サッカー豆知識
トレセンではピッチ外も注視! 日本サッカー協会が制定する「トレセンの選手として」の生活習慣5か条とは
公開:2020年10月12日 更新:2020年10月19日
サッカーをする子どもたちや保護者にとって、興味の対象である「トレセン」について、日本サッカー協会(JFA)ユース育成ダイレクターの池内豊さんに話をうがかいました。
インタビュー後編では、トレセンの意義やオフ・ザ・ピッチでの取り組みなどをお伝えします。
(取材・文:鈴木智之)
<<前編:トレセンは日本代表への切符? どんなスキルを重視しているの? 日本サッカー協会に聞いた最新トレセン事情
■トレセンは日本独自の活動 なぜ海外にはトレセンがないのか
池内さんはトレセンの意義について、まずはこう話します。
「トレセン活動の意義として、拮抗したレベルで練習や試合ができることがあります。子どもたちに『お山の大将』で満足しないように刺激を与え、勝ちか負けかどちらに転ぶかわからない相手と試合をする中で、『どうすれば、相手を上回ることができるか?』を考えるようになります。その環境を用意するのが、トレセン活動の意義のひとつです」
上達のためには、レベルの拮抗した相手と試合やトレーニングをすることが必要です。その環境があれば、子どもたちは自ら考え、成長するための努力に視線を向けていきます。
「ヨーロッパには、シーズンを通したリーグ戦があり1部、2部、3部とカテゴリーに分かれていることで選手のレベルに応じたリーグに参加できる環境が整っています。そして、一番上のカテゴリーである1部のクラブに、質の高い選手がいます。日本も育成年代にリーグ戦を導入し始めましたが、クラブのカテゴリー分けも含めて、整備している途中です。そのため、色々なチームに良い選手がいます。そこでトレセンを活用し、選手の発掘や刺激を与える場としています」
池内さんは「ドイツには、日本のトレセンを参考にした活動がありますが、それ以外の国には存在しないと思います」と話し、その理由を「育成はクラブでするものという考えがあるからではないでしょうか」と言います。
日本のジュニア年代では、リーグ戦を最優先ととらえないクラブも多く、ヨーロッパのように、リーグ戦を中心シーズンが進んでいく文化が浸透していないのが現状です。
シーズンを通して、レベルが拮抗した相手との試合ができれば、一番の強化になるのですが、トーナメント形式をベースとした大会が多く、リーグ戦がカレンダーの中心になっていない以上、トレセンという日本独自の活動が広まってきたことも合点がいきます。
■トレセンで実力を存分に発揮するための準備
日本サッカー協会としても、トレセンをさらに有効活用できるように、リーグ戦の導入と平行して、トレセンの整備にも取り組んでいるようです。
「これまで、トレセンの指導はボランティアの方々に支えられてきました。その環境を少しでも良くするために、47FA(都道府県サッカー協会)に技術の専任者を置いて、地域のトレセンのリーダーになってほしいと思っています。そこにJFAが補助金を出す形で進めていて、47FAのうち20ほどの地域で実施しています」
静岡県では、すでにその制度が導入されていて、JFAのサポートを受けた専任者が指導しています。池内さんは「指導の質が上がり、選手のレベルも上がってきました。その成果が、(2019年の)国体(U‐16)での優勝にもつながっていると思います」と手応えを口にします。
トレセンやセレクションなどの「選ばれる舞台」でプレーするのは緊張するもの。なかでも、経験の少ない子どもたちは、緊張して普段の力が出せないといったこともあるでしょう。
そんな子どもたちに対し、池内さんは「前日や当日に何かをしたとしても、大きく変わることはありません。だからこそ、そこまでに何ができたか、いい準備ができたかが大切になります」とエールを送ります。
「トレセンやセレクションで力が発揮できなかった、メンバーに入れなかったとしても『自分はこれだけやってきたのだから、後悔はない』という心理状態になれるかどうかです。プレー会場で不安を感じるのは、やり残したことがあるということ。次はそうならないように、頑張るしかありません。12歳のときにトレセンに選ばれなくても、コツコツやってきた子が追い越していく例は、たくさんあります。次のチャンスは絶対にあるし、それが報われる環境が日本サッカーにはあります」
■サッカーがうまくなるために必要なことは日常生活にも関わっている
トレセンではオン・ザ・ピッチのプレーに加えて、日常生活での取り組みや姿勢も大切にしているそうです。JFAのトレセン活動では、「トレセンの選手として」と題し、生活習慣の5か条を制定しています。
それが、次の5つです。
1:自分の物の管理に責任を持とう
2:ルールを守ろう
3:あいさつをしよう
4:サッカー選手として、何をすべきかをいつも考えよう
5:何事も積極的に!前向きに!
池内さんは「自分で判断して実行することなど、サッカーがうまくなるためにすることは、実際の生活にも関わってきます」と言います。
「ただし、大人が『あいさつしろ』『片付けしろ』『準備しろ』と言って、子ども自身に理解させず、形だけやらせても意味がありません。指導者に言われたから、チームのルールだからカバンをきれいに並べるのではなく、なぜカバンを並べたほうがいいのかを考え、そのために行動することが大切なのです。それができたら、ピッチの中で自分で判断して、実行したことが力になり、サッカー自体も伸びていくと思います」
ピッチ内外で自分で判断し、行動すること。レベルの高い仲間と切磋琢磨すること。そのような日々の積み重ねこそが、サッカー選手としての成長につながります。
トレセンはその一助になりますが、12歳の時点で選ばれなかったといって、悲観する必要はありません。子どもも保護者もそれを念頭に入れて、一喜一憂せず、自らの課題に向き合って、地道にトレーニングしていくことこそが、成長のためにもっとも大切なことではないでしょうか。
池内豊(いけうち・ゆたか)
現役時代はフジタ工業クラブサッカー部などに所属、1981年には日本サッカーリーグ1部で新人王を獲得。日本代表としてワールドカップ予選にも出場。引退後は名古屋グランパスエイトユースで指導者の道に進む。2007年にU-15日本代表監督に就任、2009年のFIFA U-17ワールドカップでも指揮を執った。現在はJFAユース育成ダイレクターを務める。