第91回を迎えた「全国高校サッカー選手権」。今回も12月30日(日)から1月14日(月)にかけて、国立競技場などで開催されます。冬の風物詩として注目を集めるこの大会に憧れるジュニア世代や、その親御さんも多いのではないしょうか?今回はそんな選手権の見方、楽しみ方を第84回大会で優勝を果たした滋賀県・野洲高校の山本佳司監督にお聞きしてきました。クリエイティブなサッカーで毎年話題を巻き起こし、高校サッカーながらも多くのファンを抱える野洲の魅力は何と言っても“技術力”。なぜ、クリエイティブなサッカーにこだわるのか?山本監督の言葉には育成のためのヒントがたくさん詰まっています。
■選手権は1つ1つのプレーに高校生活を乗せた戦い
――高校サッカーならではの良さや見て欲しい部分は?
高校サッカー選手権とプロとの違いは負けたら引退で、チームが解散してしまう点。このメンバーで出来る最後の試合だから、思い入れはプリンスリーグとかに比べたら強いです。そういった思いというのはプラスもマイナスもあります。プラスの面では、負けたくないし、一戦必勝でチームワークが向上して、ハードワークが出来るようになる。ワンプレー、ワンプレーに高校生活を乗せてやる。そういう思いっていうのはプリンスリーグとかで見ているのとワケが違います。思い入れが凄いから、やっている方も見ている方もおもしろいですよね。マイナスの面では負けたくない意識が強すぎて、個人の判断とかよりも、チームの判断を優先したり、ミスしたくないとか意識が働いて自分の良さが出し切れなかったり、落ち着けなかったり。
そういう負けたら終わりっていう試合で、どういう事が出来るかは見所だと思います。野洲みたいに負けを恐れないというか、積極的だし、攻撃的だし、ミスを恐れないというか、遊んだりが出来るチームって少ないでしょう。だから、野洲を見た方が良いです(笑)。そういうシチュエーションの中で、クッと逆を取ったり、落ち着いたり、決してミスを恐れないで繋いで行ったり、そういう姿勢は大事だと思います。
――“チャレンジする姿勢”というのは確かに野洲らしさですね。
トライする姿勢は凄く大事だと思います。高校生活が育成年代でチャレンジできる最後だし、この大会を目指して、どう育てて、どう変わっていくかが大事でしょう。他校は負けたくないというサッカーをするチームがいっぱいですから。そういうスタイルの違いというか、育成への拘りとかは全然違うと思います。野洲みたいな決して負けを恐れることなく、積極的に自分たちがボールの主導権を持って、仕掛けるし、崩していこうとするチームは勇気が必要です。普通、選手権では負けたくないから、戦術的には守りを固めてくるでしょう。『頑張ってきます!』と言って、応援団とか皆来ているのに、失敗したくないに決まっています。それなら、良く粘って頑張ったなみたいな方が良い。皆、粘りたいと思いますよ。
■負けたらいけないって心が自分たちの力を出せなくする
――以前、仰っていた「負けたら何でダメなん?」という言葉が印象的でした。
そりゃ、もちろん勝ちたいですよ(笑)。でも、勝たないフリをして勝ちに行かないとダメだし、点を獲らないフリして獲りに行かないとダメ。“攻めるぞ!攻めるぞ!”とだけ思っていても、ダメ。そういう気持ちが自分たちにも必要だし、“負けたらいけない、負けたらいけない”って縛りが自分たちの力を良く出せなかったりすると思います。
――自分たちがしたいスタイルで結果を残すまでには時間がかかると思います。結果が出なくても自分たちがしたいことを続けるというは大変ではなかったですか?
結果が出ないから現実的なサッカーに切り替えて結果が出るなら、それで良いけど、そうとは限らない。だったら、自分たちがしたいサッカーを続けた方が良いと思います。変えたとしても、結果が出なかったら辛い話ですしね。とか言いながら来年はバンバン蹴っているかもしれないけど(笑)
別に蹴ることが嫌じゃないではなくて、繋がりがないのが嫌。蹴ると言ってもロングキックで、ボールを出すことは悪いとは思いませんけどね。
――山本監督のモットーとして、“世界で通用する選手を育てること”を掲げられています。今、現在、日本と世界との違いというのはありますか?
世界と日本の違いはこれだけ情報が進んでドンドン指導者も選手が行き来するようになってきたから、サッカー自体にそんなに差があるとは思わないけど、日本人はこれまで南米のサッカーもあり、ヨーロッパのサッカーもありとか右往左往していたと思います。最近は日本サッカー協会も『Japan’s way』といって、日本独自のスタイルを目指し始めて、育成年代はサッカーをしようってなった。でも、“サッカーって何?”って言ったら、これまではゴールにボールを入れるってことだけだと思っていたのではないでしょうか。そんな結果だけの話じゃなくて、育成年代では過程も必要だと思います。
山本佳司//
やまもと・けいじ
1963年滋賀県生まれ 日本体育大学卒業後の1986年にドイツ・ケルン大学へと留学。本場のサッカーに触れ指導者の道を歩み始める。帰国後は水口東高校を経て1996年に野洲高校に就任。当時、無名だった野洲高校を育てあげ、2006年の第84回全国高校サッカー選手権大会では2度目の出場ながらも優勝へと導いた。
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取材・文・写真/森田将義