勉強でもスポーツでも、日本では「専念したほうが成績が伸びる」と考えられがちです。保護者のみなさんが学生だった頃の価値観として、スポーツに専念している子の方が学業成績が低い、という意識が根強いのではないでしょうか。
しかし、近年では様々な調査結果からも、スポーツ活動をしている子の方が学業成績が良かったり、高校の中退率が低いことがわかっています。身体活動が脳のはたらきに良い影響を与えることを前回お伝えしました。
今回は、スポーツの中でもプレーの自由度が高いサッカーを射ている子はどうなのか、諸外国の調査結果をもとにご紹介します。(取材・文:谷口輝世子)
サッカーは自分で判断してプレーする競技/写真はワールドチャレンジ2018 (C)吉田孝光
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■認知力、判断力の高さはサッカーのレベルにも比例
サッカー選手は、頭が良いのでしょうか。または、サッカーをすることで頭がよくなるのでしょうか。
サッカー選手には、身体能力だけでなく、認知力が必要なことはよく知られていますよね。視覚や聴覚から、試合の状況という情報を取り入れ、自分の身体能力と照らし合わせて、どのようなプレーをすればベストなのかを判断し、行動に移さなければいけないスポーツです。しかも、できるだけ早く、瞬時に情報処理しながら、パフォーマンスすることが求められます。
2012年にスウェーデンの研究グループが、認知力のテスト結果は、サッカー選手として成功できるかどうかを予測する材料となると発表しました。
調査ではスウェーデンのサッカーリーグで上位リーグ、下位リーグ、そして一般人の実行機能(executive functions)を調べました。実行機能の定義は以下です。
「計画性を持ち、状況の変化を受け止め、臨機応変な対応をして、目標を達成するという一連を操り、日常的な問題解決に不可欠な能力」
必要とされているのは、先を見通しながら、状況の変化に応じて、目標を達成するというサッカーの試合には欠かせない能力です。
テストの結果は上位リーグ、下位リーグの選手の実行機能は、一般人を上回っていました。さらに上位リーグの選手の実行機能は、下位リーグ選手よりも上回っていた。それだけではありません。実行機能のテストで優れた結果を出した選手は、サッカーの試合でもゴール数やアシスト数でも良い結果を残していることも分かったといいます。
この調査では、実行機能が先天的なものか、訓練によって習得できるものかは示されていませんが、定義された「実行機能」は、サッカーのトレーニングの中で徐々に身についていくスキルでもあるので、ある程度は後天的に身につけられそうなのはポジティブな事ではないでしょうか。
■サッカーをやっている子の方が問題解決能力が高かった
イタリアの研究グループがサッカーの練習を行った子どもと、そうでなかった子どもの実行機能と、コーディネイティブスキル(バランス力、反応速度、調整力)を調査した報告があります。
子どもたちの平均年齢は8.8歳。半年間のサッカー練習を行う前と、行った後で実行機能と、コーディネイティブスキルがどのように変化しているかを調べ、6カ月後に、特にスポーツ活動をしていなかった子どもたちと比べました。
そうしたところ、半年間、サッカーの活動に参加した子どもは、そうでなかった子どもよりも、敏捷性、視空間作業記憶、注意力、計画力、抑制力が大きく伸びていることが分かったそうです。
作業記憶はさきほど紹介した実行機能(計画性を持ち、臨機応変に対応できる問題解決能力)の一つであると考えらえています。子どもたちの学習と作業記憶は関連していて、視空間作業記憶はイメージや絵といった情報の保持を担っている。また、注意力を自分でコントロールできることは視空間作業記憶だけでなく、言語的な作業記憶とも相互に関連しているそうです。つまり、視覚から得た情報を言葉にする力に結び付くのです。
この研究者たちは、スポーツ活動は楽しみながら認知スキルを向上させるものになり得ると結んでいます。実行機能を向上させるための活動は必ずしもサッカーである必要はありませんが、サッカーもまた、これらの能力を伸ばすことができるということです。
一方、オランダのフローニンゲン大の研究グループは12歳から16歳のエリートユースサッカー選手と、一般的な生徒の自分で自分を統制する力を調べています。そして、エリートサッカー選手のほうが、一般的な生徒に比べて自分を自分で統制する力が高いことが分かったそうです。
この研究によると、エリートサッカー選手は、自己をモニターする力(客観的に分析する力)、評価する力、省察する力、努力する力をより使っていることが分かったそうで、こういった力は競技サッカーや学業に欠くことができないものかもしれない、と研究者たちはまとめています。
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