あなたは、お子さんのサッカーの試合を応援中、レフェリーの判定が間違っていると文句をつけたことはありませんか?
「おいおい、いまのはファールだろ⁉」
「ライン出てない⁉ マイボールでしょ」
このような審判への文句を、試合をしている子どもたちはどのように受け取るでしょうか。今回は、サッカー日本代表が戦うワールドカップアジア最終予選で起きた誤審を例にとり、レフェリーの判定ミスを追求することで失われるものや、子どもの成長の妨げとなる要因をお伝えします。(取材・文 石井紘人)
■レフェリーのミスを追及することで気づかなくなる問題点
FIFAワールドカップ2018ロシア大会アジア最終予選が始まりました。
日本代表は、初戦となったホームのUAE戦を1-2で落としてしまい、「ワールドカップアジア最終予選が現行方式になった1998フランス大会以降、初戦が黒星だったチームはすべて予選敗退に終わっている」という嫌なジンクスを背負いながらワールドカップ出場を目指さなければいけなくなりました。
そんな苦しいスタートになった原因はどこにあるのでしょうか?
UAE戦後、多くの日本人が審判団をやり玉にあげました。一理あると思います。私もFootBallRefereeJournalに記したように、この試合の77分に放った浅野拓磨のシュートはゴールラインを割っており、得点を認めるべきだと思います。しかし、ゴールラインを割った瞬間にゴールキーパーがかきだしたため、審判団は得点を見極められませんでした。誤審であり、プロの試合である以上、審判団が批判されるのは当然です。ですが、それだけが論点でしょうか。日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が試合後に認めたように「デュエル(1対1の競り合い)に勝てなかった。4回、5回のうち1回は勝つ必要があった」ことが負けた主要因ではないでしょうか(起因している戦術的要因は本題ではないので省きます)。本来議論しなければいけないピッチで起きていたことが、誤審を敗因とした周囲の声でかき消されてしまいました。
それが進歩を止めることは史実が物語っています。
FIFAコンフェデレーションズカップ2003のフランス代表戦で、日本代表はホールディングでPKをとられました。いま冷静にリプレイを見ると、腕を使っていたのはあきらかですが、当時は『フランス選手のシミュレーションだよ』という声が多数でした。そして、遅れること7年。2010年からJリーグは日本サッカー協会技術委員会と審判委員会が一体となってホールディング撲滅に取り組みます。もちろん、UAE戦とはケースは違います。しかし、UAE戦の敗因でもあるデュエルは、つづくタイ戦、イラク戦で改善されたとは言えません。
■レフェリーへの批判が育成年代に及ぼす悪影響
さて、皆さんは、お子さんにどのようなサッカー選手になってほしいですか?
近年の日本代表監督は、「インテンシティ」「デュエル」などタフな選手を求めています。そういった背景もあってか、各サッカー誌は歴代最高の日本人選手として中田英寿氏を挙げています。その中田氏の著書『nakata.net2003』(新潮社)に興味深い記述がありました。先述したフランス戦について「(判定に)疑問に思うこともある。しかし、俺としては主審がどんな判定をしようが、出来れば何の抗議もしないでスムーズに試合を進めることに集中したいと思う。(昨日もちょっと抗議したけど、実は周りに促されてなんだよね苦笑)やはり、レフェリーも人間。間違えるときもある。と、こんな話を出したのは、別にPKが間違った判定だったと言いたいわけではなくて、みんなに、とにかく試合に集中しようと言いたかっただけ」と振り返っています。
さらに、「文句を言って、それで判定が覆るのなら(抗議も)ありかもしれないが、残念ながらサッカーの判定は絶対に変わることはない。主審に対して文句を言うことはただの時間の無駄だと思う」とも断言しています。
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取材・文 石井紘人