考える力
「なんでも書いて」ではかえって書けない。しつもんに答えるサッカーノートが書き続けられる理由
公開:2021年4月28日
サッカーの上達に欠かすことのできないサッカーノート。サカイクでは「しつもんメンタルトレーニング」の藤代圭一さんとコラボレーションし「サカイクサッカーノート」を制作しました。サッカー少年・少女、保護者のみなさんまで、たくさんの方に使っていただき、好評を博しています。
今回はサカイクサッカーノートの生みの親である藤代さんと、サカイクキャンプでノートを導入している菊池コーチ、そして実際にノートを使っている子どもの保護者のみなさまに集まってもらい、オンラインで意見交換会を行いました。ノートを使っているみなさんは、どのようにしてお子さんの成長に役立てているのでしょうか?(取材・文/鈴木智之 写真/サカイク編集部)
■「なんでも書いて」だと書きづらい。しつもんで考える道筋をたてる
藤代さんはまず「この1年間コロナ禍で、スポーツができることだけでも、すごく幸せで価値あるものなんだと感じました」とあいさつをし、「本日のオンラインイベントが終わったときに、どうなっていったら最高ですか?」と参加者のみなさんにしつもんをします。
サカイクでは「考えること」「リーダーシップ」「感謝の心」「チャレンジ」「コミュニケーション」の5つをライフスキルと定義し、サカイクキャンプでは、これらを育むために指導を行っています。参加者のみなさんも5つのライフスキルをもとに、オンラインでディスカッションをしていきました。
さらに藤代さんは、サカイクサッカーノートを作った背景に言及し「できるだけ、子どもたちが自ら考えて、決断して行動する機会を用意してあげたい」という想いから、サッカーノートに書き込むしつもんと構成を考えていったと話します。
サカイクキャンプでサッカーノートを書く子どもたち
「これまでも、サッカーノートを書いている子はたくさんいましたが、思考の枠組みがない中で、白紙のノートを渡して『なんでもいいから書いてみて』と言われても、書けない子がたくさんいました。ほかにも、『書いた内容に対して、コーチに怒られる』『誤字など、サッカーとは関係ないところで評価される』といった声もよく耳にしました。」
子どもたちは、なにをどう書いていいかがわからないので、しつもんを用意して、それに答える形であれば思考の筋道も立てやすく、書きやすいのではないかと考えたそうです。
そのようにして、あらかじめしつもんが書いてあるノートにしたところ、「書く量が増えたり、継続的に書けたり、より具体的に書けたりできる子が増えた」と言います。
■ノートを書き続けることで小さな成長を積み重ねられる
「ただ、続けられる子と続けられない子がいて、ひとりでノートを書いている子は続けるのが難しい傾向にあります。子どものうちは、物事をひとりで習慣化するのは難しいので、家族やコーチ、チームメイトとの関わり合いがある子は、続けやすいことがわかりました」
そのことから、チームメイトや保護者、コーチとコミュニケーションをとれるようにコメント欄を設けるなどの工夫をしたそうです。藤代さんは言います。
サカイクサッカーノートを通じてコミュニケーションがとれる
「ノートを書き続けることで、自分を表現することに自信を持てるようになったとか、学校生活で、自分から手を挙げられるようになったとか、他の子が書いた内容を聞くことで、人の話を最後まで聞けるようになったとか、小さな成長が積み重なっていくと、サッカーの試合でもより充実した時間をすごし、勝利などの結果もついてくるようになりました」
■しつもんに答えることで、初めて子どもの大きな夢を知ることができた
ここからは、参加者の声を紹介します。あるお父さんからは、次のような意見が寄せられました。
サカイクサッカーノートの紙面
「最初は白紙のノートを使っていましたが、書くのが難しく、箇条書きや1行だけになってしまっていました。その日で完結するのではなく、後々、読み返して、このときはこんなことを考えて取り組んでいて、結果どうなったのかを見返せるようなものを探していたところ、サカイクサッカーノートに出会いました」
さらに、こう続けます。
「ノートの最初に『将来どうなりたいか』『そのためには、何をしたほうがいいか』という項目があるのですが、子どものノートを見ると『FC東京に入りたい』と書いてありました。それを見て初めて、大きい夢を持ってるんだ、そこに向かって頑張ろうと思っているんだなと感じて、うれしかったですね」
藤代さんは「僕たちが想像していない子どもの言葉、表現に出会ったときって、うれしくなりますよね」と笑顔を見せます。
■そもそも人間は続けられない生き物。どうすれば楽しく続けられるかを考える
ほかにも、ある保護者の方からは、こんな意見が飛び出しました。
「うちの子は地域の強豪チームに移籍したのですが、周りがみんな上手で、試合に出る機会があまりありませんでした。試合に出るためには、自分の武器はなにか、どこをアピールすればいいかなどを考えなければいけないので、サッカーノートを書くことで、考える力をつけてほしいと思いました」
サカイクサッカーノートを書くことで「毎朝、練習をする」と目標が決まり、短い時間でも欠かさずするようになったそうです。藤代さんはその報告を聞いて、次のように話します。
「そもそも、『人間は続けられない生き物だ』と認識しておくことが大事だと思います。ノートにしても練習にしても、続けることを前提とすると、続けられないことに対して怒りが生まれるんですよね」
たしかに、「なんで今日はやらないの?」と言われたこと、言ったことのある人は多いのではないでしょうか。
「人間はそもそも続けられない生き物なので、『どうすればもっと楽しく続けられるだろう』『続けられるためにはどうしたらいいだろう』と考えることが大切で、とくにお子さんの場合は自分で考えて継続するのが難しいので、お父さん、お母さんが一緒になって考える機会があるといいと思います」
藤代さんは「サッカーノートを継続できているお子さんの場合、お父さんお母さんも今日1日の目標を朝5分でもいいから考えて、お子さんと一緒に書いてみるといったように、一緒にやっているご家庭は上手くいっている印象があります」とアドバイスを送ります。
「子どもたちがやることを、僕たち大人も一緒にやってみるのもいいですよね。ノートを使って、子どもとより良い関係性を作ることができたら、僕としても幸せだなと思います」
サカイクキャンプではコーチと子どもたちがコミュニケーションをとりながら進めている
春から新しい学年がスタートし、課題や取り組むべきことがみつかるこの時期。さらにレベルアップするために、サッカーノートを取り入れてみてはいかがでしょうか? きっとお子さんの成長をサポートしてくれることでしょう。
藤代圭一(ふじしろ・けいいち)
一般社団法人スポーツリレーションシップ協会代表理事。教えるのではなく問いかけることでやる気を引き出し、考える力を育む『しつもんメンタルトレーニング』を考案。全国優勝チームや日本代表選手など様々なジャンルのメンタルコーチをつとめる。2016年より全国各地に協会認定インストラクターを養成。その数は350名を超える。選手に「やらせる」のではなく「やりたくなる」動機付けを得意とする。新刊に「教えない指導」(東洋館出版)がある。