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ケンカ体験が問題解決力につながる。サッカーでの対立を通して「折り合いをつける」力を身につける伊勢原フォレストの指導法

公開:2020年4月28日

キーワード:いいとこメガネケンカ体験コミュニケーションフニーニョ伊勢原FCフォレスト作戦会議問題解決対話

神奈川県伊勢原市で活動する『伊勢原FCフォレスト』は、子どもたちの自主性を尊重しているクラブです。「フォレストカップ」という、試合運営や審判を子どもたちだけで行う大会を開催するなど、様々な試みで成長へと導いていきます。

自主性、主体性を育む指導の中では、自由な発想や意見の対立も大事にしています。子ども同士のケンカに注意を払っているチームも少なくないと思いますが、どうして伊勢原フォレストでは対立を大事と捉えているのか、クラブの代表を務める一場哲宏さんに伺いました。

(取材・文:鈴木智之)

 

<<前編:足元の技術があるだけじゃダメ、サッカーにおいて不可欠な「対話力」を育てるために大人が気を付けること

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ささいな対立でも、子どもたちが自分の意見を言い合って落としどころを探るチャンスなのです。それが問題解決力につながります

 

 

■ケンカするのは悪いことではない

伊勢原FCフォレストの一場哲宏監督は、前回の記事で紹介した『作戦会議』『いいとこメガネ』などの様々な仕掛けを通じて、「自分の意見を言う力」「問題を解決する力」などを身につけていってほしいという想いを持っています。

「子どもたちが大人になるにつれて、自分の意見を言うことや相手の考えを聞いて『じゃあどうする?』と折り合いをつける力は、とても大切な能力だと思います。そこで、お互いの意見を言い合う中で、ケンカに発展してしまうことがあります。とくに、自分の思いや考えを言葉にするのが難しい幼児や小学校1年生は、言葉にすることができず、手が出てしまったり......ということがあります」

子どもたちが言い争いをしたり、取っ組み合いのケンカに発展した場合、多くの大人は止めさせようと仲介に入ります。しかし、一場監督は「ケンカをするのは悪いことではない」と感じているそうです。

「うちの子達はケンカはOKにしています。幼稚園や保育園、学校の中では、ケンカが起きると、とりあえずやめさせる。争いが起こった時に、じゃんけんなどで解決させるといった対応をとることも多いそうですが、それは根本的な解決にはならないと思います」

子どもたちが集まってサッカーをしていると、意見や感情の行き違いが生じることがあります。それがエスカレートするとケンカに発展することもありますが、伊勢原FCフォレストではケンカを止めず、サッカーグラウンドの外を「ケンカゾーン」と決めて、そこでケンカをさせるそうです。

「ケンカをすると、口だけではなく手や足が出ることもあるのですが、そこでお互いに納得するまでやりあいます。それをコーチが近くで見ています。あまりにエスカレートすると止めることもありますが、基本的には子どもたち同士で、納得がいくまでやりなさいという形です」

 

■子どもたち同士で落とし所を見つける、対立は解決策を見つけ出すチャンス

安全に配慮した上で、あえてケンカをさせる。その狙いを、一場監督は次のように話します。

「たとえば、ケンカになりそうな雰囲気を察して、コーチが止めに入ることもあると思いますが、それだと子どもたちの心の中にわだかまりが残りますよね。そこでケンカを止めたとしても、表面的な解決にしかならないので、まずは言い合いをさせます。その代わり、グラウンドとケンカゾーンの境界線を決めておいて、『ここから先は、真剣にサッカーをする子たちがいる場所だから、ここの外で思いっきりやりなさい。ケンカをしてお互いのわだかまりがなくなったら、グラウンドに戻ってきてね』と言います」

伊勢原FCフォレストでは、揉め事が収まり、互いにサッカーをする心と身体の準備ができたら、グラウンドへと入ることができます。握手やハグなど仲直りの方法をいくつか用意して、その中から当人たちが2つ選んでチームメイトの前で実践し、「仲直りした」と認めてもらったらサッカーのエリアに戻れるのだと教えてくれました。

