インタビュー
U10年代のサッカーで身に付けておきたいのは「ゲームにおける振る舞い方」
公開:2021年5月12日 更新:2023年6月30日
サッカークラブとはサッカーを楽しむための場所。そこに通う子どもみんながサッカーが好きで好きでたまらないというわけではないけども、どんな子でも練習が終わった後に、「今日もサッカー楽しかったー!」と思って家路につけるのが最高ですよね。
今回は、ブンデスリーガの名門1.FCケルンで育成部長を務め、ケルン体育大学やドイツサッカー協会で指導者養成をしてきたクラウス・パプストさんに、低学年から高学年へ移行するU10年代の指導について話を聞きました。(取材・文:中野吉之伴、協力:ファンルーツ)
■指導者はサッカーができる環境を作り出す
「まず指導者が考えなければならない一番大事なことは、サッカークラブにきている子どもたちのためのトレーニングとして、サッカーができる環境を作り出すことが前提条件なんだよ」とクラウスさんは話します。サッカーができる環境をトレーニングで作り出すというのはどういうことでしょうか?
「それぞれのスポーツにはそれぞれのアプローチがあることを忘れてはいけない」
遠泳の選手なら泳ぐ距離を増やしていくためのアプローチをとることで、自分が泳げる距離を延ばしていける。スピードを競うスポーツなら100%の負荷とそこからの回復時間を考慮したトレーニングが必須になります。あるいは音楽家として楽譜通りに演奏することが将来的に必要になるのであれば、正確に演奏することを目的に練習を積むことが大切になるわけです。
「でもサッカーは違うんだ。サッカーは動きの中で、様々な変化の中で行われるスポーツだ。状況に応じたプレーをすることが求められるスポーツという側面からトレーニングも考えなければならない。サッカーの試合に必要な要素を身につけられる場を練習から取り入れることが入り口になるんだ。そうした点からもゲーム形式の練習を多くやることが必要不可欠なんだ。90分の練習時間だとしたら最低でもその半分の45分、私だったら60分はゲーム形式でトレーニングを組む。U10年代ということを考えると、基盤となるのは1対1から7対7まで(ドイツのU10-U11は7人制)。ただ数的同数でやるだけではなく、3対2や4対3といった数的有利・不利な形もたくさんやるのがいい。そうやって人数設定やルールにいろいろと変化をつけて、サッカーのゲームをする。そうすればコーディネーション要素も、技術的な要素も、認知要素も、戦術理解の要素も身についていく」
■「ゲームにおける振る舞い方」を身につける
ゲーム形式でトレーニングをするときの注意点は何でしょうか?子どもたちをいくつかのチームに分けてゲームをさせて、指導者は外から高見の見学で大丈夫?こうした時間と空間もとても大切です。特に現代の子どもたちは自分たちでコミュニケーションを取りながら、問題を解決するという機会が少ないとされているのですから、できるかぎり必然的に自分達から関わろうとする場を作ることが求められています。そんなゲーム形式のトレーニングを行う上で気をつけておくべきポイントは何でしょうか?クラウスさんはU10年代におけるゲーム形式で大切なのは「ゲームにおける振る舞い方」を身につけることだ、といいます。
「戦術という形で取り組むにはまだ少し早すぎると思う。ただ将来的にグループやチーム戦術を学ぼうにも選手がサッカーのメカニズムを知らなければ、対応するのが難しくなる。どんな戦術下でもベースとして、知っておかなければならない、サッカーというゲームにおける大原則。それを私は『ゲームにおける振る舞い方』という表現で伝えている。
例えば、攻撃で数的有利な状況だったら、どんな優先順位でプレーすべきでしょうか?逆に守備側は数的不利な状況だったらどのように守るべきなのでしょうか?
プレー指針がないまま「考えてプレーしろよ!」と言ってるだけでは、いつまでたっても選手の経験の中では確かな足し算が行われていないのです。
■なんでもドリブルでつっかけるのがナイスチャレンジ?
数的有利な状況なのにドリブルでつっかけてボールロストするのは、ナイスチャレンジでも何でもないんです。ボールを持っている選手が相手選手に向かって慌てずにドリブルをしてこちらに引き付けることができれば、周囲で完全なフリーの選手を作り出していくことがとても大切なんです。数的不利な状況で一か八かで飛び込んだら、あっという間に突破されてしまうだけです。本人はものすごく頑張っているつもりで走っているけど、ただボールの後ろを追いかけまわしているだけでは、いつまでたってもボールを奪い取ることはできないのです。
一番危険な場所をケアして守りながら相手の攻撃を遅らせることで、自分たちがアプローチできる機会を作ることができるわけです。
「ゲーム形式で行う何よりのメリットは常に攻守の切り替えがあることだ。ボールを失ったらボールに近い選手が当たる。他の選手は次に備えて動いていく。攻撃であればボールを奪った後にどうしたらいいだろう。ボールをまずキープしたほうがいいのはどんな時なのか。前にスペースがあるときにはどこを狙った攻撃を仕掛けるべきなのか。そうしたサッカーにおける普遍的な要素を少しずつ整理していくことが大事なんだ。そうしてサッカーというゲームを有利に進めるために必要となるベーシックなことを身につけていきたい」
■子どもたちにサッカーのメカニズムを理解させる声がけ
ではどのように伝えるのが望ましいのでしょう?クラウスは「ここで大事なのはストップは少なめにすること」というアドバイスをしてくれました。「ミニゲームをしばらくさせて観察する。例えばボールを奪った後どんな状況でもすぐにドリブルでつっかけたり、前にパスを出そうとするシーンが続いたとしよう。そうした時は一度ストップをしてみんなを集めて状況を整理する。ただどんな状況だったらそのまま攻めていいのかな?どんな状況だったらそこからドリブルを開始できるのかな?子どもたちから答えを引き出しながら、じゃあ、そこからすぐに攻めるべきではないときはどうしたらいい?という問いかけから、一度パスを下げて攻撃を組み立て直そうというイメージを自分たちで作っていく。そうしたらリスタート後はできるだけ、外から外からヒントとなる言葉をかけ続けてあげよう。『組み立て!マイボール大事に!』みたいな声から、彼らが何を連想し、そこからどんなプレーをするのか。そこをまた観察していく。そうした作業の繰り返しがとても大事なんだ」
何を意識するんだっけ?
なんで意識するんだっけ?
そこに丁寧に根気強くアプローチしていくことで、子供達はサッカーの基本メカニズムをじっくりと身につけていくことができるのです。
※COACH UNITED ACADEMYでは、ここで紹介したクラウスさんの指導法を動画で詳しく配信中です。ぜひそちらも参考にしてみてください。
●技術に自信がない子も上手くなる!ドイツ人コーチに聞く「ドリブル指導」で最も大事なポイント>>
【講師】クラウス・パブスト/
ドイツの名門「1.FCケルン」でユースコーチや育成部長を務め、ポドルスキなど多くのブンデスリーガを輩出。ケルンで最初となるサッカースクール「1.Jugend-Fusball-Schule Koln」を創設し、サッカー指導者養成機関としても知られる国立ドイツ体育大学ケルンで講師を務めるなどドイツサッカー育成の第一人者である。 日本へは何度も訪れており、指導者講習会や選手へのクリニックを開催。日本サッカーの育成にも造詣が深い。