インタビュー
【前編】サッカーへの愛が、カルロス・テベスの人生を、180度変えた
公開:2010年12月10日 更新:2023年6月30日
世界中の様々なスター達はどんな幼少期、少年時代を過ごしたのでしょう。彼らの知られざる一面や苦労、努力の一端に触れたいと思います。今回は、アルゼンチンのスター、カルロス・テベスです。
彼ほど、壮絶な少年時代を送ってきた選手はいないでしょう。彼の生まれ故郷は、ブエノスアイレス近郊のフエルテ・アパチェという悪名高いスラム街。本人いわく、「子供の頃はタフだった。怖いことだらけだったよ。夜になると通りに出ることもできなかったんだ」と語るような、貧困、ドラッグ、犯罪という言葉が横行する場所で育ったテベスは、この街でストリートサッカーに興じていたといいます。
テベスを見出したスカウトであるラモン・マドゥーニは、「彼を初めて見た時のことは覚えている。年上の大きな男の子と対戦していたが、まったく恐れを知らずにプレーしていたよ」と8歳だったテベスについて語っています。テベスはスラムの路地裏で、自分よりも大きな相手と戦うことにより、テクニックと勇敢さを培ってきたのです。
実際、今では治っていますが、テベスはマンチェスター・Uに加入するまで前歯の一部が欠けていました。これはストリート時代の名残なのだといいます。
スカウトに才能を見出されてからは、名門ボカ・ジュニアーズに入団し、ブラジルのコリンチャンスでの活躍を経て、サッカーの本場イングランドへと渡る順風満帆のシンデレラストーリーを紡いでいるテベス。ですが、故郷への愛を忘れることは決してありません。テベスは、英国でのインタビューでこう語っています。
「僕はフエルテ・アパチェから来たことを誇りに思う。暴力とドラッグが至るところにあったのはたしかだ。だが、街には家で待つ子供のために一生懸命働いて、パンを持ち帰っている人たちだっているんだ。時に、将来が見えなくて自暴自棄になり、道を誤ってしまう人もいる。だけど彼らは犠牲者なんだ。僕はその街で育った。あの街が今の僕を作ったんだ。僕にも選択肢はあった。いま、ここにいるようにサッカーをするか、ドラッグに溺れるかというね。でも、サッカーが好きだったから全力を尽くした。それがベストなことだよ」
Photo:AP/アフロ