9月5日?7日までイギリス・ロンドンで開催された「12歳以下のワールドカップ」ダノンネーションズカップ2013。 日本から出場した横浜F・マリノスプライマリーは優勝こそならなかったものの32カ国中3位に入りました。
ダノンネーションズカップは国内予選の方式が各国によって異なるため、必ずしも全ての国で最も強いチームが出場しているとは限りません。また、試合形式も20分1本と短く、自陣ゴールラインから13メートル以内での守備側のファウルはすべてPKになるというルールもあります。
そうした側面を踏まえても、予選リーグを1位で突破し、最終的に3位になったという結果は素晴らしいもの。昨年度のレジスタFC(埼玉)の準優勝には及びませんでしたが、この年代における日本の実力を世界に示したといえるでしょう。
■自分たちで考えるサッカー
特筆すべきは、プライマリーが全ての試合で主導権を握りながら戦っていたことです。ダノンネーションズカップではルールの特性上、前線にスピードのある選手を置いて、ロングボールを放り込んでくるチームが多くなります。そこで抜け出せばGKと1対1になるし、ファウルを受ければPKをゲットできるからです。
優勝したブラジルやフランスも基本的にはシンプルにロングボールを前線の選手に入れる戦術がメインで、お互いに“蹴り合い”になってしまう試合も少なくありませんでした。その中にあってプライマリーが行っていた最終ラインからパスをつないで、チーム全体で連動しながら崩していくというサッカーは目を引くものでした。
とはいえ、プライマリーがボールを「つなぐ」ことに必要以上にこだわっていたわけではありません。相手が距離をとってくればつなぎ、ボールを奪いにきていれば裏を狙っていきます。自分たちのやりたいことをやるだけではなく、相手の状況に応じてプレーを変えるという、日本のチームが比較的苦手とされることをプライマリーはピッチ上で実行していたのです。
これは普段から「常に選手たちに考えさせている」という西谷冬樹監督のトレーニングによるところが大きいと言えるでしょう。プライマリーの選手たちの試合後の会話を聞いていると、レベルの高さに驚かされます。
自分が空けたスペースにどうやって入って来てほしいのか。ボールを持ったときにどこにサポートについてほしいのか。勝った試合の後であっても一喜一憂している選手はほとんどいません。タイムアップした瞬間には気持ちを切り替えて、修正点を洗い出し、選手同士で話し合っています。
ちなみに、予選リーグが終わった後は選手だけでのミーティングを行ったそうです。これはプライマリーでは珍しいことではなく、日常的にやっているとのこと。与えられたことを“やらされる”のではなく、自分たちで考えて“やっている”からこそ、世界各国のスタイルの異なるチームと戦っても主導権を握ることができたのでしょう。
■身体の小ささを武器にする
世界と戦ったときに、日本のチームが直面する課題がフィジカル面です。日本であればドリブルでかわせたところで足が伸びてくる。ガツンと身体をぶつけられてバランスを崩してしまう。技術があると言われている選手が海外チームと戦ったときに活躍できない要因となっています。
フィジカル面の違いが特に顕著に表れるのがゴール前です。どこのチームもセンターバックとセンターFWには大型選手を揃えているので、そこでの攻防が試合の鍵を握るといっても過言ではありません。
プライマリーではフィジカル的に海外の選手と真っ向勝負ができるのはセンターバックの岩井龍翔司くんぐらい。他の選手は同世代と比較しても小柄です。特にFWの佐藤宇(ひろ)くん、トップ下の粟飯原央統(あわいはら・ひろと)くんはチーム内でも下から数えたほうが早いほど。
しかし、彼らは自分より10センチ以上はありそうな大きな相手をほとんど苦にすることなく、次々とゴールやアシストを決めてみせました。これも佐藤くんや粟飯原くんが「身体の大きな相手とどう戦うか」を常日頃から考えながらプレーしている証拠です。
「相手が大きいとちょっとしたターンに引っかかるからむしろやりやすい。今は流れの中で相手をかわすことに取り組んでいます」(粟飯原くん)
象徴的なのがロシア戦の1点目のゴールです。粟飯原くんはボールを受ける前にステップを踏んで、相手を動かしてから左側にボールを持ち出し、利き足の左足でシュートを打っています。粟飯原くんをロシアの選手は3人で囲んでいますが、ステップからシュートまでが速く、止めることができません。
佐藤くんがこだわっていたのがボールをもらうまでの動きと、ボールをもらってからのスピードです。
「僕は身体が小さいので、相手に追いつかれると身体をぶつけられてシュートチャンスを逃してしまいます。だから、相手につかまらないようにすることと、いかにシュートまで速く持っていけるかを考えています」
7試合で4ゴールを挙げた佐藤くんは、3位チームでありながら大会ベストプレーヤー賞に選出。彼らのような身体の小さい選手が海外の大きな相手に活躍する姿は、同じような体格のプレーヤーに勇気を与えるものだったと思います。
「この大会を通じて、選手たちの頭の中の地図は日本地図から世界地図になったと思います」
西谷監督はそのように大会を振り返りました。日本国内でプレーしているだけではわからない、世界の選手の足の長さや寄せる距離などを肌で体感したことはプライマリーの選手にとって大きな財産となったことでしょう。
■日本でもっと国際大会をやってほしい
プライマリーの選手たちがたった3日間でみるみるうちに成長していったように、国際試合がこの年代の選手に与える影響は計り知れないものがあります。大会に参加してみて、西谷監督は「このような国際大会がもっと増えてほしい」と改めて感じたそうです。
「いろいろな国がいて、いろいろな文化がある。それによって自分との違いがよく理解できるし、自分たちの良さもわかる。こういうのは日本のチーム同士でやっているだけではわからないもの。日本から世界に出て行くのもそうだし、日本国内でもバルセロナやリバプールが来た『ワールドチャレンジ』みたいな大会がもっとやってほしい。そうすれば、今よりもっと世界に通用する選手が増えて、日本代表も強くなると思います」
北健一郎(きた・けんいちろう)//
1982年7月6日生まれ。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てサッカー、フットサルを中心にスポーツライターとして活躍中。主な著書に「サカテク」「ゴールキーパー専門講座」(共に東邦出版)、「日本一監督が教える フットサル超速効マニュアル100」(白夜書房)がある。
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取材・文/北健一郎 写真/ムツ・カワモリ