インタビュー
「サッカーの指導って何からはじめたらいいの?」ドイツ育成のプロが教える"はじめの一歩"とは?
公開:2021年4月 1日 更新:2023年6月30日
いざボランティアのお父さんコーチになったのはいいけれど、実際に、何を、どう、子どもに伝えていけばいいのかよくわからない――。そんな悩みを抱えるお父さんコーチもきっと少なくないのではないでしょうか。
今回は、ブンデスリーガの名門1.FCケルンで育成部長を務め、ケルン体育大学やドイツサッカー協会で指導者養成をしてきたクラウス・パブスト氏に、何も経験のないボランティアのお父さんコーチが「指導者としての第一歩目をどう踏み出せばいいのか?」というテーマで色々な質問をぶつけてみました。ぜひ参考にしてください。(取材協力:ファンルーツアカデミー)
※この記事は2015年6月配信記事の再掲載です。
■まずは1対1の練習から。「ダメ!」はコーチのNGワード
――たとえば、サッカー経験がなく、ボランティアでコーチをスタートさせたお父さんが、どう指導者として学んでいけばいいのかがわからない、という切実な声がサカイク編集部にも届くことがあります。クラウスさんから何かよいアドバイスはありますか?
「トレーニングの知識は他人からもらうよりも、自分で実践してみて、その経験から学んで蓄えていくものです。実践をして、まったくうまくいかずにミスをしても、それが学びのきっかけになって成長できるし、その失敗は必ずコーチとしての経験になっていきます。まずは目の前の子どもたちをしっかりと見てあげて、その子どもたちに一体何が必要なのか、ということを一生懸命考えることです」
――何から始めたらいいのかわからないという場合、こんな練習を大事にすればいい、というものはあるのでしょうか。
「まずは子どもに1対1からやらせてみるのはどうでしょう? 何より大事なことは子どもにプレーをさせることです。それがもっとも大事だということを念頭に置いてください。最初はもっともシンプルな1対1からスタートして、徐々に人数を増やして4対4まで持っていくのです。あまり深く考えこまず、まずは子どもにサッカーをさせてみてください。実際にはドイツでは、7歳、8歳くらいの子どもにピッチの幅と深みを理解させるために2対2や3対3のトレーニングを一回一回止めながら、『今どこに行ったらよかった?』『ゴールに攻めるためには前に行った方がいいよね?』などと理解させることをどんどんやっていきます。
――最初に1対1をさせるのはどうしてですか?
「サッカーはすべて1対1が基本なので、私のなかではまずそこから子どもにプレーしてほしいのです。最初からゲーム形式となると、ほとんど動かない子どもも出てきてしまいます。でも、1対1であれば絶対に動かなくてはいけないので積極的にプレーしますし、何より楽しめると思います。このとき、子どものプレーに対して『そんなプレーはやってはいけない!』といった言葉をぶつけるのは慎むべきです。そうではなくて、『今はどうするべきだった?』と子どもから答えを導き出すスタンスで寄り添い、良いプレーは褒めることを意識してください」
――ドイツでも子どもが萎縮してしまうシーンはあるのですか?
「残念ながらあります。子どもの脳は大人から『ダメ』と言われてしまうと、ダメという言葉を覚えてしまってポジティブになれなくなるので、気をつけてほしいですね」
■子どものプレーの、どこを、どう褒めたらよいのか?
――褒めることが大事なのはわかりますが、サッカー経験のないお父さんコーチのなかには、子どものプレーの、どこを、どう褒めたらよいのかわからずに困っている方もいるようです。
「たとえば、ドリブルでうまく抜け出したり、シュートまで行けたりしたときに、『よかったね』と一言伝えるだけでも全然違いますよ。子どもたちが果敢にチャレンジしたと思えるシーンは思い切ってどんどん褒めてください」
――たとえば、その1対1のトレーニングを子どもがモチベーションを持って、集中力を切らさずプレーする方法などはありますか?
