※モデル:福永泰 出典:『攻守のセオリーを理解する サッカーセットプレー戦術120』
前回のコラムでは、スローインの基本となる下記の2点について解説しました。
●ファールスローをせず、正しく投げること
●現代サッカーにおけるクイックスローの重要性
今回はスローインの応用編です。
基本的には、素早くボールを拾って素早く投げるクイックスローを目指すべきですが、もしも、それが間に合わず、味方がマークに付かれてしまった場合はどうすればいいと思いますか?
相手チームのディフェンスが整っているので、ボールを預けやすいフリーな味方はいません。このようなとき、リスクを避けるために縦方向へポーンと放り投げて、競り合った結果、「ボールを拾えたらラッキー」というプレーになってしまうチームは多いのではないでしょうか?しかし、それでは相手にボールを渡す回数が多くなってしまうので、効率的とは言えません。
■ヨハン・クライフの言葉
味方がマークされている状況のスローイン戦術について、オランダが生んだ天才プレーヤーであるヨハン・クライフは次のように発言したことがあります。「スローインはいちばんうまい選手が投げれば良い。私がボールを投げるから、ワンタッチで私に返しなさい」つまり『スロワー自身がリターンパスを受けて攻撃を始める』という選択肢を持っておくのです。技術のある選手がスロワーを務めれば、そこから攻撃を始めやすくなると。自信家のクライフらしい言葉です。
もちろん、相手チームがスロワーをマークする選手を配置している場合にはうまくいかないかもしれませんが、相手のマーカーが配置されておらず、スロワーがフリーになっていれば、そのすきを突くことでマイボールを安定的にキープしながら打開することができます。このようなアイデアをたくさん持っておき、相手チームの様子を見ながら、さまざまなパターンを使い分けることが大切です。
■スローインのコンビネーション『縦クロス』を使う
次はコンビネーションテクニック『縦クロス』を紹介します。Jリーグや世界のサッカーでたくさん見られる、スローイン戦術の王道パターンです。以下のイラストを参考にしてください。
手順は以下のようになります。
①ZがAをマークしている状況
②Aは自陣側へ下がり、スペースを空ける
③Aと入れ替わるようにしてBがスペースへ走り込む
④スロワーは走り込んだBの前へボールを投げる
ここで注目して欲しいのは、『先に動き出すのはAである』ということです。
なぜならば、より相手ゴールに近い位置にいるAが先に動くことで、攻撃のための有効なスペースを空けることができるからです。もしもBが先に動いてスペースを空け、そこにボールを投げた場合、むしろボールを奪われたときにカウンターを食らうリスクが大きくなってしまいます。このような状況をきちんと理解して、スペースを空ける動きを行うことが大切です。
■『L字の動き』を使う
次は個人の駆け引きでマークを外すパターンを紹介します。ルーニーや中村俊輔などが得意とする『L字の動き』です。シンプルですが、非常に効き目があります。以下のイラストを参考にしてください。
手順は以下のようになります。
①Aはゆっくりとスロワーに近づいて行く
②Aは鋭く反転してスピードアップ。Zの裏を突くように走り出す
③スロワーはAの足元ではなく、スペースにボールを投げる
相手ゴールに近い位置でスローインを得たときに有効になるパターンです。もし成功すれば、一気にゴールに近づくことができます。
なぜ、このパターンが有効なのか?
それはZの立場になってみるとわかります。イラストを見ながらイメージしてみてください。Aが反転してZの裏へ走り出したとき、Zは視野をグルグルと振り回され、Zの位置や体の向きでは、ボールとAのどちらかを見失う可能性が高くなるのです。そのため、ZはAのマークが困難になって外れやすくなります。
ただし、Zの近くにカバーリングを行う相手選手がいる場合、スペースに投げたボールをインターセプトされる恐れがあるので、スロワーは状況をよく見て、無理と判断した場合は別の選択肢に切り替えるほうが良いでしょう。
中村俊輔といえば、足ワザや正確なフリーキックが有名ですが、実はスローインのボールを受けるときの駆け引きがすごく上手な選手でもあります。Jリーグや世界のサッカーを見るときは、このような駆け引きをする動きにも、ぜひ注目してみてください。
■1試合に1回!? スローインの“裏ワザ”
最後に、スローインの裏ワザを紹介しましょう。相手を心理的にだまして、そのすきを突くコンビネーションです。以下のイラストを参考にしてください。
手順は以下の通りです。
①Aがボールを拾って投げようとするのを、Bが止めて「スロワー代わろう」と寄って行く
②BはAからボールを受け取るフリをして、そのまま縦へダッシュ
③AはBの前へボールを投げる
サッカーをプレーしているのはロボットではなく人間です。どんなに集中していても、このようなスロワーを交代する時間には、フッと一瞬、気が緩んでしまうものです。精神的にもすきが生まれるでしょう。それを見逃さずに突く。まさに“裏ワザ”です。
おそらく成功したとしても、1試合に1度しか使えないと思いますが……。ただ、「このチームは何をやって来るのかわからないぞ」という印象を相手チームに与えれば、心理的に優位に立つことができるはずです。大切なのは、勝つために自分たちが何をするべきかを考えること。もちろんルールの範囲内で。
今回紹介したスローイン戦術は、ほんの一部です。自分たちのチームに合ったやり方を考えてみましょう。マークの外し方、すきの突き方、コンビネーションなどは、スローインだけでなく流れの中のプレーの上達にも役立つはずです。
清水英斗(しみず・ひでと)//
フリーのサッカークリエイター。ドイツやオランダ、スペインなどでの取材活動豊富でライターのほか、ラジオパーソナリティー、サッカー指導、イベントプロデュース・運営も手がける。プレーヤー目線で試合を切り取ることを得意とし、著書は、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』『サッカー守備DF&GK練習メニュー100』『サイドアタッカー』 『セットプレー戦術120』など多数。
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文/清水英斗