テクニック
中村憲剛が考えるボールを失わないために必要な「俯瞰的な視野」を身につけるための3つのトレーニング
公開:2020年8月 3日 更新:2020年8月 7日
ボールが足に吸い付くようなコントロール、正確なキックなど、中村憲剛選手の高い技術は、子どもたちの憧れの的。そんな中村選手の技術の秘密に迫ったのが「KENGO Academy サッカーがうまくなる45のアイデア」というDVDです。
さらには、「KENGO Academy ウインタークリニック」を実施し、中村選手にコーチとして参加してもらい、サッカーの技術に加え、サッカー脳の鍛え方を教えてもらいました。今回は「KENGO Academy ウインタークリニック」で行われた、「俯瞰的な視野を身につけるために」というセミナーの中から、3つのポイントを紹介します。(文・鈴木智之/写真・新井賢一)
1回目:中村憲剛が「止める・蹴る」を上達させる方法を解説!ポイントは次の動作に早く移れる位置にボールを止めること
2回目:中村憲剛が語るDFにボールを奪われなくするための2つのポイント
俯瞰的な視野を身につけると質の高いプレーが実行できる
サッカーはボールをゴールに決めるスポーツです。ボールを保持しているチームの方が圧倒的に有利で、相手はどうにかしてボールを奪おうとします。だからこそKengo Academyでは、「ボールを奪われない選手になること」にこだわって指導をしているそうです。
「練習でも試合でも、相手にボールを取られてしまう場面が出てきます。では、どうしてボールを取られてしまうのでしょうか?」
コーチは子どもたちにそう投げかけ、次の3つの理由を挙げます。
・トラップやパス(技術)がずれてしまい、ボールを取られてしまった
・周りが見えていなくて、相手にボールを取られてしまった
・味方のサポートがなくて、取られてしまった
「スタジアムやテレビでサッカーの試合を見ていると例えば『右サイドが空いているな』『シュートを打てるな』と、いろんなことが見えてきますよね? でも自分がピッチに立つと、見えなくなってしまいます。ではどうすれば、テレビで見ているときと同じように、ピッチの中で様々なことが見えるようになるのでしょうか?その答えが『俯瞰的な視野』を身につけることです」
俯瞰(ふかん)とは、高いところから見下ろすことを言います。客席の上の方からピッチを見下ろすのと、実際に自分がピッチの中に入り、平面から試合を見るのとでは、得られる情報量が違います。つまり、俯瞰的な視野を身につけると、多くのものを見ることができます。そして、その中からより良いプレーを選ぶことができるので、質の高いプレーが実行できるのです。
KENGO Academyでは、俯瞰的な視野を身につけるために、3つのトレーニングが必要だと考えています。それが、技術のトレーニング、考えるトレーニング、見るトレーニングです。
1つ目の「技術のトレーニング」とは、過去2回のレポートで紹介した、ボールを正確に止めて、蹴ること。これが、すべての始まりになります。ピタッとボールを地面に置いた「ゼロの状態」で止めることで、ドリブルやパスなど、次のプレーに素早く移ることができ、正確性とプレーのスピードが上がります。
「ボールが1回のコントロールでピタッと止まらないと、顔が上がらず、周りを見る時間も少なくなります。結果として、選択肢が増えないので良い判断ができなくなり、ボールを取られてしまいます。みなさんに目指してほしいのが、ボールを1回のコントロールで止めることで、周りを見る時間を作り出し、プレーの選択肢が増えた中から、より良い判断をすることです」
中村憲剛が試合中、常に首を振る理由は5つの情報を得るため
プレーの選択肢が増える中で、「何がベストなプレーか?」を瞬時に判断するのは難しいもの。そこでポイントになるのが、「考えてプレーすること」です。
相手チームのフォーメーション、対戦相手の特徴といった事前におこなっている自己分析と、試合中の自分が立っている場所、ボールの位置をすり合わせて、「次はここにボールが来そうだな」「このスペースが空きそうだな」と予測してプレーするのも、よいプレーをするために必要な要素です。
中村憲剛選手も、子どもの頃を振り返り、「体が小さかった僕は、体の大きい選手とどうやって渡り合えばいいのかを考えることからスタートしました。いまの自分に何ができるのか、どうしたら試合にでられるのか。常にそれを考えて、サッカー脳を鍛えてきました」と語っています。
「どうしたらうまくいくのか?」を常に考えてプレーすることを、KENGO Academyでは「サッカー脳を鍛える」と言っています。サッカー脳を使うためには「周りを観ること」「予測すること」が大切です。
中村選手は常に首を振って周囲を見ていますが、そのときに、次の5つを見ているそうです。
・自分の立ち位置
・敵の立ち位置
・味方の立ち位置
・ボール
・スペース
「見るものを増やすことで、相手にとって嫌なプレー、味方にとって助かるプレーやゴールに向かうプレーを選択することができます。例えば、自分が右サイドにパスを出せば、相手をそちらに引き寄せて、真ん中のスペースを開けることができるかもしれない。または、相手が中央を固めて守っているから、サイドを使って攻撃しようといったように、相手の立ち位置を見て、どこを攻撃するべきかを考えることができるようになります」
さらにもうひとつ、サッカー脳を鍛えるために役に立つのが「見るトレーニング」です。これは自分のプレーを撮影してもらったものを見返すことを指します。昨今は保護者の方の多くが、お子さんの試合を撮影し、ご家庭で見ているのではないでしょうか。
中村選手も、小さい頃から自分のプレー映像を「ビデオテープが擦り切れるほど何回も見た」そうです。
「映像を見ることで、頭の中でプレーの引き出し、イメージを増やすことができます。自分は何ができて、何ができないのか。なぜミスをして、どうして上手くいったか。映像を繰り返し見ることで、自分という選手を知ることができます。なのでその感覚を養っていってほしいと思います」
サッカー選手の基礎となるジュニア年代は、技術のトレーニングに加えて、考えてプレーすること、そのための情報収集として周りを見る癖をつけておくことが、とても大切だと言えます。
「KENGO Academy ウインタークリニック」に参加した子どもたちは、その視点で組み立てられたトレーニングを通じて、サッカーの上達に必要な要素を身につけていきました。
詳しい練習メニュー、練習時のポイントは「KENGO Academy サッカーがうまくなる45のアイデア」に収録されているので、もっと深く知りたい、中村憲剛選手のようなプレーヤーになりたいという人は、ぜひ映像を見て、上手くなるコツを身につけてみてください!
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中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ。東京都小平市出身。小学生時代に府ロクサッカークラブでサッカーを始め、都立久留米高校(現・東京都立東久留米総合高校)、中央大学を経て03年に川崎フロンターレ加入。06年10月、日本代表デビュー。国際Aマッチ68試合出場6得点(2020年7月現在)。05年から19年までJリーグ優秀選手賞を15回連続受賞。Jリーグベストイレブン8回選出。16年に史上最年長で受賞したJリーグMVPはギネス世界記録に認定されている。