連載でもおなじみの大西貴さんに、読者であるお母さんからご相談がありました。チームによっては1学年に20人もしくはそれ以上というクラブも多いでしょう。おそらくたくさんの親御さんが悩まれているこのテーマに、大西さんが丁寧にアドバイスをくださいました。
<<ご相談内容 ※原文のまま掲載しています>>うちの息子(小4)は、地元小学校チームで父兄コーチのもと、4年間サッカーを続けています。今の同学年の子達の中で1年生のはじめから誰よりも早く部に入ってサッカーをしてきました。練習や試合に休まず参加していますが 残念なことに、トーナメント大会や市大会等上につながる大会には、4年生大会でも試合に出してもらえないレベルです。コーチは、より多く試合に出るために(?)練習や試合を他の用事や気分で休むことが多い選手でも、実力のある選手を優先して起用します。そんなチームで息子は、絶対出場できないであろうサッカーの試合と必ず参加できるスポーツイベント(陸上記録会等)の日程が重なった時、確実にサッカーを選び参加します。結果、試合に出られずに帰ります。勝って喜んでいる友達の輪に入りきれずに、しょんぼりしていたりもするけど、だからといって試合に出るために練習をしたり、工夫したりしている風でもなく、を繰り返しています。そのような態度をみると 陸上記録会に出れば良かったのに と親としては思うわけですが、このままどちらに参加するかは、子どもの判断に任せていいのでしょうか?陸上もサッカーの試合が入る前に聞くと、参加するといっているだけに迷っています。うまくないけど、サッカーが好きだから いいのかなぁ・・・プロを目指しているわけではないので。
■子どもが努力している姿をまずは見守る。子も親も追い込まれる必要はない
――この質問、かなり深刻な問題ですね。
大西「僕、この質問を頂いて色々と回答を考えたんですけど・・・重いですよねえ・・・」
――正直、僕(筆者)も悩んでしまいました。でも、お子さん本人はすごくサッカーが好きなことも伝わってきます。
大西「そうなんです。すごくサッカーが好きなんですよ。サッカー選手が練習をするのは試合に出る目標があるから。これは僕も高校生などの育成年代の選手たちに言うんですが、試合というのは『試しあう場』。指導者の問題については僕らがどうすることもできないんですが、そこに参加できないことは子どもにとっては不幸なことだと思います。
でも、この子どもさんは、練習試合も含めて色々な試合に出ることでうまくなるために、今は試合に出られなくても参加して、勝ち負けの輪に加われなくても、サッカーを頑張っているんじゃないかなと。それくらいサッカーが好きなんだと思うんですよ。その中でどう頑張ったらいいのか。どう努力をしたらいいのか。ひょっとしたら子どもさんは今、その部分で努力の仕方がわからないのかもしれないですね。
親御さんとしては、そこを暖かく見守ってあげることが大事ですね。子どもさんが試合に出られなくてもサッカーに真摯に取り組んで、練習で一生懸命参加していることは、今後の人生を考えれば、決して無駄ではない経験を積んでいるわけですから」
――今は「辛い経験であったとしても」ですよね。
大西「そこで我慢することを覚えて、それが人生の上でプラスに働くかもしれない。僕が子どもさんを毎日見て判断しているわけではないので、難しい部分はあるんですけど。特に小学生は多感な時期でもありますし、このケースでは陸上競技に行かずにサッカーにいっているわけですから、子どもが努力している姿をまずは見守ってあげることが必要になってきますよね。
もちろん市内大会とかで勝つことは大事なことだとは思いますけど、今はジュニアの大会で活躍する、しないにかかわらずいい選手は見つけ出されますし、さらにその中でプロ選手になるのは、実は東大に入るより難しいことですから。
もっといえば今のポジションが適材適所かどうかもわからない。メッシ(バルセロナ)がサイドバックだったら、今の活躍はないでしょうし、福西崇史(元日本代表、現・解説者)も磐田で新居浜工業高校時代のFWからボランチに転向しなかったら、代表にはなれていなかったでしょう。
だからこそ僕はまず、子どもたちにはサッカーを通して色々なことを学んでほしいし、サッカーをずっと続けてほしいと思っています。なので、僕が指導する松山北高校も試合のレベル、出場時間の長短はともかくとして全員を試合に出すことはしていますよ。
そのことを踏まえて、この子どもさんについてお話をさせてもらえば、試合という学びの場が現在ないことは確かに辛く、かわいそうなことではあるんですが、これまでのトレーニングや仲間作り、人との付き合いを経験して、これからのトレーニングの中で成長できれば、もしかしたら次の試合に出られるかもしれない。子どもさんも親御さんも追い込まれる必要は全くないですよ!
ですので、親御さんとしては子どもとのコミュニケーションの中でそんな呼びかけをしてあげれば。サッカーを好きでいることは誰もが持っている権利ですし、子ども自身が『サッカーが嫌だ』と言わないかぎり、サッカーには行かせてあげればいいと思います」
■子ども自身が『どうなりたい』いう行動に対し、いかに耳を傾けるか
――となると「努力の仕方」を一緒に考えてあげることは必要かもしれませんね。
大西「ただそれも押し付けにならないようにアプローチすることですね。ボールが蹴りたいといったら、一緒に蹴ってあげるみたいな。
小学校4年生であれば、目標をもってやればまだ可能性はいっぱいありますし、今後レギュラーになる、ならないはともかく、サッカーを楽しんでいるのであれば、そのまま続けていってほしいですね」
――親としては「サッカーをしたい。練習がしたい」といった子どものサインを見逃さないことも重要でしょうね。
大西「あくまでも主人公は子どもですから。子どもがどうしたいかがポイントになってくると思います。そこで『サッカーに行きたい』と子どもが言えば、連れて行ってあげればいいと思うんです。正直、この問題についての正解はないと思います。ただ、全国多くのサッカーキッズを持つ親御さんが抱えている悩みの1つだとは思うんですよ。
そして、恐らく今後、試合に出られなくて本当に悔しいのであれば、子どもさんは何か行動を起こすと思います。そこで親御さんがどう捉えてフォローしていくか。ですね。
この質問を見ると指導者はボランティアで参加されている方でしょうし、指導者のことをいくら言っても現状は変らないと思います。ですから、親御さんは現状が変らない中でその子自身が『どうなりたい』いう行動に対し、いかに耳を傾けるか。そして子どものサインを見逃さないようにしていくことが大事ですね」
――子どもさん、本当に頑張ってほしいと思います!
大西「僕も、このような純粋さを持っているからこそ頑張ってほしいと思っています。最終的に陸上を選択しても構わないんです。最終的にその子が何を選択するかが一番重要なんですから。それでも難しい場合は、愛媛県松山市にいらしてください!一緒にお話しましょう!」
大西 貴(おおにし・たかし)※写真の後列中央//
1971年・愛媛県生まれ。南宇和高では主将として1989年度の第68回全国高校サッカー大会制覇。福岡大を経て1994年に広島へ入団し主にDFとして広島で3年間、京都で1年間プレーしJ1・21試合に出場。広島時代はマンチェスター・ユナイテッドへの短期留学も経験する。そして1998年には当時四国リーグ所属だった愛媛へ里帰り。愛媛FCでサッカースクールコーチを務めつつ2001~2003年には選手兼監督・2004年には監督専任で4年間JFLでも采配を振るった。その後は2年間の愛媛ユース監督経験を経て、現在は愛媛県立松山北高コーチ、スカパー!愛媛中継解説者として活躍中。日本サッカー協会公認A級ライセンス保持。
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取材・文・写真/寺下 友徳、写真/木鋪虎雄(2011チビリンピックより)