こころ
勝ちたいなら、優勝したいなら... 外付けの動機だと心が折れてしまうことも。自ら頑張れるために必要なこと
公開:2020年5月19日
39の県で緊急事態宣言が解除されましたが、コロナ禍でサッカークラブは活動休止、自粛しているところも多く、大会の中止が相次いでいます。夏の高校総体(インターハイ)も早々に中止が決まるなど、大会を見据えて努力していた選手たちの気持ちはどこに向かうのか。先の見えない日々が続いています。
すぐに切り替えられる選手もいるかもしれませんが、多くの選手たちにとっては開催が難しい状況があることを頭で理解していても、気持ちの整理をするのは難しいものです。
そんなとき、大人たちはどう接したらいいのか。しつもんメンタルトレーニングの藤代圭一さんにお伺いしました。
(取材・文:鈴木智之)
■どうしてスポーツをしているの? 根本を見つめる機会に
インターハイの中止が決まった日、藤代圭一さんは自身のFacebookに次のような投稿をしました。
スポーツに関わる人間として「大きな大会がないなら、スポーツやる価値なんてない」と感じてしまう選手がいることに悲しさを感じています。
「どうして、スポーツをしているの?」
この問いに立ち返ることが大事だと思っています。
スポーツを彼らが言う「そこまでの価値」にしてしまったのはぼくたち大人です。
ぼくたち大人はきみたち選手に対し、試合に勝てなければ怒り、他者と比較し続け、成長する気がないのなら辞めろと言ってきた。
もっとも楽しいであろう「試合」は限られた選手にしか機会を与えず、休息や余白の時間を奪い、TVではメダルの数ばかりを追いかけている。
スポーツを通じて、きみたちの土の中に伸び続ける根っこではなく、土の外に綺麗な花を咲かせることばかり考えてきた。
でも、スポーツってそんな小さなものでないよね。
ぼくたち大人は立ち止まり、見つめたい。
「どうしてスポーツをするのか?」
誰かに認めてほしくてやってるのか?
試合に勝ちたいからやってるのか?
一緒に喜びをわかちあいたいからやってるのか?
将来の夢のためにやってるのか?
成長を感じたいからやってるのか?
どれも正解だし、間違ってない。やる気にはいろんな要素があって、どれもが関わり合ってる。
でも、根っこにある気持ちも思いだしてほしい。
「好きだからやってる」
それ以上でも、それ以下でもなくて、シンプルな気持ち。
まわりから見たら「努力」に見えたり、いろんなことを「我慢」していると見えることでも、努力や我慢だなんて思っていなくて、夢中になって取り組んでいた時期があったはず。
日が暮れるまでボールを追いかけ、やめなさいと言われても、その言葉は耳に入らず、夢中になって取り組んでた。
大きな大会がなくたって、上手じゃなくても、自分で目標をつくり、新たな発見をして、自ら工夫し、たくさん汗をかいて遊んでいたはず。
そして「好き」がおなじという共通点をもとに、年齢も性別も言語も考え方の違いも越えて一瞬でつながることもできる。
「どうしてスポーツをしているのか?」
大きな大会は目標であって、目的じゃない。
僕たち大人は、立ち止まり、見つめたい。
新型コロナウイルスの影響でこうした状況になっても、ぼくたち大人がつくってきた「仕組み」と「構造」は再度、おなじようにつくれられ、新たに生まれ変わることはないかもしれません。
自戒と自分の未熟さと今後の活動に活かしていきたいという気持ちを残しておきます。
藤代圭一さんFacebook投稿より
また、前日には頭では分かっていても気持ちがついていかないこともある、という投稿もされています。
全中に続き、インターハイの開催も中止の判断となりました。命に代えられるものはありません。と同時に中学三年生・高校三年生の選手たちを思うと、行き場のない悲しさもあります。
こんなときに僕たちまわりの大人が気をつけたいことは、無理矢理に「前を向け」というメッセージを送らないことだと思っています。(中略)
でも、
この悔しさや悲しさをしっかりと感じないと、本当の意味で切り替えることはできないと思っています。藤代圭一さんFacebook投稿より 全文はこちら>>
これを読んで、選手、指導者、保護者、それぞれの立場から感じること、考えることがあったと思います。藤代さんは言います。