「たとえば1対1ならば1分、2対2ならば2分などと時間制限を設けてどんどん交代をしながら進めてみてはいかがでしょう。それでも子どもが飽きたと感じたら途中にPK合戦などを入れて気分転換をさせたりします。今日のスクールでも、実は45分間も同じメニューを繰り返したのですが、子どもは飽きませんでした。メニューは実にシンプルで、二つのコーンを12、3メートルほど離して置いて、それぞれのコーンの横に子どもが一人ずつ立ちます。双方から交互にボールを蹴って、コーンに当てたら1点。これを1分30秒ほどの時間制限を設けて互いに競い合うのです。そのレーンを4つくらいに分けて、勝った人は、たとえばですが、チャンピオンズリーグのレーン、その次がヨーロッパリーグ、そしてブンデスリーグ、最後にJリーグ、というように、勝敗で順番をつけてレーンを移動するようにするのです。すると、勝てば結果が出るので5、6年生の子どもたちでも最後まで集中してやってくれます。途中でルールを変えて、苦手な足でコーンに当てたら2点などと工夫してやってみると、それだけで練習に一喜一憂できる雰囲気ができあがります。ゲーム感覚を持たせつつ、子どもたちの競争意識を引き出せるのが良いトレーニングだと思いますね」
――なるほど。その一方で、子どもの集中力が切れてしまっている、あるいは、何度問いかけても同じようなミスを繰り返している、といった場合などにはどんな対応をすればいいのでしょう?
「その場合は、同じようなミスを繰り返す子どものプレーのレベルを下げてあげること、少しアドバンテージを持てる形式を考えてあげるとよいと思います。先ほど例に挙げた1対1であれば、ミスを繰り返す子どものゴールを2つにしたり、あるいは、まずディフェンス側が強くアプローチに行かないという設定でシュートを打たせてあげたりとか、ポジティブなイメージをつけさせてあげることが大事だと思いますね」
■信頼関係をつくるには笑顔が大切。まずはコーチがリラックスすること!
――では、あまり頑張ろうとしない子どもを頑張らせるようにしたい場合はどうすれば?
「今日のスクール内にもそのような子どもがいました。最初にやったトレーニングから彼はもうパニックになっていて頑張ろうとしなかったんです。だから私はコーチと選手という間柄ではなく、まずは友達関係のような感覚で接して、彼にフラストレーションをためさせないように色々話しかけました。敵対心のようなものを持たせないようにしながら、徐々に距離を近づけていくのです。おそらく、彼自身も自分ができないとわかっているから『僕のことは嫌いなんでしょ?』と勝手に思い込んでしまう。だからまずその先入観を取り除いてあげるのです」
――その彼には言葉が通じなかったと思いますがどうしたのでしょう?
「信頼関係を築くためにボディータッチはしました。それから大事なのは笑顔で接することです。コーチもリラックスして笑顔で話してあげないと、コーチが緊張していることを子どもは瞬時に感じてしまうものです」
――コーチが何かを伝えても、あまり言うことを聞こうとしない子どもがいる場合はどう対応すれば?
「子どもがサッカーをやる意志がないとか、そういう態度が見えるのならば、当然ながら、その子どもを一度コートの外へ出して、たとえばこう伝えます。『私は君にサッカーを教えたい。一緒にサッカーをやりたいんだ。でも、もしそれを君ができないのならば今すぐ帰ったほうがいい』と。そう伝えるとだいたいの子どもはプレーするようになります(笑)」
――ではこんな例はどうでしょうか。練習ではひたすら頑張るけれど、試合になるといまいち頑張れない子どもがいる。
「これは憶測に過ぎませんが、その子どもが試合に出るときに色々な周りの目がありますよね? 子どもには、コーチやお父さんやお母さんに『ミスをしたときに何か言われるのではないか』という不安があるのかもしれない。『ミスをしたら交代するぞ!』と常日頃から言われてしまっていると、心のなかに傷が積もってしまうもの。すると練習ではうまくプレーできるのに、試合になると尻込みする子どもが生まれてしまう」
――ピッチの外からあれこれ怒鳴ってしまう親御さんもいます。この場合コーチはどう対応したらいいのでしょう?
「ドイツでもそういう親御さんはいます。色々言いたいこともあると思いますが、子どもたちはサッカーを始めてまだ1年や2年。理解できないことがたくさんあって、一つひとつ経験しながら学んでいく段階です。ですから、『こちらを信じもらえればお子さんは必ず成長します』などと親御さんに伝えて理解してもらうようにします。これはドイツでも同じですが、子どもはコーチとお父さんの両方が一緒にいると、どうしてもお父さんの方に耳を傾けてしまうもの。だから、ときにはお父さんのほうに『あまり子どもに言い過ぎないでください』と直接伝えることもあります。たとえば、7歳の子どもであれば、最初は自分とボール、ゴール、それと仲間くらいしか見えていないものです。ピッチ全体が見えるなんてそもそも無理なんです。だから、『なんで周りを見ないんだ!』などと言ってしまうのは非常に酷。ドリブル一つとってもいきなりメッシの様にうまく運べるわけがありません。彼らができることを見守ってあげる。そのスタンスの大事さを親御さんにも理解してほしいですね」
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取材・文/杜乃伍真 取材協力/ファンルーツアカデミー