第89回全国高校サッカー選手権大会で準優勝に輝き、大会に旋風を巻き起こした久御山高校(京都)。選手一人ひとりの能力は決して高くはなく、松本悟監督も「体力測定をしたら、後ろから数えた方が早い選手ばかり」と苦笑するほどでした。しかし、サッカーは身体的数値でするものでないことも事実です。松本監督は自身のこだわりでもある『ボールをつなぐサッカー』で、頂点まであと一歩に迫りました。このコーナーでは、そんな久御山高校の「パスにこだわる哲学」について監督に聞いていきます。
久御山のスタイルは関西地方では有名で、ボールをつなぐサッカーを求めて、多くの選手が入学してきます。「ドリブルやボールを持つサッカーにこだわってやっていると、子供たちが『久御山でやってみたい』と言うようになってくれて、うちの学校を選んで来てくれるようになりました。逆にうちは(選手を選べない)公立高校なんで、それをしないとね」(松本監督)
久御山の真価が発揮されたのが、準決勝の流通経済大学柏戦です。相手は全国から優秀な選手が集まってくるタレント軍団。選手個人の能力は高く、それこそ身体測定をしたら、流経柏の選手のほうが圧倒的に上でしょう。
そんな相手を前に、久御山はひるむことなく真っ向勝負を仕掛けました。「選手権はいつ負けても恥ずかしくない。それよりも自分たちのサッカーを貫いたほうが緊張もしないし、『やってやるんだ』という気持ちが相乗効果になって出ましたね」(松本監督)
最終ラインの選手がボールを持ち、流経柏の選手が素早くプレスをかけに来る。そのときでも焦ってボールを蹴り出さず、丁寧にじっくりとパスをつないでいきました。そうして自分たちのリズムを作り出して2ゴールを奪い、PK戦に勝利。決勝進出を決めました。
決勝戦では滝川第二に敗れましたが、その戦いぶりは鮮烈な印象を残しました。決勝戦後、松本監督は記者会見でこう語っています。
「まだ久御山のサッカーは完成されたものではないと思っています。決勝戦でも、3つのパスのうちの1本でも成功していたら、勝敗は裏返しになっていたかもしれません。今日は1、2年生も出ていましたが、彼らはもっとうまくなることができると信じています。時間はかかりますが、ドリブル、パスがうまくなった選手をそろえて、またここに来たい」
こだわりと哲学を持って、選手たちを指導していく。いわゆる「普通の選手」でも、決勝まで進むことができた。常々、「選手をうまくしてこそ良い指導者」と公言する松本監督の理念を体現した準優勝でした。
久御山が「ボールをつなぐサッカー」をするために大切にしている、技術面での考え方については、第2回に続きます。
Text//Tomoyuki Suzuki
Photo//Takashi Hirama