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スパルタではない"厳しさ"で選手を強くする。石井正忠監督が考える「子どもを伸ばす大人の接し方」とは?

公開:2017年12月 4日 更新:2023年6月30日

キーワード:大宮アルディージャ指導者石井正忠鹿島アントラーズ

親であれば、子どもが一人の人間として成長してほしい、自分の夢を叶えてほしいと願うのは当然のことです。ただ一方で、行き過ぎた関わり合いの結果、適切なサポートを超えて、逆に子どもを縛り付けてしまう危険性があることも事実です。

だからこそサカイクでは、子どものサッカーに関わる保護者の皆さんに考えてもらいたい〝親の心得〟を10か条にまとめ、その大切さを訴え続けてきました。

しかし、親と子どもの在り方、関わり方に正解はなく、いつでも目の前の子どもと向き合い、自分自身と向き合いながら考え続けていかなければなりません。今回は、「子どもを伸ばすための大人の接し方、親子の距離感」というテーマのもと、子どもとより良い関係性を築き、子ども自身が伸び伸びと成長できるような関わり方を考えていきます。

このテーマは、鹿島アントラーズを指揮して、2015年のヤマザキナビスコカップ(現:YBCルヴァンカップ)、2016年のJリーグ年間優勝、同年のFIFAクラブワールドカップ準優勝といった輝かしい栄光を手にしてきた石井正忠監督と一緒に考えていきます。

今年5月に鹿島の監督を退任して現場を離れていた石井監督は、11月5日、J1リーグで残留争いをする大宮アルディージャの監督に就任することが発表されました。選手としても指導者としても、日本サッカーの第一線で活躍し続けている人物です。

誰とでも分け隔てなく付き合い、温厚な人柄で知られる石井監督は、指導者であると同時に、10歳の娘さんを持つ親でもあります。今回は、その両面からこのテーマに迫りました。果たして石井監督は、子どもとどのような関わり合いを模索してきたのでしょうか。(取材・写真・文:本田好伸)

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後編:「ゴールまでの逆算」 鹿島を世界2位に導いた名将・石井正忠監督が語る、伸びる選手が備えているスキルとは >>

■高校時代のスパルタ監督の指導を反面教師に

石井監督は、JFL時代のNTT関東、住友金属工業蹴球団を経て、1992年から1997年まで鹿島アントラーズでプレーし、1998年にアビスパ福岡で選手を引退した後、鹿島でコーチ業を始めました。鹿島では、石井監督が、選手出身で指導者になる初めてのケースでした。最初の6カ月間は、育成年代のスクールやジュニアチーム、ジュニアユース、ユースと、各カテゴリーを回って、クラブの育成メソッドを学んでいったようです。

そして研修期間を終えてからは、ユースのコーチとして、本格的に指導を始めました。では石井監督は当時、どのようなスタンスで子どもたちと接していたのでしょうか。

「元選手ということもあり、より選手と近い距離で接することができました。デモンストレーションで実際にプレーを示すというやり方がメインだったと思います。ウォーミングアップで一緒にボールを蹴ったり、同じスピードでランニングをしたり、リハビリ中の選手に付き添ったり、コーチと言うよりもお兄さんというような関係でしたね」

監督には言えないような悩みやプレーの相談に乗る中で、日々、移り変わっていく選手のコンディションやモチベーションをつぶさに見ていくような指導スタイルだったようです。2015年にトップチームの監督に就任した頃も、常に冷静沈着かつ温厚な姿勢を保ち、あまり感情の起伏を感じさせない姿が印象的でしたが、石井監督の指導スタンスはすでに、ユースのコーチ時代から築き上げられていったのではないでしょうか。

「基本的に、感情的に怒ったりすることはほとんどありません。もちろん、厳しく言わないといけないこともありますが、そこは頭ごなしに言うのではなく、しっかりと理解してもらえるような声掛けや伝え方というのを常に意識していました」

こうしたスタンスは、石井監督のパーソナリティーだとも言えますが、その根本を紐解いていくと、千葉県立市原緑高校時代の指導者の姿が、大きく影響していたようです。

「私が学生の頃は、監督やコーチからかなりキツく言われるような時代でした。自分で思っていることを口にすることもできず、監督が白だと言えば、黒でも白になるような(苦笑)。順天堂大学の大先輩でもある本田裕一郎監督は本当にスパルタで、当時は有効な指導スタイルのひとつであったと思いますが、時代の変化もありますし、違ったスタイルの指導者になりたいと考えるようになりました」

高校時代の恩師の姿を胸に刻みながら、石井監督は当時、サッカーの指導者ではなく、学校の教員を志して順天堂大学に進学しました。

■トレーニングの負荷でも、選手を強くできる

ただ、この高校時代の厳しさも、石井監督にとって大きなきっかけとなったようです。

「この時の理不尽な経験があったことで、それ以降、辛いと感じたことはありませんでした。一人の人間として成長する上でも、人との関わり方を考えるきっかけとなった経験が大きかったんです。それに、短期間でチームを強くするために、スパルタという方法論が合っていたのかもしれません。片田舎の高校ながら、2年生の時にはインターハイに出場することもできましたからね」。

本田監督と石井監督には、その後のエピソードもあります。「先日、古希の御祝いの時に、先生から『お前ら、本当に申し訳なかった』と言われたんです。先生は習志野市立習志野高校、流通経済大学付属柏高校をサッカーの強豪校に築き上げていく中で、指導方法も変わっていっていたように思います」。育成年代の指導者の多くは、監督やコーチであると同時に、教育者でもあります。子どもたちにとって何が必要で、どう接するべきなのかを考え、常に学び続けている存在でもあるのです。

時代によるところも多分にあり、肉体的にも精神的にも厳しさを学んだ石井監督は、指導者としては、自分が体験したものとは異なる〝厳しさ〟を追究していきました。

「体を痛めつける厳しさではなく、サッカーのトレーニングで負荷を掛けることでも、選手を強くできるんじゃないだろうか。そういう指導者になろうと思いました」

次ページ:問いかけの質こそが指導者に必要なもの

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文・写真:本田好伸

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