2011年第6回FIFA女子ワールドカップ優勝、そして昨年はロンドンオリンピックでの銀メダルと多くの結果を残してきた岩清水梓選手。しかし、中学に進学してからしばらくはチームメイトとの差を感じ、少しでも追いつけるためにがむしゃらになって練習を重ねたそうです。今回はそんな岩清水選手がどのように苦境を乗り越えて来たのかについて迫ってみました。
■目の前にある問題と向き合えるかどうかは、すごく大切な事
――周りの選手に追いつくためには何をしなければならないと感じましたか? 実際にどんな練習を行っていましたか?
「ヘディング練習をよくしていましたね。寺谷監督にヒントをいただきながら、練習が終わった後も繰り返し個人的に練習を行っていました。そこは“差”を埋めるというわけではありませんが、みんなと対等に戦うために必要なことだと考えていたので。また、自分よりうまいと思う選手たちを相手にディフェンスをするわけですから、とにかくガムシャラにプレーするしかない、それが今にもつながっているのかもしれません」
――ポジションはその時すでにDFだったのですか?
「小学校時代はFWで、メニーナに加入当初も前めのポジションでプレーしていたんですが、すぐにディフェンスに転向しました。でも、小学校時代も高学年になってからは試合によってディフェンスのポジションでプレーすることもあったので、何の抵抗もありませんでした」
――自信を持ってプレーにできるようになったのは?
「中学3年になってようやく試合に出られるようになったのですが、その年の最後の方に行われたU-15の大会で、初めて大会を通して試合に出場し、結果として優勝することができたんです。サッカーを続けてきて良かったと感じられた瞬間でしたし、その大会を通して、自信がついたこともたくさんありましたし、その後のステップアップにつながっていきましたね」
――壁や逆境を感じたことはありますか?
「やはり中学2年の時のケガ、そして実力が足らず試合に出場できなかったこと。その後、これまでケガ以外は順調にステップアップさせてもらっていますが、ここ最近は『ベテランとは?』という部分でいろいろ考えることが多々ありますね。今、若い選手を中心に攻撃を組んでいる状態ですが、彼女たちにどのような言い方をするのがベストなのか、どんなアドバイスをしたらいいのか、サッカー以外の部分で課題というか、少し壁にぶつかっているような気はしますね。このような悩みは今まで味わったことがないので多少戸惑っていますが、それは自分がここまでサッカーを続けてこられたからこそ感じられるものでもあると思うんです。ただ頑張ればいいというものでもないので、いろいろと日々考えることは多いですね」
――まさに今、悩みや壁、そしてコンプレックスを抱えているジュニア世代の選手たちに、アドバイスを送るとしたら、どんな言葉を送りますか?
「そうですね、いろいろと悩みや壁、挫折はあると思うのですが、だからといってまずはそこから逃げないで欲しい、諦めないでほしい。目の前にある問題と向き合えるかどうかはすごく大切なことだと思います。たとえば足が遅いのであれば、それを補えるプレーはたくさんありますし、足元のボールを奪われない選手なると考えることもできる。そのように、マイナスに捉えるのではなくポジティブに考えてみるのもいいかもしれません」
――しかし、それを子どもが自分で見つけるのは難しい部分もありますよね。
「ある程度の年齢になれば自分の長所は見つけられるかもしれませんが、幼い頃は難しいでしょう。だからこそ、親やコーチがヒントを与えてあげれば、『僕はここが得意なんだ』とか『ここをもっと頑張ろう』と自信を持つことができると思うんです。その先に向かうか向かわないかは子ども自身の問題になってきますけれど……」
――そう考えると指導者の存在は大きいですね。
「メニーナに入って、サッカーの基礎から厳しくみっちりと教えてくださった監督のおかげで様々なものを身に付けることができました。そしてベレーザに入ってからは、トップリーグの戦い方を学び、自分の長所を生かしたポジションも与えてもらえて……。その時々で本当に良い指導者に巡り合うことができましたし、そのような意味では本当に大きいと思います」
――岩清水選手ご自身が、自分の武器に気づいたのは? また、その武器をどのように伸ばしていこうと思いましたか?
