なでしこジャパンのワールドカップ優勝、2012年に開催されるロンドン五輪の女子サッカー出場権獲得に沸いた今年の日本女子サッカー界。今後は競技人口の増加も期待されますが、町クラブの現状はどうなのでしょうか?
長年に渡り女子サッカーを指導してきた横須賀シーガルズ・女子チーム監督の亀田勝昭さんにお話を聞いてみました。
■女子サッカーの強化は、競技人口の増加に繋がったのか
――シーガルズの女子チームは設立30周年ということですが、当時は、女子サッカーどころか男子のサッカーもマイナーな競技でした。そんな時代に、なぜ女子チームを立ち上げようと考えられたのですか?
シーガルズの森雅夫代表が渡米した際に、アメリカ人の女子が男子と対等にサッカーを楽しんでいる姿を見て、日本でも女子のサッカー愛好者をたくさん育てれば、彼女たちが、やがて母親となったときに自分の子どもにサッカーの楽しさを伝えてくれるのではないだろうかと考えたんですね。
そこで、そんな環境を作ることも日本サッカー界の強化に繋がるならと、すでに男子チームで活動をしていた女子選手を中心とした少女だけのチームを発足させたんです。つまり「日本のサッカーを強くしたい!」という思いが、女子チーム設立のきっかけです。
――なでしこジャパンが活躍したことで、女子サッカーも世間に認知されることとなりました。設立当初の思いが実現する日も近づいてきたのではないでしょうか?
シーガルズが、ワールドカップの優勝メンバーである大野忍選手、近賀ゆかり選手、矢野喬子選手の出身クラブということもあり、テレビや新聞などのメディアに取り上げられることはありました。ところが、一番期待していた「シーガルズでサッカーをやってみたい!」いう声は、残念ながらほとんどなかったんです。
――脚光を浴びているのは代表だけで、育成年代の女子サッカークラブにまでは、効果が波及していないということですか?
日本サッカー協会は、2000年から女子サッカーの育成・普及に尽力しているのですが、その効果が現れたのは、代表選手の育成を実施してきた“強化”の部分です。一方で、効果の現れていないのが、“競技人口の増加”です。
日本のサッカー界は、代表を頂点とするピラミッド型の構造となっていますが、育成年代という、底辺の部分を拡大することができなければ、この先、世界のトップクラスを維持することは難しいのではないでしょうか。
■女子がサッカーを続けることのできる環境は整っているのか
――そもそも、女の子は、何がきっかけとなってサッカーを始めるのでしょうか?
シーガルズの場合は、お兄ちゃんがサッカークラブに入ったから一緒に入ったという子がもっとも多いようです。ついで友だちに誘われたからという理由です。このふたつ以外はほとんどないようですね。
――小学生年代では男子と混ざって活動をするケースが非常に多いですよね。
小学生のうちは男女混合チームで、技術・体力・判断力の指導を受け、男子と一緒に試合に出場しても存分に力を発揮し活躍することができると思います。
――中学生以降になると、男女混合はむずかしいのですか?
中学1年生の夏休みまでは男女の体力差はあまりないのですが、その後は顕著に現れてきます。体力差が判断力や技術力にも影響し、男子に混ざって試合に出場することがほとんど不可能となってきます。
――せっかく小学生のときに頑張っても、中学、高校と進むにつれてサッカーを辞めてしまう女の子も多いようですね。
女子はサッカーを続けるための目的意識が希薄になってしまうからなのです。男子のようにサッカーを中心とした生活パターンができにくいのです。これは、進学先の学校に女子サッカー部がないこと、また社会人になってからも競技としてサッカーを続けていけるだけの環境が整っていないことが原因だと考えられます。
――地元に女子のサッカークラブがないために、遠方から2時間以上もかけてシーガルズに通ってくる選手も多いとか。
横須賀市以外から通っている選手もたくさんいます。遠くからでもサッカーをやりに来る子は、かなりモチベーションの高い子です。一生懸命に取り組んでいます。サッカーに賭ける情熱がなければ到底続きません。
ですから、そうまでしなくても女性がサッカーを気軽に楽しんで続けていくことのできる地域密着型の環境を整備することが、競技人口を増加させるためには急務だと思うのです。
女子チーム監督:亀田勝昭さん
●NPO法人 横須賀シーガルズ・スポーツクラブ
神奈川県横須賀市で活動をする総合型のスポーツクラブ。1977年設立のスポーツ少年団を母体に、女子チームは1982年に発足した。「1人の代表選手を育てるより100人のサッカー好きを育てたい」との趣旨で活動をし、現在は、少女(小学生)、U-15(中学生)、U-18(高校生)、レディース(社会人)、婦人(ママさん)のカテゴリーを有し、総勢110名の女子選手を抱える。
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取材・文・写真:山本浩之