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サッカー豆知識

なぜGKだけが手を使ってもいいの? サッカーを変えたGKの歴史

公開:2013年11月 6日 更新:2020年10月 6日

キーワード:GKゴールキーパー

 以前、「ハンド」はなぜ反則なのか?で、サッカーの基本中の基本「手を使ってはいけない」理由についてお話しました。みなさんもご存じのように、このルールには例外があります。ピッチにいる選手たちの中で唯一手を使ってもいいポジション。それがゴールキーパー(以下GK)です。
GK ボール.jpg
 最後方から味方を鼓舞して、ディフェンスラインを操る。近年では足下のボール扱いも求められ、時にはディフェンスから攻撃の組み立てに関わるボール回しにも加わる。GKは、チームに一人しかいない、特殊なポジションです。

■サッカーの概念を変えた? GKの誕生

 サッカーのルールが徐々に整えられていったものであることは、すでに何度かご紹介していますが、GKが誕生したのはいつくらいのことだと思いますか?意外に思われる方もいると思いますが、GKはサッカーのポジションとしては、2番目に古いポジションです。
 1863年に世界最初のサッカー協会、FAが誕生し、統一ルールが施行された後も、初期のサッカーは混乱の中にありました。イングランドでは、ドリブルやパスの概念があまりなく、ボール持ったら前線に蹴り出すキック&ラッシュが主流。ポジションも必然的にFWとそれ以外という形になり、現在のMF、DFは影も形もありませんでした。
 1871年になると、世界最古のカップ戦として知られるFAカップのルールの中に新たなポジションが加わります。すでに基本的にはボールを手で扱わないスポーツになっていたサッカーに例外として認められたGKの誕生です。
 それ以前のゴール前はどんな様子だったのでしょう? 実はGKが正式に認められる前から、ゴール前で守備をする選手は存在していました。しかし、それはピンチの時に一番近くにいた人だったり、走れなくなったりけが人だったりと、なんとも"余り"感の強いものでした。1871年のルールで正式にGKが加わると、GKを中心に"ゴールを守る"という考え方が生まれます。それまでは相手のゴールを奪うことばかりに集中していた選手たちが「ディフェンス」についても考えるようになり、ピッチに選手が散らばるフォーメーションのようなものが形作られていきました。サッカーの中で手を使ってもいい、ゴールを守ることだけに専念する特殊なプレイヤー、GKの誕生が、現代サッカーにつながる、新たな潮流を生んだのです。
キーパー 練習.jpg

■足下の技術を求められる現代のGK

 誕生当初のGKは自陣であればどこでも手を使っていいとされていました。自分のゴールを守ることが目的ですから、あまり遠くまで"遠征する"ことはなかったと思いますが、1912年には手を使える範囲が「ペナルティエリア内」に制限されます。
 それまでには、キーパーへの強引な身体接触を禁じる「キーパーチャージ」が導入されたり、GKはフィールドプレイヤーと別のユニフォームを着なければいけなくなったりと、私たちのよく知るGK像にだいぶ近づいてきています。
 時代が進むと、GKはさらにたくさんの役割を担うことになります。1992年には味方が意図的にパスしたボールに対して手を使うことが禁止されます。このルール変更によって、GKにもフィールドプレイヤーと同じように足でボールを扱う技術が求められるようになります。バルセロナのビクトル・バルデスに代表されるように現代のGKはみんな足下の技術に長けていますよね。
 ちなみに、GKを特別に保護する「キーパーチャージ」は現在はルール改正で姿を消しています。もちろんこれは、GKにはファウルをしてもいいという意味ではありません。しばらくサッカーから離れていたお父さんから「キーパーチャージ!」 なんて声が飛ぶこともたまにありますが、現在のルールではGKもフィールドプレイヤーと同じ基準でファウルを判定するようになっています。
GK技術.jpg

■不人気ポジション? 特別なポジション?

 あらゆる意味で特別な感じのあるGK。日本では子どもたちがやりたがらないポジションの代名詞に挙げられることもあります。確かに1チームに一人しかピッチに立てないGKはフィールドプレイヤーに比べて「つぶしの効かない」ポジションに思えます。しかし、ルールの変更、戦術の進化により、フィールドプレイヤー並の足下が求められるようになり、フィールドプレイヤーからの転向、復帰へのハードルは下がっています。
以前は「もっと専門的な練習だけをやるべきだ」と言われ、GKを必要以上に特殊なポジションとして捉える向きもあったのですが、現在は「小学生ならば色々なポジションを経験させることがプラスになる」という考え方も浸透してきています。かつてマンチェスターユナイテッドの正GKを務めたオランダ人、ファンデルサールも少年時代はヘディングでゴールを量産するFWの選手だったそうです。専門的な技術の獲得も早く始めるに越したことはありませんが、GKがフィールドプレイヤーと同じメニューをこなすことも意義深いことです。
肝心の、なぜGKだけが手を使ってもいいと決まったのか? という問題ですが、残念ながら明確な理由は残っていません。経緯を追って見ていくと、すでにゴールを守るために存在していたGKをルールが後追いで認めたというところでしょう。自然発生的に必要に迫られて誕生したGKというポジションは他のスポーツに比べて極端に点が入りにくいサッカーを象徴するポジションといえるでしょう。
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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文/大塚一樹 写真/新井賢一(ダノンネーションズカップ2013より)

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