優秀な指導者からは、指導の極意や哲学を学ぶことができます。ここでは、そんな監督たちの言葉を見ていきながら、「子どもたちの指導」について考えていきます。
第一回目はサンフレッチェ広島ユースの場合です。
■気持ちには引力がある
2010年10月、日本の高校生年代の頂点を決める、高円宮杯全日本ユースの決勝戦が行われました。全国の高校、クラブチームの頂点に立ったのは、サンフレッチェ広島ユースです。チームを率いる森山佳郎監督が、試合後の記者会見で日本の育成について興味深い提言をしていました。
森山監督は「激しさ」「強さ」「負けん気」など、気持ちを重視する指導者です。チームには「気持ちには引力がある」という合言葉があり、高い技術に加え、気持ちの強さでいくつものタイトルを手に入れてきました。そんな森山監督は、日本の育成年代の練習環境について「ぬるいんじゃないか」と感じていると言います。
「ドイツやイングランドなど、外国の育成現場では練習のうちから激しい削り合いがあります。自分も現役時代、マンチェスター・ユナイテッドに留学したときに感じたのは、練習中に削っても削られても、お互いに何もなかったかのようにムクッと立ち上がってプレーを続けていたことでした。日本の場合、少し足を蹴られたら『なんだよ、痛てて』とプレーを止めてしまいます。日本と海外では練習や試合の熱さ、激しさが違いますよね。高校生の場合、他チームとする練習試合よりも、自チームでの紅白戦のほうが激しい、厳しいんだという環境を作っていかなくてはいけないのではないかと思います」
広島ユースの練習の激しさは有名で、2011年シーズンからトップチームへの昇格が決まっているFWの井波靖奈選手は「練習中のファウルはほとんどとってもらえません。ファウル覚悟で厳しく行くことで、試合で削られても耐えられるようになりました」と、練習の成果を話してくれました。ほかにも、試合の時に「タッチラインを割ってもプレー続行」など、独自のルールがあり、ピッチの至る所で激しいぶつかり合いが繰り広げられているようです。
森山監督は言います。
「中学生までは相手の逆をとるプレーやアイデアを大事にして、高校生になったら、厳しい環境で自分の特徴、個性を活かすことのできる選手を育成する。それが大切なことだと思います」
練習時に、試合以上に厳しい環境を作り出し、トレーニングを積む。よく「練習の質を高める」という言葉を聞きますが、このようにルールを工夫し、心構えの部分を言い続けるのも、練習の質を上げるひとつの方法なのではないでしょうか。
Photo//Kenzaburo Matsuoka