インタビュー
疲労を可視化してケガを回避、プレミアリーグのトップチームが行うケガ予防とは
公開:2020年8月 4日 更新:2023年6月30日
子どものサッカーでの心配事の一つがケガ。特に今年は新型コロナウイルスの影響で休校、チーム活動停止が長引いたこともあり、活動再開をしている今もケガの心配をしている保護者は多いでしょう。
海外では全体練習の前に個別のケガ予防策をとっているチームもあります。イングランドプレミアリーグ、クリスタルパレスFCのトップチームのコーチ、デイブ・レディントン氏にお話を伺いました。
前編では、長期休暇明けの練習のポイントや、選手の疲労チェックなどをお送りします。(取材・文・写真:末弘健太/BAREFOOT)
後編:全体練習前の個人プログラムでケガ予防、プレミアリーグのクラブが実践する個々に合わせた外傷予防策とは>>
■疲労を可視化してケガ予防対策を取っている
――日本ではイギリスより早くサッカーが再開され始めましたが、イギリスではどうやって活動が再開されていったのか、他国の施策に興味を持っています。クリスタルパレスのトップチームはどのようにトレーニング強度を高めていったのでしょうか?
まず、ロックダウン中は、選手各自にトレーニングプログラムが配られ、そのプログラムを消化していきました。GPSでトラッキングできるようになっていたので、データが毎日アップロードされ、週の終わりには大きなスプレッドシートが送られてきて、選手が何をしたか、どのような状態だったかが把握することができました。
チームとして活動を再開する際は、政府のガイドラインに沿って練習を再開していく必要がありました。1ピッチに4人の選手まで入ることができ、3つのグループに分かれていたのですが、 各グループごとに練習時間帯が違うので、2ピッチ、3グループで練習時間帯を変えて練習しました。
トレーニング中もソーシャルディスタンシング(2m)を保つ必要があり、最初の3つまたは4つのセッションでは、有酸素運動を多く取り入れて、心肺持久力を高めていく作業となりました。そして、おそらく6回ほどのセッションを経て、ステージ2に移行し、ボディコンタクトを伴うトレーニングが可能になりました。もちろんステージ2に移行する前に政府からその旨の発表がなされています。この時点からトレーニング強度を上げていきました。このような流れは各国同じではないでしょうか。
――トレーニング強度を上げる際に、何か基準はあったのでしょうか?
決まった基準というものはなく、その選手のケガ歴やロックダウン中の様子などを考慮して決めていきました。
なので、チーム全員をそれぞれ見ていく必要があります。
トレーニング中、例えばある選手がケガのリスクが高いと判断されます。そうしたらトレーニング中だとしてもその選手をトレーニングから外し、若い選手を入れます。
毎朝、プレーヤーはスクイーズテスト(筋肉を圧迫して状態を確かめるテスト)を行い、疲労がどの部分に溜まっているか視覚的に見ることができます。
スクイーズテストの結果が低いと、その選手はケガのリスクが高いということになります。
その結果を毎朝のミーティングで各スタッフと話し合い、トレーニングプログラムを修正する必要がある場合は都度見直していきます。
■形だけのトレーニングより子どもたちの心を刺激するような工夫を
――ロックダウン解除後にケガをした選手はいますか?
いませんでした。元々ケガをしていた選手がリハビリから何人か戻ってきました。ロックダウン中にケガをしてしまった選手が1名いて、リハビリ用に設定されていたプログラムをしていました。この辺りはこちら側にもコントロールできないので仕方ありません。
今のところロックダウン解除後のケガ人は出ていませんが、リーグが再開されると週に3試合あるので、できるだけ多くの選手が試合に出られるような状態にしておくことが大切になります。そのため、それぞれの選手のプレー時間の管理などもしっかりとおこなう必要がありますね。
――では、ローカルクラブでも徐々に強度を高めていく必要がありますか?
年代によりますね。
低年齢の選手の方が関節が柔らかくて可動域が広く、筋肉量も少ないので、いきなり動き始めてもケガをするリスクが低いため、低年齢であればあるほど、通常と同じようなトレーニングをしても問題ないかと思います。
カテゴリーが上がるにつれてボールを使ったサーキットトレーニング(俊敏性、アジリティ、技術系トレーニングを組み合わせて短時間で行うメニュー)などを取り入れるなどして、トレーニング強度に気を付けながらフィジカルレベルを元に戻していく必要があります。
私が現在指導している選手は全員プロ選手ですのでトレーニングの意図を理解できるし、自分のフィジカルレベルをどこまで引き上げなければいけないかわかっています。
低年齢の子どもにサーキットトレーニングをしてもすぐに飽きてしまうと思うので、コーチが工夫をしなければいけません。しかもソーシャルディスタンシングを保つことも忘れてはいけませんからね。
私が低年齢のプレーヤーを指導していた頃は、できるだけゴールを設置してシュートを打てるようなトレーニングにしていました。
なので、低年齢のプレーヤーには、サーキットトレーニングなどをしてフィジカルレベルを戻すような作業は必要ないかと私は思います。サーキットトレーニング本来の意味も持たせることができないし、子どもも刺激が足りなくなってしまうからです。
もちろん低年齢のプレーヤーもサーキットトレーニングをやっても全然良いとは思いますが、私だったら対人トレーニングでないクロスからのシュート練習などから始めます。
ただ、ここでも気を付けなければいけないポイントがあります。
彼らは長い間サッカーから離れていたので、クロスやシュートなどの筋肉への負荷が一瞬で大きくかかる動作をしていたかどうか、また、その反復回数を見ていく必要がありますよね。同じ選手がずっとクロスを上げていないか、右足でも左足でもやっているか、この辺りはよく見ていく必要があります。
こんな時はペアを作らせて、交互に役割を変えていくといいですね。コーチは選手を守るためにこれらのようなことを考えていかなければいけません。
日本でもJクラブのドクターが急激に高負荷をかけるとケガのリスクが高まると忠告していますが、プレミアリーグのトップクラブのコーチであるデイブ氏も同様の指摘をしています。休んでいた分を取り返そうとするよりは、飽きずにできるようやる気を刺激してあげるようにしましょう。
後編:全体練習前の個人プログラムでケガ予防、プレミアリーグのクラブが実践する個々に合わせた外傷予防策とは>>
Dave Reddington(デイブ・レディントン)
イングランドプレミアリーグ一部、クリスタルパレスのトップチームコーチ。
クリスタルパレス、ワトフォードのアカデミーでコーチとしてのキャリアを積みジュニア~ユース年代まで指導。クリスタルパレスU23チームの監督からトップチームのコーチに就任した。