サッカーと出会い、やってみたいなと思う時期は人それぞれです。早期教育の有効性が盛んに叫ばれ、どのジャンルでもはじめるなら早ければ早い方がいいとされる風潮もあるかと思いますが、それだけが正解ではありません。筆者自身、サッカーを始めたのは高校に入ってから。その点だけで考えると致命的なデメリットとなりそうですが、遅く始めたからといってサッカーがうまくならないわけではありません。ボールに触れている時間がとにかく楽しかったので、遅くからスタートしたことをマイナスに考えたことはありませんし、大学卒業後にドイツにきてからは毎週リーグ戦という環境に身を置けたことも大きかったと思われます。33歳の時にはドイツサッカー協会A級ライセンス講習会で、元ドイツ代表選手や元ブンデスリーガ選手を含む同期の仲間との紅白戦でしっかりとサッカーができるレベルにまで成長することができました。(取材・文 中野吉之伴)
[読者からのしつもん]
サッカーをはじめるのは、早ければ早いほどいいのでしょうか? 4年生からサッカー少年団に入った息子は、1年生からはじめた子には勝てないのでしょうか? 教えてクラウスコーチ!!
■子どものレベルに合った環境からはじめよう
遅い段階でクラブに入団してくる。これはどんな少年サッカーチームでもあることだと思います。そのような子をどのように迎え入れ、サポートすべきか。サッカー経験者とはどうしたって差がありますから、最初からすべてがうまくいくわけではありません。すでにほかのスポーツをしていて、基本的な運動能力を持っている子ならば、そこまで問題はないかもしれません。しかし、これまでスポーツをほとんどしていなかったという子が入ってくることもあります。ボールを扱うどころか、身体の使い方もうまくはない。ほかの子どもたちと一緒に練習をしていても明らかに大きな差がある。そうしたときに「君はサッカーに向いていないから」とさじを投げてしまっていいのでしょうか。
「優秀な子どもたちが集まったトップレベルのクラブだったら、うまくいかない子どもはそこでの挑戦をあきらめて、自分のレベルに合ったクラブを探すという選択肢がある。でも、普通にあるアマチュアクラブはだれでも登録することができる存在だ。私にとってまず大切なのは、子どもたちがサッカーをしたくて、うまくなりたくて練習に来ているという環境だよ。代表選手を育てることが目標じゃないんだ。サッカーをしに来ているはずの子どもたちに、わざわざ『いいか、一生懸命サッカーをするんだぞ!』なんて言いたくもない。サッカーをしたくてうちに来る子どもたちを、私はポジティブにサポートしたい」
■まわりの子と比べる必要はない!「できない」という視点は捨てよう
クラウスはそう指摘します。「できない」という視点を持つということは、ほかの何かと比較しているから生まれるものです。チーム内のできている選手、あるいはその年代までに到達してほしい理想とする目標。そしてできる方を基準にものを見てしまい、「彼と彼はできるのに、何であいつはできないんだ」という視線を持ってしまう。練習がうまくいかないのは子どもたちの技術不足ではなく、コーチが難易度や強度の調整を間違えたためです。できないことをできるように導いていくのがトレーニングです。外から定められた枠にばかり縛られるべきではないですし、その子にとって今やっている練習が難しいならば下の学年でもできるような簡単な練習から始めるのが大事です。クラウスも同調します。
「その通りだ。練習ではつねに子どもたちの能力、状態に応じた難易度、強度が調整されなければならないからね。そしてコーチや親はつねに我慢強く成長を待たなければならない。『なんでいつまでもできないんだ』というイライラは子どもにとってストレスにしかならないし、それで成長が促されることはない」
「うちのサッカースクールにも、ときにはまったくサッカーができない子が来ることがある。でも、自分から練習に取り組める環境をつくり、ポジティブに励まし、時間をかけて見守れば、仲間たちとサッカーができるレベルには到達できるんだ。誰もがプロになれるとは言わない。でもサッカーができるレベルにはなれるんだ」
●この記事を読んだ方へおすすめ●
子どもが夢中になる!1対1に強くなる練習メニュー
負けず嫌いな子どもの「やる気」を引き出しながら、1対1や球際の強さ、シュートへの意識などもしっかり身につけられるトレーニングメニュー集。今なら無料メルマガ登録で練習メニューの一部を試聴することができます!
商品詳細はこちら
取材・文 中野吉之伴 Photo by Chip Griffin