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どのように対戦相手を分析するの?『対戦相手を丸裸にするスカウティング術』3月27日国際親善試合で対戦するウクライナをスカウティング

公開:2018年3月26日 更新:2020年3月24日

ベルギーに遠征中の日本代表が27日、ウクライナと対戦します。今回の遠征は、W杯ロシア大会を控えた代表メンバー選考の場でもあり、グループリーグで対戦するチームを想定したテストマッチ。初戦となった「仮想セネガル」マリ戦を1対1のドローで終えた日本代表に注目が集まっています。
仮想○○、次の対戦相手の研究、スカウティングという言葉は、育成年代のサッカーの大会でも良く聞く言葉ですが、具体的にどんなことをしているのか知っている人は少ないかもしれません。オランダ・アヤックス/オランダ代表のユースカテゴリでアナリストを務める白井裕之さんに「仮想ポーランド」とされているウクライナを事前に分析していただきました。
写真 2018-03-19 19 38 58.jpg
今回ご紹介するのは、対戦相手を分析するスカウティングの基本中の基本なので、お父さんコーチはもちろん、子どもたちのサッカーをもっとわかるようになりたいというお母さん、スカウティングを自分のプレーに行かしたい選手の参考にもなるでしょう。
日本ではなかなか教えてもらうことのない「スカウティング」について、明日の日本代表がウクライナと「どう戦えばいいのか?」「どうすれば勝てるのか?」という視点でお届けします。(文:大塚一樹)


■仮想ポーランド、ウクライナをスカウティングで丸裸に

「スカウティングと聞くと、ベテランの監督や、サッカーをよく知っている人じゃないとダメなんじゃないか。そんな風に難しく考える人もいますよね。でも、決められたことをきちんとやっていかないと、いくらサッカーを見てもスカウティングができるようにはならないんです」
 日本では、大会前に対戦相手のビデオを見たり、実際の試合を偵察しにいったりすることを「スカウティング」と呼んでいますが、オランダでは、スカウティングにはしっかりした手順があると白井さんは言います。

「早速、ウクライナの分析をしてみましょうか」
 分析の対象は、日本にとって 「仮想・ポーランド」のウクライナがW杯欧州予選のホームでクロアチアと対戦した一戦です。
 パスを回しながらゴールに迫る戦略をとっているクロアチアは、日本と似ている点があるためこの試合を選んでスカウティングをしてもらいました。
「大切なのは、いつもスカウティングする相手と自分たちのチームを比較しながら試合を見ることです」

 白井さんにはビデオ映像を使った本格的なスカウティングをしてもらいましたが、ここではちょっと相手のことが見えるようになるというポイントだけをお伝えします。詳細な分析と対策については、ハリルホジッチ監督が必要としたときにお届けすることにしましょう。
 スカウティングを通じて詳細に分析するためにはサッカーの知識が必要不可欠ですが、今日はなるべく簡単に、手順を追ってスカウティングのポイントを伝えできればと思います。

「スカウティングの手順として、プロでもアマチュアでも、小学生年代でも必ずチェックしなければいけないのがチームオーガニゼーションの噛み合わせです」

 なんだか難しそうな「チームオーガニゼーション」という言葉が出てきましたが、これは、日本でいうシステムやフォーメーションのことです。オランダでは、システムやフォーメーションなど、さまざまな呼び名があることによる混乱を避けるために、選手の並びのことをチームオーガニゼーションと呼んでいます。

 この日のウクライナは、「1―4―4―2」のチームオーガニゼーション。対するクロアチアは日本代表がよく用いる「1―4―3―3」です。今回はクロアチアと日本代表のチームオーガニゼーションが同じですが、分析をする際は、頭の中で自チームのチームオーガニゼーションを重ね合わせて見る必要があります。

チームオーガニゼーション.jpg

■ウクライナの強みはどこ? 頻繁に起きる、特徴的なプレーで見分ける

「試合が始まったら、スカウティングするチームの特徴的なプレーを見分けることを徹底します。偶然起きているように見えるプレーでも同じようなシーンが何度も繰り替えされたり、決定的なチャンスになったり、ピンチになったりするプレーには、そのチームの強みや、弱みがあらわれやすいのです」
 ウクライナの分析で、白井さんはいくつかの特徴的なシーンを抜き出し、映像を分類していました。
ウクライナ特徴.jpg

「いくつかの特徴があるのですが、一つわかりやすいのが、カウンターのときですね。サッカーは、『攻撃』『攻守の切り替え 攻撃→守備』『守備』『攻守の切り替え 守備→攻撃』の4つの局面でできています。どのプレーも必ずどれかに当てはまります。ボールを奪って、すぐに攻撃に転じるカウンターは、『攻守の切り替え 守備→攻撃』に当たりますが、ウクライナはこのときに『ボールを奪ったら全員が前に進む』という共通の原則を持ってプレーしています」

 映像をお見せできないのが残念ですが、クロアチアからボールを奪ったウクライナの選手たちは、その瞬間、ほぼすべての選手が全力ダッシュで前進します。あるときはボールを持った選手の横にスピードを上げた3人の選手がものすごいスピードで併走するような場面も見られました。

「ウクライナが攻守(守攻)の切り替えのときに、素早く攻めるというのは、彼らのストロングポイント。チームとして、もっとも得点する可能性が高いのがこの戦術だと考えられます」

 ウクライナについての知識がある人は「そうそう」とうなずいて読んでいるかもしれませんが、現在ウクライナ代表の監督を務めるアンドリー・シェフチェンコ氏が現役選手だった頃から、カウンターはウクライナのお家芸。シェフチェンコ氏が「ウクライナの矢」と呼ばれていたことも象徴的です。



