豊かな戦術眼と確かな技術を武器にジュビロ磐田の黄金時代を支え、日本代表としては背番号10を背負いフランスワールドカップにも出場。引退後は解説者として活躍する名波浩さんに、サッカーを"観る"ことの大切さを語ってもらいました。
聞き手・構成 篠幸彦
■選手に憧れてマネすることから始まる
――名波さんはジュニア年代からサッカーをプレーするだけではなく、観ることのメリットはどんなところにあると思いますか?
「これは何事にも共通して言えることだと思いますけど、最初はみんなモノマネから入ると思うんですよ。スタジアムだったり、テレビ観戦だったり、あるいはアニメという場合もある。そういったものから影響を受けて、見よう見まねでやってみたくなるのがジュニア年代だと思うんですよね」
――見よう見まねでやりたくなることで、子どもたちのプレーの影響はやはり大きいのでしょうか?
「その影響から自分がピッチに立ったときのイマジネーションが生まれてくると思うんですよ。だから子どもたちはいろいろなプレーの絵を見ているほうが想像力がより磨かれると思います。だからと言って、クリスチアーノ・ロナウドの無回転のフリーキックやディ・マリアのキレキレのドリブルを自分もやれるんだと、確信めいたものを持ったままピッチに立つのはなかなか難しい。ただ、そういった勘違いから始まる部分もあるので、子どもたちにはサッカー観戦を通して多くの一流のプレーに触れてほしいと思います。
――名波さんがジュニア時代にはどんなサッカーを観られてきましたか?
ぼくがサッカーにのめり込み始めたのが小学2年生の頃で、兄の試合をよく観に行ったのがスタートでした。3年生の頃には、ジュビロ磐田の前身である日本サッカーリーグのヤマハ(=ヤマハ発動機サッカー部)でプレーする叔父を持った友だちがいたので、その試合を観るためにヤマハスタジアムにもよく足を運んだり、同じ静岡の浜松を拠点にするホンダ(本田技研工業フットボールクラブ、現Honda FC)の試合もよく観ていました。
――その頃の思い出はありますか?
地元の藤枝にヤマハやホンダの選手がサッカー教室に来てくれたことがあったんですよ。それで「あのヤマハでプレーしている選手だ!」と憧れの目で見ていました。ただ、それは僕がヤマハやホンダの試合を観ていたからだと思うんですよね。そうでなければきっと「サッカーの上手い大人の人」くらいにしか思ってなかったと思います。僕は本当に夢中になって観ていたので「あのとき、あのフリーキックを決めた選手だ!」とすごく興奮したのを覚えているし、そういう憧れの対象になると子どもの見方は全然違いますよね。
――とくに影響を受けた選手はいたんですか?
ぼくはヤマハの試合をよく観ていたんですけど、ホンダに所属していたブラジル人のルイス・アントニオ・メシアスという選手が大好きでした。スピードはそれほどなかったんですけど、軟体な感じのドリブルで相手を抜いていくんですよね。彼だけ周りの選手とリズムが違って、「うわ、うめぇ」と釘付けになっていました。そのメシアス選手がサッカー教室で、ラボーナで30mくらいポンと軽く蹴っちゃったんですよ。もうその日からラボーナの練習ばかりしていました。
――名波さんもそういった憧れた選手のマネをして技術を磨いてきたんですね。
子どもの頃はやはり憧れから入って、マネをすることですね。ぼくは一番上手くなる秘訣はそれだと思います。結果的にそのプレーを完璧にできるようになった子どもが一流になってくるだろうし、そこからさらに自分のプレーを肉付けできる子どもは超一流になると思います。昔と比べてテレビ観戦の環境がずっと整っているので、そういった憧れのキッカケとなる量と質はだいぶ高まっているのではないでしょうか。さまざまな海外のリーグが観戦できるし、CSチャンネルでは他国の代表戦まで観ることができる。その環境は言葉ではちょっと表せないくらい非常に大きなことだと思います。子どもたちのレベルも必然的に上がっていきますよね。
聞き手・構成 篠幸彦