インタビュー
中村俊輔が語る「リフティングは回数が大事」な理由/インタビュー後編
公開:2019年2月19日 更新:2023年6月30日
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前編では、日本屈指のMFである中村俊輔選手のサッカー人生において、恩師となる指導者との出会いや親のサポートが成長には欠かせなかったことをお話しして頂きました。だからこそ指導者や親の存在の重要性を誰よりも日頃から感じています。
後編では、その中村選手が感じている指導論や教育論について「どう子どもと接していくことが重要か」を5児の父でもあるご自身の経験も踏まえてお話して頂きました。その貴重なインタビューをお届けします。
(取材・文:森亮太、写真:兼子愼一郎)
<<前編:「まだ上手くなりたい」プロ23年目、中村俊輔を支えるモチベーションはどこから来るのか
■勝負にこだわることも時には大事。負けて覚える悔しさもある
常に誰かに負けたくないという負けず嫌いな気持ちは、中村選手にとって大きな原動力となっています。その高い向上心については、前編でもお話しして頂きましたが、だからこそ現状の指導方針には、時に疑問を感じることもあるようです。
「今は小学校の運動会でも順位をつけないところもあるみたいですが、自分は思いっきり勝敗を気にしていたタイプだからそれだと物足りないですね。勝ち負けで一喜一憂するのもいいし、負けて覚える悔しさってあると思います。ただそうじゃない子もいるとは思うので、一概にそれが正解とは言えませんが、自分は勝ち負けがつく方が燃えるタイプだったので、そういう方針もありなのかなと思っています。4人兄弟で育ち全員がスポーツをやっていて負けん気が強かったし、兄弟ゲンカ等、普段の生活の中でメンタルを鍛えられていたこともそう考える理由の一つかもしれません」
そしてこう続けます。
「サッカーで言えば、1対1の練習を真剣にやり続けることも悪いことではないと思いますよ。1対1はサッカーの基本だし、勝敗も関係するので、本気で取り組みながらサッカーの戦い方も覚えると思います」
前編でも幼少期に基礎を身につける大切さをお伝えしましたが、ラダートレーニングやヘディング練習等、何の練習をするにしても「サッカーの動きを学べるものでないと意味がない」と中村選手は断言します。
そうでないとただの「ラダートレーニングが上手い子」や「頭でボールをミートするのが上手い子」を量産することになるのです。
きちんとした練習をしているように見えると親御さんも満足されると思いますが、"アリバイ練習"ではサッカーの上達につながるとは限らないという事です。
■「リフティングは回数も大事」その真意とは
また、多くの親御さんが上達の目安とする「リフティング」。「うちの子、100回できるようになって嬉しい」「リフティングが続けられるようにするにはどうすればいい?」など関心が高い個人スキルです。
中村選手は「回数も大事」ときっぱり。
リフティングで大事なのは「ボールを何回上げられたか」よりも落とさないように軸足でバランスを取る事、軸足のコントロールにあると中村選手は教えてくれました。
試合中いつでも直立でボールを扱えるわけではありません。試合で使えるボールコントロールを身につけること、それこそがリフティングの目的なのです。
■サッカー以外のマナーを学ぶことも団体スポーツならでは
前編でも恩師である若林先生の指導についてはお話しして頂きましたが、若林先生からはサッカー以外でも団体行動をする上でのマナーの重要性を学んだと中村選手は言います。
団体スポーツだからこそ、団体行動におけるマナーや常識を学ぶことも人として成長する上で欠かせません。また指導者がそれを子どもたちに教えることも重要な役割です。
「サッカーは、団体スポーツなので、教育の部分で教えられることもたくさんあると思います。例えば隣の子が転んでいる時に『手を差し伸べた方がいいんじゃないの?』とかを練習や試合、チーム行動を通じて学ばせることもすごく重要なんじゃないかなと思っています。僕の場合は、他のチームと合同でキャンプをしたり、出し物をしたりしたことで、団体行動の大切なマナーを学びました。キャプテンも任されたりしましたが、『お前の在り方を見てみんなも同じようにするから』とリーダーとしての立ち振る舞いを小学1年生や2年生くらいから言われていました。そういった人としての在り方を学ぶことがサッカーで上手くなること以上に大事なのかなと思っています」
■子どもが壁にぶつかった時にどう接するべきか。簡単にアドバイスをすることがベストではない?
