぞれが、自分はこう思うという考えを持つ。そういう環境を作りながら、きちんと言葉を交わし合っていくのがコミュニケーションなのです」
■ハリルホジッチが選手たちと上手くいっていないように見えたワケ
日本の選手たちは欧米の選手たちと比べ、そうしたコミュニケーションが上手くないという現状があります。三森先生は現フットサル日本代表監督のブルーノ・ガルシア氏の言葉を引用します。
「日本の選手たちは沈黙が支配している。頷いているだけで、本当に理解できているのか分からない。そこが解決されないと監督と選手の関係性は上手くいかない。ブルーノ・ガルシア監督は、そんなニュアンスで話していました。彼はスペイン人なのですが、何も聞いてこない日本の選手を理解しづらかったのでしょう。同じことはハリルホジッチ監督にも言えたのかもしれません。日本代表レベルでもそういう状況があるなかで、少年サッカーの現場でも同様の問題があるのではないでしょうか」
ヨーロッパでは、こうしたコミュニケーションが密にできているからこそ、サッカーの試合を見ていても、パスのスピードや連動性が日本とはまるで違うと三森先生は言います。
「ヨーロッパのサッカーを見ていれば、一方がボール持った瞬間に、別のエリアの選手が走り出す。そして別のエリアの選手も次のプレーを予測して準備している。それはお互いの考えを共有し合えているからこそできるプレーなのです」
日本代表では苦悩した中田選手が、イタリアでは名声を得られたのは、常日頃からコミュニケーションを深め合える環境にあったからと言えるかもしれません。
現在でも、長谷部誠選手や岡崎慎司選手、香川真司選手らは、それぞれが自分の考えを持ち、お互いの意見を言い合えるコミュニケーション文化のなかにアジャストできていえるからこそ、長くヨーロッパで活躍できている。三森先生はそのような見解を示しました。
サカイクキャンプ2018夏