運動能力
【第1回】子どもに間違ったトレーニングをさせていませんか?U12世代のフィジカルトレーニング
公開:2010年12月 6日 更新:2023年6月30日
もっと速く走れるように。もっとキック力がつくように。もっと当たり負けしないように。その「もっと」という気持ち、よくわかります。
負けて悔し涙を流すこどもの姿を見れば「もっと」鍛えてやりたくなるでしょう。しかし、筋肉や体幹といったフィジカルトレーニングは、やり方を間違えると効果がないばかりかケガをさせてしまうこともあります。
そこで、日本陸上競技連盟育成・普及委員、そして日本サッカー協会フィジカルプロジェクト委員でもある立教大学の沼澤秀雄教授に、U12世代のフィジカルトレーニングについてうかがってみました。
「まず、筋トレについてですが、U12世代は発育発達の第2次成長以前であるので、筋肉を中心に考えるべきではありません。日本陸連の陸上競技教本U12では、"発育発達とスポーツ"という章で、プレゴールデンエイジ(5?8歳)、ゴールデンエイジ(9?12歳)では、筋系より神経系の配列をできるだけたくさん作っておくことを強調しています。
U12世代では、筋に刺激を入れても成長ホルモンが出にくく筋肉を肥大させることはむずかしいので、さまざまなスポーツを行ったり、さまざまな動きをしたり、いろいろな刺激を与えることでいろいろなパターンの神経刺激を経験させるということです。
ところで、筋肉の発達は男性ホルモンの影響が大きく、思春期とともにはじまります。したがって筋肉トレーニングは14~18歳から、筋持久力は13~14歳からはじめるのがよいとされています。しかし身長を伸ばすシステムである"骨端線(こったんせん)"の消失が16~17歳ごろなので、強力な筋トレはそれ以降がよいと言われています。
また、一般的には、呼吸機能は18歳ごろ、心肺機能(全身持久力)を支える循環機能は25歳ごろにピークを迎えます。一方、神経系の発育は生後5カ月ころからはじまり、幼児期から全身を動かすことによって大脳中枢の運動野で神経回路がつながり、いわゆる"運動神経"が発達します。
しかし、その発達は10歳前後で止まってしまうと言われています。この運動能力のベースとも言うべき"神経系"は、U12の時期にしか発育しない重要なトレーニング項目と言えるでしょう」
沼澤秀雄先生//
立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科教授、日本陸上競技連盟育成・普及委員、日本サッカー協会フィジカルプロジェクト委員。生理学的な指標を用いてスポーツ選手の競技力向上をテーマにして研究を行っている。三菱浦和フットボールクラブ(浦和レッズ)のフィジカルコーチを務めた経験も持つ