インタビュー
『あいつだけには絶対に負けたくない』という気持ちで、練習に取り組んでいた。権田修一(FC東京)
公開:2012年5月22日 更新:2023年6月30日
8月のロンドン五輪では44年ぶりのメダル獲得に期待がかかる日本サッカーU-23代表。そのゴールマウスを最終予選突破まで守り続けた権田修一(FC東京)選手のインタビュー後編をお届けします。
■きつくても、やめたいと思ったことは一度もない
――実際にFC東京U-15に入って、何か戸惑ったり壁を感じたことはありましたか?
「入ってまずびっくりしたのが練習日数の多さ。それまでは週に2日だけの練習だったのに、逆に週に2日しか休みがない。だから、それに慣れるまで本当に疲れていました」
――辞めたいと思うことも?
「とにかくきつかったけれど、辞めたいと思わなかったし、辞められないこともわかっていました。ただ、小学生の頃に満員電車に乗ることなんてなかったけれど、U-15の練習に通うために満員電車に乗ることも多くなってストレスを感じたり、口内炎が出来たこともありました。しかも、中学生になって周りも新しい環境になりましたからね。本当に生活のペースに慣れるまでが大変でした。あの中学1年生の最初の3カ月間は本当に疲れていたし、人生で一番きつかったと言ってもいいかもしれません」
――サッカーと勉強はどのように両立させていたんですか?
「大変でしたね。ほとんどできていなかったように思いますけれど(苦笑)。両親はもっと勉強させたかったようですが、当時の僕の生活を間近で見ていて大変だろうなというのは分かってくれていて。ただ、最低限の成績だけは取りなさいとだけは言われていました。なかでも特に言われていたのが体育。『あなたは体育が得意なんだから、絶対に5を取りなさいと。そこで5が取れなかったら、頑張らなかったってことよ。サボっているのと一緒よ』って(笑)」
――厳しいですね。
「戦いです(笑)。母は本当にパワフルです」
――プレーそのもので何か壁を感じることはありましたか?
「小学生の頃はなんとなく感覚でやっていた部分があったんですが、FC東京U-15に入って、構え方やボールの取り方、倒れ方など、基本的なことを初めて教えていただいて。でも、小学校の時にやっていたことが癖になっていたので、それを直すことができず苦労しました。それでも継続して身体に教え込ませるしかないので、練習終了後には1つ年上のGKの選手と二人一組になって、構えて取って蹴るという動作を繰り返し練習していました」
――初めての挫折は?
「所属クラブでも代表でもずっと試合に出られていたんですが、U-16日本代表で初めて試合に出られなかったことがあったんです。
ライバルは同じ年齢の他のチームの選手。その頃はその選手が代表に選ばれて、自分は選ばれないということが半年くらい続きました。どちらかというと挫折というよりは、『これはまずいな』と本当にいろいろと考えた時期だったかもしれません」
――ライバルに勝つために、自分は何をしなければならないと考えましたか?
「とにかく練習をするしかないということだけ。自分がシュート練習で失点したら『あいつだったら止めるだろう』と、“あいつだけには負けたくない”という気持ちで、ライバル視して練習していましたね」
――そういう中で、自分自身の成長を感じる瞬間もあったのではないかと思います。
「実際、自分が成長したことを自分自身で見ることはできないじゃないですか。たとえば、“このシュートを止めたから成長しました”といっても、シュートはいつも同じところにくるわけじゃない。自分の中では、以前はできなかったことができるようになったとか、たとえば上手い選手がいて、最初の頃は“自分は全然ダメだな”と思っていたのが、“同じようにできるようなったな”と感じられるようになった時は、成長したのかなと感じますけれどね」
■どんな失点でも、必ず原因を考える
――サッカー選手にとっては“自分で考える”ということはとても重要なことだと思うのですが、権田選手はそういう力をどのように養いましたか?
「たとえば失点した時も、“これはどうしようもなかった”という失点はないと思っているんです。見ている人がGKには非がないと感じるような失点でも、自分は絶対に止めることができるんだと思うようにしているんです。『あれは無理です。止められません』と言ってしまったら、そこでおしまい。そういう考えが自分の中にはあるので、どんな失点に関しても、必ず原因を考えるようにしているんです。そういうことを繰り返しているうちに、僕の場合は“自分で考える”ということにつながっていきましたね。徐々に広くものごと考えられるようになってきたと思います」
――では、親御さんが子どもの考える力を養うためには、どのようなフォローをすればいいと思いますか?
「なかなか難しいことではあるんですが、まずは子どもが自分自身で考える習慣を身につけられるような環境を作ってあげることが大事だと思います。たとえば僕も、昔、父が99年のW杯のGKプレー集のビデオを買ってきてくれたんですが、それを何度も見て『真似をしよう』と思いましたし、“考える”というきっかけにもなりましたから」
■世界の舞台で、自分たちがどれだけできるのか
――さて、ロンドン五輪が迫っていますが、今シーズンの権田選手のテーマをお聞かせください。
「今年は『世界に近づく』を目標にしています。今シーズン、FC東京はAFCアジアチャンピオンズリーグに出場していますが、アジアを舞台にいろいろな経験をさせていただいていますし、ここを突破すれば、また世界という新たな舞台で挑戦するチャンスもある。そして、ロンドン五輪にしても、世界で自分たちがどれだけできるのか、今はまだ準備段階ですが、世界に近づくための準備をしている。そういう意味でこの言葉を目標に戦っています」
――日程がタイトでも、代表でもそしてチームでも、世界やアジアを舞台に戦えるのは幸せなことですよね。
「監督もよく言うんですよ、『忙しいことは幸せなことなんだぞ』と。試合に出たくても、ACLに出たくても出られない選手はたくさんいる。代表に関してもそう。行きたくて行けるところではないし、選ばれた人にしか行けないところだからこそ、たとえ日程がタイトになったとしても、それは本当に幸せなことだと思いながらプレーしていますね」
権田 修一//
ごんだ・しゅういち
GK。1989年3月3日生。東京都世田谷区出身。FC東京所属。17歳の時からトップチームに帯同し、高校在学中に正式に昇格する。ユースではU-17日本代表に選出され、2004年のAFC U-17選手権では日本のゴールマウスを守った。2009年12月のアジアカップ最終予選イエメン戦で先発出場を果たし、A代表デビューを飾る。今年のロンドン五輪ではU-23日本代表の守護神として、44年ぶりのメダル獲得をめざす。
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取材・文/石井宏美 写真/新井賢一