■"勝ちの芽"を見つけるためのスカウティング術
「ウクライナと対戦する日本代表が気をつけなければいけないのは、ボールを失った直後の対応でしょう。それともうひとつ、ウクライナの攻撃で特徴的なのが、自陣ゴール付近から丁寧にパスをつないでいくということです」

 白井さんが指摘したのは、ロングボールでカウンターという旧来のウクライナとはまったく違う、ディフェンスラインからのビルドアップでした。

「サイドバックが非常に高い位置を保ち、ボランチの選手がサイドに下がってパス回しに参加するシーンが多く見られました。サイドバックの役目は、サイドの選手を追い越すオーバーラップではなく、ボールより前にポジションを取ることだと予想されます」

 日本と戦った場合を想定してチームオーガニゼーションを重ねてみると、1ー4ー4ー2のウクライナと、1ー4ー3ー3の日本代表という噛み合わせが想定できます。

「クロアチアとの試合でもよく見られたウクライナの左サイドからの攻撃を例にするとわかりやすいでしょう。左センターバック④がボールを持って、左サイドバック⑤が高い位置に移動し、ボランチ⑧が空いたスペースに下がってきてボールを受けます。クロアチアの選手はこのボールを奪うためにプレッシャーをかけに来るのですが、ウクライナのMF⑩がサイドバックと連携しながら左サイド前方にポジションを取るので、ここで数的不利ができてしまいます。クロアチア戦でも再三あったこの形は、ウクライナの個々の選手の特徴も生きる攻撃です」

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 図で見ていただいているように、この攻撃は同じくサイドからの崩しを武器としている日本代表にとって厄介な攻撃です。スカウティングは、「相手チームのストロングポイントに対して自分たちのチームならどう対処できるか?」までを想定して行うものですが、今回はあくまでもハリルホジッチ監督率いる日本代表のこと。白井さんの「私案」としてウクライナへの対策を考えてもらいました。




■円状に広がったウクライナの中盤を狙え

「自チームのチャンスをできるだけ多くつくって得点するためには、相手チームのストロングポイントを無効化し、相手チームのウィークポイントを利用することが有効です」

ボランチがサイドの自陣深くに下がってボール回しに加わるウクライナの丁寧にパスをつなぐスタイルは、ストロングポイントであると同時に、その特徴を逆手に取ればウィークポイントにもなります。

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「サイドバックが先に上がってしまい、ボランチが下がってボールを受けるので、ウクライナの中盤には1人のMFしかいないという場面がよく見られます。選手がフィールドに円状に並ぶようなこの形では、中盤の人数が少なくなるため、中盤の厚みのある攻撃が日本のストロングポイントとして活用できるはずです」



◇ウクライナのサイド攻撃の止め方「バックトゥバック」
Backtoback1.jpg

同じように、クロアチア選でも何度もチャンスをつくったウクライナの左サイドからの攻撃も、うまく対処すればその強みを消しつつ、反撃のきっかけにすることもできます。
「相手のウィークポイントを発生させるためには、まずストロングポイントを発動させないことが必要です。オランダ的なやり方になりますが、ウクライナの左サイド攻撃への対策を一つ挙げるとすると次のような方法が考えられます。

両サイドバックの位置を高く保ち、左サイドから攻めてくるウクライナに対しては、逆サイド、日本の左サイドの守備を一人"捨てて"、対応します。『バックトゥバック』というやり方なのですが、日本の右サイドバック②が、相手のサイドバック⑤をマークします。それに合わせて日本のディフェンスはマークをスライドさせ、ボールから遠いウクライナの⑦をノーマークにして対応するのです」



◇ストロングポイントを封じたあとに訪れる反撃のチャンス

 この形にすることで、日本はボールサイドで数的有利を作ることができるため、日本のチャンスの芽にもなり得ると白井さんは言います。

「サッカーの4つの局面の話をしましたが、局面はすべてつながっています。攻撃が終わって守備、守備が終わって『よっこらしょ』と攻撃が始まるのではありません。この場合なら、数的優位を作った日本は右サイドでボールを奪い、奪った瞬間に動き出している左サイドの選手にパスが出せれば大きなチャンスを迎えることになります」

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 右サイドバックに運動量豊富でディフェンス能力の高い長友佑都選手(ガラタサライ)を置き、左サイドの高い位置に縦に強く、ドリブルをシュートにつなげられる原口元気選手(デュッセルドルフ)を配置しておく。相手のストロングポイントを詳しく分析しておけば、それがそのまま相手のウィークポイント、日本にとって好機の演出につながるのは、攻撃と守備がめまぐるしく入れ替わるサッカーならではの醍醐味です。

 サッカーの試合はただぼんやり眺めているだけでは、ピンチやチャンス、ゴールだけが目に留まってしまいがちです。今回紹介したのはスカウティングのほんの一端ですが、スカウティング的な見方ができれば、「フィールドで何が起きているのか?」「なぜ日本が押しているのか?」「または押されているのか?」「どこに、どんな特徴を持った選手を配置したら状況が変わるのか?」などこれまで見えなかったことが見えてくるはずです。

 明日の試合では、白井さんのスカウティングを参考に、「なぜ?」を念頭におけば、いつもよりサッカーが面白く観戦できるかもしれません。


ゲーム分析・スカウティング
白井 裕之(しらい ひろゆき)

1977年愛知県生まれ。18歳から指導者を始める。24歳のときにオランダに渡り複数のアマチュアクラブのU-15、U-17、U-19の監督を経験。2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。
オランダサッカー協会指導者ライセンスTrainer/coach 3,2 (UEFA C,B)を取得。


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