今年も猛暑の夏となりましたね。この暑さで夏バテになる子どもたちも多く、食事量が減ったり、体力が落ちたりと、心配になる親御さんは多いはずです。サッカーの練習や試合で運動量が多いと思うとさらに不安になってしまいますよね。
夏バテ対策を正しく行うために、まずは夏バテについての基礎知識を心得ておきたいもの。
香川真司選手の管理栄養士であり、プロアスリートやサッカーチームを栄養面で長年サポートしてきた管理栄養士の吉村俊亮さんに「夏バテ」について伺いました。
(取材・文:小林博子)
■そもそも夏バテはどんな症状のこと?
そもそも夏バテとはどんな症状のことを指すのか聞いてみると、「夏バテには、実は明確な基準はありません」と意外なお答えが返ってきました。
そのため、「こうなったら夏バテです」と言い切ることは難しいのですが、夏バテには様々な症状があり、その中でも多くの人が経験したことがあるのは、以下の2つになるのではということです。
・食欲低下
・身体がだるくなる
多くの方が1度は、または毎年のように夏になると経験する症状ではないでしょうか。
明確な基準がないだけに迷うかもしれませんが、子どもが夏場に食欲が落ちて普段より食べない日が続いていたり、だるそうにしていたら夏バテと判断してよさそうです。
<夏バテのサイクル>
気温の上昇によって深部体温(身体の内部の体温)が上昇することで胃腸の機能が弱まり、食欲が低下する
↓
食欲低下により1日の食事の摂取量が少なくなることが続き、長期的なエネルギー不足に
↓
疲労回復が間に合わず、身体のだるさを強く感じる
↓
夏バテ
■夏バテ予防は熱中症対策にもつながる
「夏バテになっていると熱中症になりやすくなるのでは?」という懸念もありますね。実際のところ、「夏バテになるとそうでないときに比べて熱中症の危険性は高まる」と言えるそうです。熱中症に限らず、夏バテが続きコンディション不良の状態では、体調が万全のときよりさまざまなトラブルを起こしやすくなるものです。
熱中症は身体の中の水分量が低下して脱水状態になり、発熱やけいれん、意識障害などを起こしてしまう恐い症状です。予防法として有効なのは適切な水分摂取と言われています。
水分摂取というと、練習や試合前後に「飲む」イメージが強いものですが、実は「食べる」ことによる水分摂取も重要。汁物だけでなく、野菜や米、肉や魚などにも水分は含まれています。
そのため、夏バテによる食事量の低下は体内の水分量を減らし、身体が脱水状態になり、「熱中症のリスクが高い状態」につながってしまいかねません。
■夏バテ予防/夏バテからの回復のために摂りたい栄養素
せっかく食べるなら、夏バテ予防にもつながる食材や栄養を積極的に摂りたいですね。吉村さんに伺うと、夏場に意識して食べてほしい食材として下記をあげてくれました。
・柑橘類
・梅干し
これらには「クエン酸」が豊富に含まれます。クエン酸は疲労回復に一役かってくれる存在で、疲れやだるさを感じにくくするサポートをしてくれるのだそうです。
食欲が落ちがちな暑い日でも、レモンやグレープフルーツ、梅干し入りのおにぎりなどなら、さっぱりとしているので比較的食べられるという子どもも多いはずです。
■クエン酸の摂取は「練習後」
クエン酸を含む食材に関して1つだけ注意事項があると吉村さんは言います。それは、夏バテ予防のために積極的にたくさん摂取するなら、タイミングは練習「後」がベターということ。
理由は、クエン酸が「エネルギー代謝効率を低下させる」という作用を持ち、身体からエネルギーが発散されにくい状態にするからだそうです。
つまり身体が「省エネモード」になるので、「夏場の練習時、特に夏バテ予防を意識するとしたら摂取するタイミングに注意しましょう」とアドバイスをくれました。
■夏バテになりにくい子ども・選手の特徴
「うちの子は毎年夏バテになる」と悩む親御さんがいる一方で、「夏バテとは無縁」という子もいます。体質や生活習慣の違いからくるものなのでしょうか。
吉村さんは長年の経験から、「夏バテになりにくいのは"食べられる"子」に圧倒的に多いと言います。普段から食が細く、あまり食べられない子どもは、夏バテ予防を入念に行ったほうがよさそうです。
朝昼晩、3食すべてが大切ですが、特に注目したいのが朝食だそうです。朝食で水分や塩分、ミネラルを身体に蓄えた状態で1日のスタートができるかどうかに身体のコンディションが左右されるからです。
前述した熱中症のリスクのことも考えると、以下のような流れになるのです。
しっかり食べられる
↓
夏バテしにくい
↓
食べられるから食事で水分も摂取できている
↓
熱中症にもかかりにくい
食事の大切さがよくわかりますね。
■超簡単朝ごはん
そうはいっても、この暑さの中でしっかり食べさせることに苦心している親御さんはたくさんいるはず。特に時間に追われがちな朝ごはんをしっかり食べさせるというのは負担が大きいものです。
そんなお悩みを解決してくれる吉村さんおすすめの朝ごはんメニューがこちらです。
・ごはん 1膳
・納豆 1パック
・卵1個
・牛乳 1杯
・オレンジなど柑橘系フルーツジュース 1杯
「え? これだけでいいの?」とびっくりしますが、朝食で摂りたい栄養を理想のバランスで摂れるのだとか。火も包丁も使わずに5分で用意できるのもありがたいですよね。
なお、上記でだいたい500~600kcalになります。小学校高学年以上の子どもたちはご飯は山盛り(260g目安)にし、納豆は2パックにすると必要なエネルギー量を満たします。
まだまだ暑い日が続きます。夏バテのリスクは常に隣り合わせです。夏バテ知らずの夏になるよう、食事を少し工夫してみてください。
また、子どものサポートをする親御さんも炎天下のグラウンドで過ごすことが多いはず。夏バテにならないように子どもとともに食事を工夫してご自愛くださいね。
後編では、夏バテでどうしてもご飯を食べられないときはどうしたらいいのかを伺います。
吉村俊亮(よしむら・しゅんすけ)
株式会社AND-U代表取締役。管理栄養士、NSCA-CPT、フードスペシャリスト、サプリメントアドバイザー、AHA-BLS-HCP。2012年より栄養指導を開始、サッカーの香川真司など世界で活躍する多くのトップアスリートをサポートしている。