「大きな大会がなくなってしまって、何を目標にすればいいのかがわからなくなる。どうすればいいのだろうと不安になる人も多いと思います。その気持ちも、よくわかります。でも、インターハイがないからサッカーを辞めます。甲子園がないから野球を辞めますと考える人には、『どうしてスポーツしているの?』と"しつもん"をしたいです」
■勝ちたいなら、プロになりたいなら という動機づけだと大会がなくなると心が折れてしまう
藤代さんはしつもんメンタルトレーニングを主宰し、しつもんを通じて、アスリートや指導者、保護者の成長をサポートする活動をしています。
「自戒を込めて言うと、これまで多くの指導者たちが、『大会で優勝したいのなら、もっと練習しなさい』といったように、大会で優勝することやプロになるといった、外発的な要因で選手を動機づけしていました。でも大会がなくなると、そのロジックは通用しなくなります。サッカーが好きであったり、楽しいと感じたり、もっとうまくなりたいという内発的な動機づけではないので、大会がなくなるとスポーツを辞めてしまう。その図式はシンプルですよね」
大会で良い成績を残すためにがんばるという考えは「外発的モチベーション」です。つまり、外側からやる気を与えられている状態です。しかし、本来スポーツは楽しい、おもしろいといった、内側から湧き出る「内発的モチベーション」で始めたもののはず。藤代さんは、「いまだからこそ、もう一度そこに目を向けてみてはどうでしょうか?」と提案します。
「私はアイスホッケー日本代表候補の14歳前後の子ども達と接する中で、『日本代表ってすごいな』と思うことがありました。もし、僕たち指導者がひとつの言葉しか話すことができずに指導をするとしたら『きみは日本代表になりたいんだよね?』という一言で、選手の行動を引き出すことができるのだと気がついたのです。同時に、それだけは言ってはいけないと、強く思いました」
日本代表になりたいのだったら、集中してトレーニングしなさい。私生活にも意識を向けなさい。このロジックは明快です。
「でも、その言葉だけでモチベーションを上げさせるのはとても危険で、もしそう言われて頑張ってきた子達は、代表になれなかったら、心が折れてしまうかもしれません。その競技自体が嫌になることも考えられます。あまりにも代償が大きいので、言ってはいけない言葉だと思いました」
■休んで「何のためにサッカーをしているのか」を考えることも大事
藤代さんは、「いまだからこそ、子どもに関わる大人のスタンスが問われています」とメッセージを送ります。
「コロナの影響で大会はなくなったけど、サッカーって面白いな、ボールを蹴るのって楽しいなと思い出す機会をつくれるかどうか。僕たち指導者のスタンスが問われていると思います。いまのように外出自粛、活動休止など、強制的にスリープ状態に入ることは、そうそうない経験です。だからこそ、ここで立ち止まり、根本的な問いと向き合うタイミングととらえてみるのも良いと思います」
藤代さんはサッカーの指導者仲間に、次のような提案をしているそうです。
「これを機に、サッカー漬けではなく、休みの重要性にも目を向けてみてはいかがでしょうか? 指導者が休んでいないと、余裕がなくなってしまい、練習をしないと不安になります。その結果、子どもたちにサッカーをたくさんやらせてしまいたくなる。そうなるのは、自然な流れだと思います。いまは休まざるを得ない状況なので、どうしてサッカーをしているのか? を、改めて考えるきっかけになればと思います」
次回の更新では、自粛期間中の保護者の心の持ち方や、子どもたちがすべきことについて、藤代さんのアドバイスを紹介したいと思います。
藤代圭一(ふじしろ・けいいち)
スポーツメンタルコーチ
スポーツスクールのコーチとして活動後、教えるのではなく問いかけることで子どものやる気を引き出し、考える力を育む「しつもんメンタルトレーニング」を考案。全国優勝を目指す様々な年代のチームから地域で1勝を目指すチームまでスポーツジャンルを問わずメンタルコーチを務める。全国各地でワークショップを開催し、スポーツ指導者、保護者、教育関係者から「子どもたちが変わった」と高い評価を得ている。2016年からは「1人でも多くの子どもたち・選手が、その子らしく輝く世の中を目指して」というビジョンを掲げ、全国にインストラクターを養成している。著書に「子どものやる気を引き出す7つのしつもん」(旬報社)などがある。