去る11月29日、東アジア選手権を戦う日本代表メンバーが発表されました。中でも注目を集めたのが、熊本県立大津高校出身の選手が同時に3人も選ばれたことでした。
鹿島アントラーズの植田直通、川崎フロンターレの谷口彰悟と車屋紳太郎。3人に共通するのは「個性」と「強み」がはっきりとしていること。植田は抜群の身体能力と危機察知能力。谷口は視野が広く、戦術眼に長けたクレバーな選手で足元の技術も高い。車屋はスピードとスタミナ、そして正確なプレー。それを評価され彼らは代表に選ばれたのです。
しかし、自らの強みを自分で見つけて順調に伸ばしていくのは容易なことではありません。本人が自覚する強みと、指導者の目で見た強みが必ずしも一致するとは限りません。場合によっては、本人が不得手と考えているプレーが、磨けば光る可能性を秘めている場合もあります。あるいは、プレーしたことのないポジションに実は適性があり、そこを極めることで大成する可能性を秘めているかもしれません。(取材・文 井芹貴志)
■ストロングポイントを意識させる
平岡監督は、生徒たちが大津高で過ごす3年間で、その強み、ストロングポイントを見出して徹底的に磨き、高めることに注力しています。
「漠然とサッカーをやるのではなく、『君のストロングはこれだよ』とフォーカスする。そして子どもたちに『自分の武器はこれだ』と自覚させて磨かせること。ウィークポイントに関しては、『監督から言われないように、上手くなるように自分で努力しよう』となる方が、選手にとっても気付きの量が増えます。逆に『ここがダメだ』と言われ続けたら消極的になってしまう。ストロングポイントを徹底的に磨きつつ、ウィークポイントを克服していく」
自分の得意な部分を認められ褒められれば、「もっと上手くなってもっと褒められたい」という欲も出てきます。ウィークポイントを克服することも大切ですが、それは段階的に高めていけばいいと、平岡監督は考えています。
「勝負の世界で生き残るには、アベレージが高いだけでなく、『武器』を身につけなければならない。それを褒められて、認められて、サッカーをもっと好きになって、もっと上手くなりたいと思える環境を作る。1年生は特にストロングポイントを意識してトレーニングに臨ませます。2年生に進級した時に少し成長が鈍ることがあります。それは『もっと上手くなりたい』という欲からウィークポイントにかける時間が増えてしまうからです。しかし本人の強みを気づかせることができれば、3年生になって一気に上がっていく」
ストロングポイントを見極めるのは、主にゲームを通じてです。
「ストロングポイントを理解できていない選手は、プレーが中途半端になります。このポジションで起用されるということは、自分の強みである縦への速さを出さなきゃいけないとか、相手のエースに粘り強くついて抑えるんだとか。使われる理由を分かっていて、それを表現できる選手は監督としても使いやすい。せっかく持っている良い部分を高められなかったり、そこを伝えても反応が鈍かったりすると、なかなかゲームでは生かせなくなってしまいます」
■ストロングポイントを磨く――ハンカチの例え
平岡監督は1枚のハンカチに例えて説明してくれました。
「ドリブル、ヘディング、スピード、シュートがハンカチの四隅にあるとします。ハンカチの1つの角を持ち上げても全部は持ち上がらず、周りは上がってきません。でもハンカチの真ん中をつまんで持ち上げれば、四隅が全部、上がりますよね。
『何が武器なのか』を見極めて、ストロングな部分をハンカチの真ん中に持ってくる。試合に使う理由は『このプレーがいいからだよ。お前のストロングを発揮するしかないじゃないか』と言ってハッパをかける。ただ頑張るより『自分の武器を認められて試合に出るんだから、絶対にチームに貢献してやろう』という考え方のできる人間は、社会に出てからも役に立つ人間になると思うんです」