考える力
セレクションもないのにJリーグ育成組織より強い街クラブ「ジュネッス大阪FC」が、人間性教育に力を入れるようになったキッカケ
公開:2019年8月27日
普通の街クラブながらも、昨年度はJFAバーモントカップで初出場ながらも日本一を達成。全日本U-12サッカー選手権大会でも準優勝したのが「大阪市ジュネッスFC」です。清水亮監督へのインタビュー前編では、試合への挑み方の使い分けと楽しいだけではない指導法について紹介しましたが、後編ではジュネッス流の起用法や子どもとの接し方を紹介します。
(取材・文:森田将義)
<<前編:「チームプレーができない選手は個人でも活躍できない」Jのアカデミーを下して日本一、Jリーグ育成組織より強い街クラブが行う育成とは
■ピッチ内外で選手を観察し、個々との対話を重ねることが大事
指導者として輝かしい経歴を持つ清水監督ですが、一般の仕事をしながら指導を行っているため、持っている指導者ライセンスはD級ライセンスのみ。他の指導者とは違う独自の指導法や考え方を持った指導者と言えるかもしれません。特徴的なのは選手の性格を参考にしたポジションの決め方です。
小学4年生までは戦術も与えず、ポジションも固定しない状態で選手が自由にプレー。小学校高学年を担当する清水監督はベンチ外から試合をチェックして、5年生になったタイミングで選手の適性だと感じたポジションで起用します。
「真面目でコツコツ頑張れるタイプはDF。本能のままプレーできたり、負けん気が強いタイプはFW。頭が良いタイプや冷静にプレーできる大人しいタイプはMF。MFは感情的にプレーすると試合が乱れるので感情の起伏が顔に出ないタイプが大事」
こうした起用をするためにはピッチ外も含めて、選手の細かな部分まで観察しなければいけません。清水監督がサッカーだけでなく、人間性も大事だと気付いたのは2013年度に全日本U‐12サッカー選手権大会に初出場した翌年からでした。
大阪府内のあらゆるタイトルを獲得した先輩たちとは違い、良い選手が揃いながらも結果が残せなかった翌年の代は親御さんや子どもたちとの距離感を感じ、マネージメントに悩んだ結果、「子どもたちにサッカーだけを教えていてはいけない」という結論に至り、今まで以上に選手と対話を重ねるようになりました。
もちろん、ただ話すのではなく内容はタイミングによって使い分けています。練習前後や試合の合間の休み時間はサッカーの話をすると子どもたちがしんどくなるため他愛もない話が中心ですが、試合前後はサッカーに関する話をみっちりします。最近はゲーム内容が悪い時や、チームとして結果が出ない時にどう動けたか振り返るように促しているそうです。
「チームが良い時に良いプレーできるのは当たり前で、チームが苦しい時の言動や行動が大事。ミスした選手ほど声を出さないとチームが盛り上がらない。野球と違ってサッカーはミスを取り返すチャンスがたくさんあります。ボールを持っていなくても走りで得点に貢献できるかもしれないのに、下を向いているのは勿体ない。子どもは構って欲しいため、『俺のミスで失点した』などと落ち込みがちですが、そういう時こそ気持ちを切り替えるのが大事なのです」。
■どこに行っても重宝される選手の育成
指導の細部まで拘る清水さんが理想とする指導者像は特徴を持った指導者で、「その人の色が出ているのが良い指導者だと思います。指導者の色が子どもに伝わり、選手の色になる」と話します。大阪市のトレセンの選考会では「○○のチームの選手」という主観が入らないようにするため、チームジャージでの参加が禁止されています。子どもたちが自前の服でプレーをしても、スタッフがパッとプレーを見るだけで「ジュネッスの選手だ」と分かって貰えるのが嬉しいと清水監督は笑います。
「この指導者に教えられたいと思って、チームを選ぶ。それなら、責任を持って指導者が自分の色を出さないとチームの存在意義がないと思っています」
では、どういったスタイルがジュネッスらしさなのでしょうか? そう質問すると、清水監督は「ちょい悪サッカー」と評します。チームの色を出すのは大事ですが、色を出しすぎると次のカテゴリーで違ったサッカーをしていると苦しむケースも珍しくありません。どこのチームに行っても重宝される選手の育成がジュネッスのモットーで、ちょい悪の"ちょい"の部分が重要なのです。
具体的な技術を挙げると、個人でボールを保持できる技術、動きながらボールを止めて・蹴る技術、周りの指示を参考にして自らが判断する頭脳、できるだけ前を向く姿勢の4つがジュネッスらしい選手の特徴です。
■指示通りに動くことが「良い判断」なのか?
中でも特徴的なのは周りの指示を参考にして、自らが判断できる頭脳でしょうか。
例えば、中央でボールを持った状況でサイドにフリーの選手がいるとベンチやチームメイトからサイドへのパスを要求されますが、指示通りパスするのはジュネッスらしいプレーと言えません。
「周囲に指示されたからと言って、相手も含めてピッチにいる全員がそこにパスが出るだろうと思われている場所にパスを出すのはきちんと状況を判断できていない。指示の声を囮にして、違う所にパスを出せるくらいの判断をして欲しい」と清水監督は口にします。
前編でもお話したように、セレクションもなく普段の練習場所はフルサイズのコートが取れない学校のグラウンド。それでも恵まれた環境のJクラブと互角以上に戦えるジュネッス大阪の選手たち。試合中のプレー判断もですが、ジュネッスの奥義として清水監督が挙げる、ボールを持った状態で相手にとられないようにターンをする動き(有名選手では、元バルセロナのシャビ選手や今季レアル・マドリードに移籍したアザール選手が見せるターン)も含めて、ジュニア年代で身につけておくべき技術かもしれません。
このプレーは、相手がボールを取りに来た時にクルッとターンしてボールをキープする技で、試合の中でとても役に立ちます。
少しの工夫でできるジュネッス流の"ちょい悪"フットボールをお子さんも参考にしてみてはいかがでしょうか?
<<前編:「チームプレーができない選手は個人でも活躍できない」Jのアカデミーを下して日本一、Jリーグ育成組織より強い街クラブが行う育成とは
清水亮(しみず・りょう)
大阪市ジュネッスFC副代表/ジュニア監督
チームとして「スポーツ、サッカーは本来楽しいものであるべき」、「高い技術を持ち、個性豊かな自分自身の意図、判断、工夫でプレーできる選手を育てること」を指導方針に掲げ、サッカーの楽しさ、おもしろさから入って、年齢、技術、体力の向上に伴ってより本格的なトレーニングを実施している。