小学校2年生より上の年齢であれば、言葉で自分の気持を伝えることができますが、幼児や1年生の場合はそうも行きません。口で表現できないから手が出て、取っ組み合いのケンカになることもあるそうです。

「そういう場合はコーチが近くで見ていて、『こういうことを言いたかったのかな?』と助け舟を出すこともあります。ただ、小学校2、3年生になると、子どもたち同士で落とし所をみつけて、お互いに『ごめん』と言って仲直りすることがほとんどです。ケンカしたことで、以前より仲良くなる場合もあります。だから、一概にケンカをするのがすべていけないかとうと、そうでもないと思うんです」

サッカー中のケンカというと「パスをしない」「自分ばっかり狙う」「足を踏んだ」など、ささいなことです。

「大人からすると、しょうもないことでケンカしてるなと思うのですが、子どもは真剣です。意見のすれ違いが起きたときは、互いに話をして、解決策を見出すチャンスです。そのやり取りから学ぶことは多いですよね。でもいまは何でも大人が先回りして、止めてしまいます。子どもたちが学ぶ場を、奪ってしまってはいけないと思うんです」

一場監督は保護者にも「子どもたち同士のケンカは大切」と、事あるごとに言っているそうです。

「だから、ケンカがあったとしても、その子の保護者が私や他のコーチに苦情を言ってくることはありません。というのも、ケンカが起きたときは、その子の保護者に連絡をして『今日の練習でこういうことがありましたが、お互いに意見を言い合って、解決しました』と報告をするからです」

ケンカの大切を保護者に伝えることで、チームとの間に共通理解ができます。「ケンカから学ぶことができる。何かに気がつくチャンス」という考えを共有していれば、コーチも保護者も気を揉む必要はありません。

 

■ケンカしたことを怒るのではなく、自分で解決したことを褒めて

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伊勢原フォレストではキャプテンを当番制にして、自分の意見を言うこと、周りの意見を聞いてまとめることを習慣にしています

「最初は口論から始まって、手が出てしまうこともあるのですが、高学年になると口が立ってくるので、ある程度口で言えばわかります。どれぐらい言ってもいいのかという加減も、学年が上がればわかるようになりますし、感情のコントロールもできます。なので、保護者のみなさんには『ケンカしたからといって、お子さんを怒らないでくださいね』と言っています。そこは子どもとコーチとで解決していることです。それに対して、保護者が上から目線で『なんでケンカしたの!』と言うのはやめてくださいねと。むしろ、ちゃんと解決できたことを褒めてあげてほしいです」

ケンカに対して、どう向き合えばいいんだろう?  と悩んでいるコーチや保護者の方は、一場監督の考えを参考にしてみてはいかがでしょうか。大人が先回りして、子どもが成長する機会を奪わないようにすることは、どんな場面でも大事なことだと言えるでしょう。

 

 

<<前編:足元の技術があるだけじゃダメ、サッカーにおいて不可欠な「対話力」を育てるために大人が気を付けること

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一場哲宏(いちば・てつひろ)
伊勢原FCフォレスト代表。
日本体育大学に進学後、ドイツ・ケルン体育大学にて交換留学生として4年間サッカーの指導法を学ぶ。ケルンの街クラブで5・6才カテゴリーの監督の他、イギリスや湘南ベルマーレなど国内外で指導に携わる。 2019年4月から一般社団法人伊勢原FCフォレスト代表理事と保育専門学校講師として活動中。独・英・Jクラブで確立したサッカーを通して『人間力』も養う【4ステップ理論】を提供。

保有資格は、日本サッカー協会公認指導者ライセンスB級、日本サッカー協会公認キッズリーダーインストラクター、日本キッズコーチング協会公認エキスパート、幼稚園教諭一種保育士

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取材・文:鈴木智之

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