今年もジュニア年代の日本一を決める全日本少年サッカー大会(以下、全少)で熱戦が繰り広げられました。来年度からは冬開催、リーグ戦の実施が決定し、変革のときを迎えている4種(ジュニア年代)の環境。今回サカイクでは、ヴァンフォーレ甲府やセレッソ大阪のトップチーム監督を務め、関東担当JFAナショナルトレセンコーチ、セレッソ大阪の育成アドバイザーなどを歴任し、現在は山梨学院大学サッカー部の監督を務める塚田雄二さんに、ジュニア年代の保護者や指導者に向けた「全少への正しい関わり方」についてお聞きしてきました。
取材・文/大塚一樹 写真/サカイク編集部
■勝利“だけ”を目指すことはサッカーの楽しさを犠牲にしている
「子どもたちがひとつの目標に向かって努力すること。そこから生まれるチームの一体感、勝つことによって得られる一体感は全国大会出場、優勝を目指すいい部分です」
塚田さんは、全少のポジティブな部分にまず触れたあと「でも」と言葉を続けます。
「チームの勝利“だけ”を目指すあまり、それを優先しすぎて子どもたちのプレーする機会を奪ったり、十分な練習時間を与えられない子どもが出たりするのは“勝利至上主義”の弊害でしょう」
本大会でも敗退チーム同士のドリームリーグの創設、子どもエリアの設置、そして来年からの冬季移行と近年、勝利至上主義の弊害からの脱却を目指した改革が進んでいる全少ですが、全国規模で行われるトーナメント方式の大会が小学生の“集大成”として見られ、特に指導者や保護者といった大人たちがそこでの勝利を意識しすぎていることが子どもにとって良くない影響を与えています。
「私が一番問題だと思っているのは、こうした勝利“だけ”を目指したサッカーが子どもたちの判断を奪ってしまうことです」
塚田さんは自身が長く関わった育成年代の指導経験から、結果だけに焦点を当てた指導、サッカーは子どもたちの可能性を奪ってしまうと警告します。
「ひとつの大会、目の前の試合に勝つことから逆算して試合を戦う。またはそのためだけに指導方針を決めてしまうと、重宝がられる選手は限られてきます。これではチームの都合、指導者の都合でサッカーにもっとも大切なことが決められてしまいますよね」
塚田さんの言う「少年サッカーにもっとも大切なこと」は「自分で状況を見て、考えて、判断すること」です。
「サッカーの醍醐味はボールを挟んで相手と駆け引きすること。瞬間、瞬間で判断することが求められるし、瞬時に判断して自分が思いついたプレーをすることが一番楽しい部分ではないでしょうか?」
■子どもの判断を奪う、その声掛けで大丈夫ですか?
「戻れ、戻れ! と選手のプレー位置を修正するために怒鳴っている指導者がいたとします。子どもが言われたたとおりの位置まで必死に戻ればそのピンチは防げるでしょう。でも子どもたちは『危ない』と思ったから戻ったのではなくて、『指導者に怒られるから』『指示されたから』動いたに過ぎません。指導者も人間ですから熱くなることもありますが、こうしたコーチングが、子どもたちの感じる力、判断する力を奪ってしまい、次のステップに進んだときに子どもの首を絞めることになると気がつくべきです」
指示待ち、言われないとやらない、積極性がないと嘆く指導者や保護者は多いですが、自分たちが良かれと思ってしている指導が、かえって子どもの成長のさまたげになっている側面もあるのです。
「保護者も“勝つこと”に執着してしまうと、知らず知らずのうちに子どもを見る目が変わってきてしまいます。私も経験があるのですが、自分の子どもの成長は楽しみですし、試合の勝敗も気になります。こうした気持ちが親の眼差しに変化を与えます」
取材・文/大塚一樹 写真/サカイク編集部c