「私の武器はあまり波なく一定した力を出せることだと思いますが、カテゴリが上に上がるにつれ、監督の要求を100%出せるかどうかが重要になる局面で、自分が試合に出場できた時はチャンスをものにできるよう万全の準備を行うよう心掛けていました。毎日試合よりも厳しいというか、本当にうまい人たちばかりの中で練習を積んでいたおかげで、試合に出ても、普段通りにプレーできていたと思います。いざ、チャンスが与えられた時、それをものにできるかできないか、それは監督が、次の試合で自分を使うか使わないかというところにもつながってくるので、波のない安定したプレーは今も常に意識していますね」
■自分よりもうまい選手と戦って、悔しさを味わいながら成長していってほしい
――さて、サカイクは『考える力』をテーマにしています。岩清水選手自身はどのようにその力を身に付けてきましたか?
「とにかく監督など指導者の話や言葉にはしっかりと耳を傾けていましたね。それは、父の『まずは人に挨拶をしなさい』『人の話はしっかりと聞きなさい』という教えが関係していると思います。監督が怒っているのであれば『どうして怒っているのか』と考え、誰かを褒めていれば『こういうプレーのほうがいいんだ』と考える。監督が要求することが何か理解すれば、試合で使ってもらえるわけで、そういう部分で、人の話をよく聞くことやコミュニケーションは大切にしていました」
――実際に『考える力』の重要性を実感することはありますか?
「結局、誰に何を言われようが、試合をしているのは自分自身。いろいろな情報をもらっても、考えて判断するのは自分ですからね。考えられない選手は、受動的にしかできないと思いますし、そのレベルにとどまってしまうのではないかなと思います」
――ジュニア世代でこれだけはやっておいたほうがいいと感じるのはどんなことでしょうか?
「単純なことなんですが、両足左右差無く蹴れるといいと思います。苦手がない選手は右でも左でも、どのポジションでもプレーすることができる。ということは、試合に出られるチャンスも多くなりますからね。私自身、もっと小さい頃にしっかりやっておけばよかったなと思うくらいです」
――それでは最後に、ジュニア世代の選手たちへメッセージをお願いします。
「私の場合はメニーナというチームに入って、うまい選手たちと日々戦って、いろいろなものを吸収し成長することができました。だからこそ、みなさんにも自分よりもうまい選手たちと戦って、悔しさを味わう中で、どんどん伸びて行ってもらいたいと思います。壁にぶつかったり、挫折することもあると思いますが、それも成長するためには必要なことですし、そこで逃げずにしっかりと自分と向き合って、大きく伸びていってほしいですね」
――では最後に、岩清水選手ご自身のこれからの目標をお願いします。
「今後の目標はまずベレーザでタイトルを獲ること。それは日々の積み重ねの先に繋がってくるものなので、しっかりと目標に向かって突き進んでいきたいですね」
――W杯金メダル、五輪銀メダルと、すでにいろいろなことを成し遂げていますが。
「そういう意味では現段階でいえばいろいろと模索中な面もあるかもしれません。チームでも上の立場になり、徐々にいろいろなことを伝える側になりつつありますが、キャプテンとしても上に立ってチームをどうまとめていくか、若い選手のモチベーションをどのように引き上げていくか、何が的確なのかというところを試行錯誤しているところなので、そのあたりをさらに考えていきます」
岩清水 梓//
いわしみず・あずさ
1986年10月14日生。岩手県出身。日テレ・ベレーザ所属。1歳になる前に神奈川県相模原市に移り住み、小学1年生から地元の大沼SSSでサッカーを始める。中学在学中の1999年にNTVベレーザ(→日テレ・ベレーザ)の下部組織・NTVメニーナに加入。2001年と2002年にはベレーザの下部組織登録選手となり、2003年には正式にベレーザ登録選手へ昇格した。2006年2月18日の国際親善試合ロシア戦(静岡スタジアム)で途中出場により日本女子代表「なでしこジャパン」でデビュー。2011年第6回FIFA女子ワールドカップ優勝メンバー。昨年のロンドンオリンピックでは、全6試合に出場し日本代表初の銀メダル獲得に貢献。
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取材・文・写真/石井宏美