インタビュー
内田篤人さんがドイツのサッカーを「別のスポーツ」と言った理由、日本の指導で技術より意識すべきこととは/U-19日本代表影山監督インタビュー前編
公開:2020年12月 3日 更新:2023年6月30日
サッカー人口は年々に増加し、身近なスポーツとして多くの人が触れてきました。幼い頃からボールを蹴ってきた子どもたちも増え、1993年に開幕したJリーグの発展によって競技の裾野が広がったと言えます。
「プロサッカー選手」になりたいと口にする小中学生も少なくなくありません。多くの親御さんたちが子どもたちの夢を応援しています。では、プロサッカー選手になるために何が求められるのでしょうか。今回はU-19日本代表監督を務める影山雅永監督にお話をお伺いしました。
後編:小学生で「サッカーに向いていない」「プロになれない」の判断は早すぎ! ゴールデンエイジに伸びるために経験した方がいいこと>>
■個人技=足元の技術、ではない
昨年のFIFA U-20ワールドカップでは日本を2大会連続でベスト16に導いた影山監督。2年半の月日をかけてU-18世代からチームを強化し、その中で多くの選手と接してきました。大人の入り口に立つ高校生、初々しさが残るプロ1年目の選手や飛躍を遂げようとする若手です。彼らと幾度となく膝を付き合わせ、成長を見守ってきました。
各年代のトレセンスタッフやアジア諸国で育成年代の指導に携わってきた過去の経験を踏まえ、プロサッカー選手になるためには技術面とメンタル面に必要な資質があると言います。まず、技術面では何が重要なのでしょうか。影山監督は言います。
「日本サッカー協会の基本的な考えとして、個人の能力を磨く指針を持っています。そう提唱すると、『個人技ばかりを磨いてどうするんだ』と言われる場合も少なくありません。
ただ、私たちは個人の能力を技術だけだと思っていません。状況の認知や技術を発揮する術も含めて個人の能力だと考えているからです。
スペインでは『チーム戦術を小学校年代からやっている』という方がいらっしゃるかもしれませんが、(国として)別の指標も持っています。(ジュニア年代の)試合も7対7で行なっていて日本とは異なりますし、リーグ戦のレギュレーションも違います。
僕らも勝たせたいのでチーム戦術を取り入れるべきなのかもしれませんが、それよりも小学生や中学生に対しては大人になってから役立つような、個人として持っている力をもっと引き立てるような指導をしていくべきだと思います。
もちろん、チーム戦術も将来的には大事。だけど、個人の力を伸ばすためにも早い段階から個人戦術を磨いてほしいのです。個人と戦術で比べるわけではありません。状況を判断する。技術を出す。点を取る。ボールを奪う。個人戦術を将来につながるように磨いて欲しいですね」
■日本の指導において、技術よりも意識させるべきこと
個人技という言葉に踊らされず、1人で戦う術を身に付ける。ただ、個人戦術を含めた個の力を伸ばす作業は子どもたちのメンタリティーにも影響されます。だからこそ、影山監督は指導者のスタンスが重要だと言います。
「子どもたちが意識するだけではなく、指導者が意識させることが大事です。社会性なども含めてこれまでの日本には、自分で意見を出して議論して考えて言葉を発する日常があまりありませんでした。
海外では自分の考えを持つことをすごく重要視されていて、何か物事に対して自分の意見を言うのは当たり前。逆に持っていないことが恥ずかしいことですらある。それが日常の会話の中にあって成り立っています。
海外では自分としての考えを述べることを日常からトレーニングしているので、日常からそのような会話が自然と生まれます。ですが、日本ではあまり見られません。
子どもたちが指導者の顔を見ながらプレーすることがよくあると思います。『何をしたらいいの?』と選手が訴えれば、指導者が解決策を教える。それで止められると『次はどうしたらいいの?』と選手が聞けば、指導者は『次はこうしよう』と伝えます。どんどんそうやって教えて行く。
でも、サッカーは得点を取って、得点を取られないようにするスポーツです。サッカーの原理原則を考えながら、指導者が子どもたちに考えさせるように投げ掛けるべきで、他の国以上に意識させなければいけないと私は思います。」
■子どもたちの心を焚きつけて本気にさせることが大事
手取り足取り教えるのではなく、意見を自ら出し、自分で解決をする。そうした能力を習得するのは簡単ではありません。では、影山監督は子どもたちとどのようにして向き合うべきだと考えているのでしょうか。
「トレーニングで自主性を育めれば良いですが、簡単ではありません。そのためには『ゴールを奪う』『ゴールを守る』といったサッカーの原理原則を踏まえ、子どもたちの心を焚きつけるべきではないでしょうか。
日本では黙っていると、グラウンドに来た子どもたちはボール回しを始めてしまいます。また、遊びの中でミニゲームしても簡単にはシュートを打ちません。なぜならば、周りからひんしゅくを買うからです。
そういうスタンスを子どもたちに伝えていくのは時間を要するので、指導者として導いてあげる必要があるかもしれません。勝利至上主義とは違います。得点を取る。得点を取られたくない。相手からボールを取りたい。相手からボールを取られたくない。本質の部分を焚きつけて、子どもたちをもっと本気になってやらせるべきだと考えています」
