テクニック
サッカーはボールを持つ時間とスペースが限られる。その中で安定してボールを保持し、前進させる方法とは?
公開:2023年7月27日 更新:2023年8月 1日
2021年末に行われた「全日本U-12サッカー選手権大会」において、狭い局面でも丁寧にパスを繋ぐスタイルで、ベスト8に進出したシーガル広島。野津田岳人選手(サンフレッチェ広島)や2022シーズンよりサンフレッチェ広島のトップチームに昇格した、棚田遼選手が在籍していたクラブでもある。
COACH UNITED ACADEMYでは、シーガル広島で17年、指導に携わる福田知樹監督に「狭い局面でパス&コントロールの質を高めて前進するトレーニング」を実施してもらった。後編のテーマは「限られた時間とスペースの中で、技術を発揮する実践トレーニング」。全国レベルのジュニアチームが取り組むトレーニングの様子を、お届けしたい。(文・鈴木智之)
攻守の入れ替わりが激しい中でも「周りを観ること」を習慣化させる
後編最初のトレーニングは「5対5対5」。18mのグリッドを2つ並べて配置し、グリッドの間を3m空ける。5人組を3チーム作り、1チームが守備、2チームを攻撃とする。
守備はボールがあるコートへと奪いに行くのだが、守備側の5人のうち、2人はグリッド間の3mの間に横に並び、その場に留まらなくてはいけない。(ボール保持者にアプローチするため、グリッドに入ることができるのは3人まで)。ボールを奪われたチームがすぐ守備側になり、連続してプレーを行う。
この設定により、ボール保持者に奪いに行く3人対、後方でインターセプトに備える2人という守備体型が自然とできるようになる。ルールと設定で選手たちのプレーを調整し、覚えさせたい形を仕込むオーガナイズだ。
福田監督はプレーにシンクロしながら「反対側の選手と協力すると有利になるよ」「相手を観てプレーを変えたのはグッド」「サポートの距離と角度はどう?」「狙いを持ってプレーしよう」「相手が集まってきたらどこが空く?」などの声をかけ、集中力を高めていく。
さらに福田監督は、給水タイムを設けてプレーを区切り、「めまぐるしく攻守が入れ替わっているけど、どんなことが大事?」と質問。子どもたちから「切り替え」「ボールを取られたら取り返す」などの答えが返ってくるので「そうだね。ではボールを安定して保持するにはどうすればいい?」と問いかけ「周りを観ること」の重要性を引き出していく。
さらには「守備の選手がボールサイドに3人入ってくるので、攻撃側は2人のフリーの選手をみつけられているかどうかだよ。難しい状況になったらやり直して、前に進むことができる選手のところにボールを入れよう」とアドバイスを送っていた。
ボールを持っている人、持っていない人の優先順位を整理する
続いては「4対4対4+GK+ターゲット」。縦60m×横30mのグリッドで実施し、3チームを攻撃、守備、待機に分け、攻撃と守備の2チームでプレーする。攻撃側はゴールを目指し、守備側はボールを奪ったらGKおよび、センターライン上にいる「ターゲット」と協力してセンターライン越えを目指す。(ターゲットはセンターライン付近のコーンの間のみ動いてOK)。
ボールがセンターラインを越えたら、反対側で待機していたチームと攻防を行い、センターラインを越えられたチームは、ペナルティエリアラインで待機するというルールだ。
シーガル広島の選手たちは、正確なボールコントロール技術をベースに、好プレーを展開。福田監督も「ターゲットを使って前進するプレーはよくできている」と褒めつつ、「攻撃のゾーンに入ったときの人数が少ないので、チャンスになりそうと感じたら、もっと速く動き出そう」と要求を高めていく。
ここでは「ボールを持っている人の優先順位は、ゴールを奪うこと。シュートを打つ時間、スペースがあるときに逃さず打とう」と話し、「ボールを持っていない人の優先順位は、相手の背後を取ること。その動きを重ねていこう」など質問を交えながら、やるべきプレーに意識を向けていった。
最後は「7対7+GK」を行い、実戦の中でこれまで意識してきたことをどれだけ発揮できるかを確認。強度の高い攻防を繰り返し、トレーニングを締めくくった。
練習後、福田監督は次のように語った。
「今回のトレーニングは、時間やスペースが限られ、状況がスピーディに変化していく中で、選手自身が観ることで得た情報をもとに、臨機応変に対応する力を身につけていくことが目的です。選手たちは積極的にトライすること、指導者は基準を示すとともにミスを見守り、励ましながら積み重ねていくことが大切だと思います」
福田監督のトレーニングからは、チームとしてのプレーモデルがあり、そのためにどのような設定が有効かを考え、グリッドの広さやルールを決めている様子が見て取れる。ぜひ動画を見て、設定やルールの裏側にある「導き出したいプレー」に思いを巡らせて欲しい。選手たちのプレーに、その答えが現れているはずだ。
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【講師】福田知樹/
2005年からシーガル広島で指導者としての活動をスタートし、現在はU-12の監督を務める。2021年にはチームを「全日本U-12サッカー選手権大会」出場に導き、ベスト8進出に貢献した。また、同大会で「Most Impressive Team」(GKも含めた8人全員でゲームを組み立て、日本のサッカーが目指す理想像に近いプレーをしているチームをJFA技術委員会が選考し表彰) を受賞している。