おいしい食事を食べて健康を促進するためにはもちろん、サッカーやほかのスポーツのパフォーマンス向上にも歯の健康は大切です。
ジュニア年代の歯と口腔の状態としては、「生え変わりの時期」であります。個人差はありますが、多くの子どもが小学生年代に乳歯から永久歯に生え変わります。
保護者の中には、生え変わる乳歯より永久歯が大事。そんな風に考えている人もいらっしゃるのではないでしょうか。でも、乳歯がむし歯になると、永久歯にも影響が出るのだそうです。
これからずっと付き合っていかなければいけない永久歯に悪い影響が出てしまうと、口腔内の健康が保たれず、痛みや違和感があるとスポーツのパフォーマンスも低下してしまいます。
前回に引き続き、東京医科歯科大学歯学部附属病院小児歯科外来にてジュニア世代の歯と口の病気の予防と治療を行い、正常な機能の育成に携わる宮新美智世先生にお話しを聞きました。(取材・文:前田陽子)
■きれいな永久歯のために、乳歯を大切にする
乳歯から永久歯に生え変わるのは、個人差があるもののおおよそ8歳から12歳のちょうど小学生時代だそう。歯がない状態では、力が入らなくてパフォーマンスが低下しないかと心配してしまいますが、子どもたちにとっては生理的な変化には日々対応できていて、永久歯の前歯と奥歯と残りの乳歯でバランスをとっており、これらの歯が健全ならば、この時期に特に問題は生じないそうです。
ただし、歯がグラグラしてきて、本人が気持ち悪いと感じたら、毎日揺らして少しずつはずしていくか、歯医者で抜いてもらったほうがいいそうです。医療的知識のない親御さんが無理やり抜くのは、かえって痛い思いをさせる危険性がありNGです。折れてきれいに抜けない場合もあります。乳歯が抜けてから、永久歯が生えるまでの期間は千差万別。場所によっては永久歯が生えるまでに1年以上かかる場合もあるそうなので、時間がたっても生えてこないと心配になったら、歯医者さんでレントゲンを撮ってもらいましょう。レントゲンで、現在の永久歯の位置と育ち具合を知ることができれば、歯の生える時期も予想でき、安心できます。
時期がきて、自然に乳歯が抜けるのは問題ありませんが、し歯やケガで歯が欠けてしてしまった場合は、直ちに歯のあった空間を保つ治療(保隙、ほげき)をしておかないと歯並びに影響が出るのだそうです。乳歯は生え変わるから、むし歯になっても放置していい、などと考えてはいけません。治療をしないと永久歯がが醜い形になったり、生える場所がなくなってしまったりと、大人になってから後悔することになりかねません。
また、ケガなどで歯を欠損した場合も同様です。親が見ても歯が欠けたり揺れている場合は、かなり治療が必要だと言う意味だと宮新先生。歯科的な見地としては、子どもの歯は1㎜かけても相当なダメージがあるのだそうです。欠損した歯が永久歯だったとしても、子どもの歯は大人に比べ薄く脆いので、歯の中が割れてしまうこともあります。
さらに、ケガの場合はしばらく時間がかかってから、歯の中で神経が死んで歯が黒くなる、歯の根っこが腐ってきたりする危険性もあるのだそうです。ボディコンタクトの多いスポーツでは、マウスガード(マウスピース)で歯と口腔内を守る事も大切だと教えてくれました。万が一マウスガードを付けた状態で口の中のケガをした場合は、あわててマウスガードを外すと、歯が抜けたり折れた歯が散乱することがあります。はずさずに歯科医へ連れて行った方がいいのだそうです。
時間が経ってからケガの影響が表面化することもあるので、1年くらいは定期的に歯科に通って経過観察してもらうといいでしょう。
■かかりつけの歯医者さんを持とう
歯の健康のために毎日していることと言えば、歯磨きです。
「名のある国産メーカーから発売されている歯ブラシや歯磨きペーストはどれも優秀。子ども用の歯磨きペーストは適切なフッ素入りでお勧めできます。が、問題はそれらを正しく使えるかどうかです」と宮新先生。市販されているものを、有効に使って効果ある歯磨きをすることが重要なのだそうです。
「食後に歯磨きをすれば大丈夫」なのではありません。学校などで歯磨き指導を受けるので、できるつもりでいる人は多いのですが、実際には効果のある歯磨きを身につけるには、適切な指導を回数かけて受けることが大切です。特に成長変化に合わせた指導を受けて、自身の現状に合わせた磨き方へと進化させるためにプロの指導を利用するのがお勧めです。
毎日の歯磨きで汚れがきれいに取れれば、むし歯の心配もいりません。しかし、2日以上歯にこびりついた汚れを自分の歯磨きで除去するのは難しいそうです。歯医者さんに行って、クリーニングしてもらうと同時に、歯磨きできなかった部分を磨く方法を習うことが大切です。野球のイチロー選手は1日5回の歯磨きと定期的な歯科医院通院で歯を守っているそうです。
そして、口に入れるものに気を使うこと。果汁100%ジュースにも砂糖は多く添加されています。スポーツドリンクやジュース、ヨーグルト(加糖)をとれば、歯垢の中に住むむし歯菌に栄養を与え、歯の隙間に汚れがたまり込みます。砂糖が歯によくないことは周知の事実ですから、ジュースよりお水や牛乳です。果糖もむし歯をつくります。しかし、りんごは食物繊維を多く含むので果実をそのまま食べるなら、歯の掃除もしてくれるのだそう。ジュースだと食物繊維が取り除かれその効果はなくなるので、果物を食べるならそのままで。間食はお菓子やジュースにせず、おにぎりやバナナ、牛乳やむぎ茶がお勧めです。パンの殆どには砂糖がはいり、緑茶はカフェインが多いので、ジュニア世代はご注意を。
むし歯のあるなしにかかわらず、定期的に通えるかかりつけの歯医者さんを持つことは、とても大切なことだと宮新先生は言います。「子どもをたくさん診ている、幼児歯科の先生がいいですね。事例もたくさんご存知ですし、歯ブラシ、歯磨きペーストの選び方や使い方、食事のことも教えてもらえます」
今は機械の音も静かになって、親世代のころに比べると歯医者さんも怖いものではなくなっています。子どもに合った歯磨きの仕方や、矯正の方法、時期などを気軽に聞ける歯医者を持つことは、良いこと以外何もありません。日本小児歯科医学会のHPなどで子どもの歯について詳しい歯医者を見つけることができるので、ぜひ、お近くの歯医者さんを探してみましょう。
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文:前田陽子