このように藤枝東は人間的成長を促しながら、かつてのような高校トップを目指しています。同じ高体連で2019年プレミアリーグ王者の青森山田高校らとはまだまだ実力差があると小林監督は感じているそうですが、藤枝東らしく文武両道を貫き、自主性や自立心を生かしながら進化を遂げていければ理想的。そうなるように今後も高いレベルに突き進んでいくつもりです。
■指導者が教えるから闘争心が失われる
子どもたち本来が持つ本能をいかに引き出し、闘争心を焚き付けられるか--。長年、育成年代の指導に携わってきた影山監督は歳を重ねるに連れて薄れていくと感じているそう。しかし、これはサッカーを教え過ぎることで生まれる弊害でもあると感じています。
「闘争心は持っておかないといけません。幼稚園や小学校の低学年の子を集めてサッカーをやると、ゴールを目指して必死にプレーします。倒れてもまた立ち上がってシュートを打ちますし、一生懸命ボールを追いかけます。それは生まれた国が関わっているわけではなく、子どもが本来思っているやりたいことなんです。
逆に指導者が教えることで失われる部分かもしれません。特に守備に関してはボールを奪いに行く子どもに対して、『相手に外されてはいけない』と言う時があります。
ボールを取りに行くポイントを理解しないといけませんが、ボールが取れるのに飛び込まないで我慢する大人のサッカーを教え込んでしまう場合も少なくありません。闘争心を持ってボールを奪う。自然とやっていれば学べることを学べなくしているのは指導者の責任かもしれません」
■内田篤人さんが感じた日本とドイツのサッカーの違い
現在、日本を飛び出し、欧州のトップリーグでプレーする選手が増えてきました。海外で活躍する選手が成功している理由の1つはプレーの強度やコミュニケーション能力に長けていたからでもあります。現在U-19日本代表でロールモデルコーチを務める内田篤人氏もその1人です。影山監督は言います。
「僕らのチームでコーチをしてくれている内田篤人氏はドイツで初めてプレーした時に『別のスポーツかと思った』と言っていました。身体の大きさも違うし、スピードも含めて能力が高い選手が集まっているから感じた違いかもしれませんが、ボールを取る部分に関してはプレーのインテンシティがまるで違います。
外国人の指導者は日本に来ると必ず言及しますし、過去に日本代表監督を務めた外国人監督も『そこを高めなければいけない』と言っていました。
ぶつかることを否定して、サッカーはもっと綺麗にやるもの。日本は世界で言われているサッカーとは少し異なる育ち方をしてきたのかもしれません。
コミュニケーションもそうです。海外では自分の意見を言います。一歩間違えると日本では生意気に取られてしまうかもしれませんが、意見を言うのは当然で言わないことが罪となる場合もあります。海外でプレーしている日本の選手はそういう環境に身を置いているので意見を言えます。
意見を聞いて、ディスカッションする。2018年のFIFAワールドカップ・ロシア大会の時も西野朗監督(現・タイ代表監督)が発信しなくても、要求し合うことが日常になっていたと聞きます。
なので、子どもたちに思っていることを言うことは大事だと思いますし、指導者は自然とそれができる環境を整えることが大事だと感じています」
■久保建英や齊藤未月が持つ、自ら発信する力はどうやって身に付いたのか
今まで影山監督が接した選手の中にも自発的に行動する選手がいたそうです。それが久保建英選手や齊藤未月選手です。
「久保建英選手は練習で周りと同じ形でメニューを消化しませんでした。違う発想を持っているので、『それをやらなきゃダメですか?』と聞いてきます。
他の選手がトレーニングの意図や方法を理解していない場合もあるので、『最初は周りと同じようにやって、手本を示してくれ』と言っていました。彼はスペインで過ごしていたので、相手が考えていないことをやろうという思考を持っているのかもしれません。
また、前回のU-20ワールドカップでキャプテンを務めた齊藤未月選手は自分の意見を持っていましたね。チームに対してもこうしたいというのをハーフタイムや試合前に必ず言っている。子どもたちが自発的に発信できることはそうそうないので、周りにそれを求めていた大人がいたのかなと感じます」
本来持っている本能を呼び起こしながら、いかにサッカー選手として成長して大人になっていくのか。指導者はその手助けをするために子どもたちと向き合っていくべきなのかもしれません。
影山雅永(かげやま・まさなが)
福島県の磐城高校を経て筑波大学に入学。同期の井原正巳氏(現・柏レイソルヘッドコーチ)、中山雅史選手(アスルクラロ沼津)らとプレーし、卒業後は古河電工(現・ジェフユナイテッド市原・千葉)に入団。Jリーグでも活躍し、1995年は浦和レッズ、翌年はブランメル仙台(現・ベガルタ仙台)に籍を置いた。引退後は筑波大学の大学院で学び、1998年にはワールドカップに初出場した日本代表で対戦国のスカウティングを担当。その後はケルン体育大学などで学び、2001年からはサンフレッチェ広島でコーチを務めた。以降はアジア各国でA代表や育成年代の監督を歴任。2009年からはファジアーノ岡山のヘッドコーチに就任し、翌年からは監督として指揮を執った。2017年からはU-18日本代表監督(U-20ワールドカップを目指すチーム)となり、昨年5月のFIFA U-20ワールドカップ・ポーランド大会ではチームを2大会連続となるベスト16入りに貢献。現在はU-19日本代表監督として、来年開催予定のFIFA U-20ワールドカップ・インドネシア大会を目指している。
(取材・文・写真:松尾祐希、JFA)