サッカーに限らず、壁に直面することは、誰もが1度は経験するものです。その壁に直面した子どもを見た時に、親や指導者がどのように接するかは非常に難しい部分でもあります。ただ中3の頃に大きな壁に直面した中村選手は、答えを簡単に与えられなかったからこそ、大きなことに気づくことができたと言います。
「あまり接し過ぎないことが正解の場合もあるのかもしれないと思っています。『目をかけて手をかけない』と言う感じでしっかりと見守ってあげて、簡単に手を差し伸べない指導方針も時には必要だと思っています。だからもし自分が指導者になっても『なんで出られなくなったと思う?』といった言葉をすぐにかけるよりも、選手によっては少し様子を見ていた方がいい場合もあるのかなと思っています。自分の経験からですが、考えを整理したり行動するためには、自分で気付くことが何より大事だと思うので、時間的に可能な限り放っておくことも状況によってはありかなと......」
ただあくまで壁に当たった時の感じ方というのは人それぞれです。その点は、中村選手も十分に理解しています。その子の性格を理解し、その子に合ったアプローチが必要だと中村選手は強調します。
「僕の場合は、(ジュニアユース時代に)3か月間ずっと放置されていましたけど、監督やコーチは何も言わずに見守ってくれていて、過ちに自分で気づいたことが大きかったです。ただ逆に苦しんでいるからこそ、違う角度で『こういう方法もあるよ』とアドバイスしてあげることで、成長する子もいると思います。そういうタイプの子は野放しにしてはいけないと思います。特に小学生の指導者は、サッカーの技術云々よりもその子にあった道を見つけてあげられることができるかどうかが大事なのかなと思っています。好きなことを見つけて夢中になれればそれだけで子どもは成長すると思いますから」
■子どもがスポーツに打ち込める環境を用意するためにサポートをしてあげることが重要
中村選手ご自身は、ご両親からアドバイスを受けることが無かったことは前編でお話して頂きましたが、親ができることは決してアドバイスをするだけではありません。
子どもがスポーツに打ち込める環境を用意することも親の重要な役目なのかもしれません。現在5児の父親である中村選手ですが、自分の親がしてくれたことを自分の子どもにもしているそうです。
「父親には、サッカーの送り迎えをすごくしてもらいました。自分で公共交通機関を使って通うこともできたと思いますが、車で送迎してくれるだけで1時間くらい変わるので、今思えば本当に感謝しています。だから僕も自分の子どもの習いごとの送迎をしていますね。それは甘えさせちゃっている部分なのかもしれませんけど(笑)。あと母親は、洗濯機を1日に4〜5回まわしていたし、兄弟も多かったので、毎日弁当を4人分作っていました。だから家でも洗濯物を畳んだり、食器を洗ったりするようにしています。何でもいいから何かしらのサポートができればいいかなと思っています。妻が大変そうだと思っているからやっているだけで『イクメン』とかじゃないですよ」
と今ではお子さんのために運転手をしていることを明かしてくれました。
また、お子さんに「していいこと、悪いこと」を肌で感じさせるために、時々「非日常空間」を体験させているのだとか。例えば、いつもより少し格式が高そうな飲食店に連れて行くと子どもは「この場所では大声で騒いではいけないのかも」と考え、その空間でしていいこと、悪いことを意識します。そういった"いつもと違う"体験を通して、お子さん自身が肌で感じ、どういった振る舞いをすればいいのか考えることを大切にしているのだそうです。
家で言って聞かせるだけでなく、実際に「非日常体験」をすることで子どもの考える力が育っていくのです。
前編でもお話したように中村選手にとって、恵まれた指導者との出会いや親からの手厚いサポートは、その後グングン成長して、日本代表の10番を背負い、海外リーグでもいまなお愛される活躍、そして40歳になった現在もなおプロとして第一線でプレーできるベースとなっているのです。
前回からの繰り返しになりますが、本当に使える技術を身につけるためには、土台がしっかりとしていないといけません。また、サッカーで大事なのは技術だけではありません。チームの中で自分はどんなプレーをするか、どう振舞えばいいか考える力、仲間や相手を思いやる気持ち、感謝の心などピッチ外の在り方も大事なのです。
だからこそ親や指導者は、子どもが成長していく過程で欠かせない重要な存在です。そして指導者や親も子どもと共に成長していくことが非常に大事なことなのかもしれません。
中村選手の考えに触れて、自分はこれまで「子どもとの接し方がどうだったか?」というのを今一度見つめ直す良いキッカケにしていただければと思います。
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「サッカーは、ゴール以外"も"おもしろい」
戦術・個人技・セットプレーまで――日本サッカー界の至宝が徹底解説。
「現代サッカーをより深く、より熱く楽しむための方法論を伝えたい。
今回、その想いを書籍という形で一冊にまとめた。
40歳になった今も現役でプレーしているから企業秘密にしたいこともあるけれど、できるだけ隠さず話すので、参考にしてサッカーをさらに楽しんでもらえたらうれしい
―「はじめに」より
■内容
第1章 中盤を制する者がゲームを制す
―「トップ下」の観戦術―
第2章 「戦術」からサッカーを読み解く
―「戦術」的な観戦術―
第3章 ピッチを彩る個の力
―「個」の観戦術―
第4章 セットプレーはパッケージで楽しむ
―「セットプレー」の観戦術―
第5章 観戦方法についての考察
―「スタジアム」&「映像」での観戦術―
巻末特典 記憶に残る5ゲーム