準々決勝の北朝鮮戦、高木大輔の出番は訪れなかった。しかし、延長戦までもつれ込む試合の中で、彼は腐ることなくつねにピッチ上の選手に声をかけ続けた。PK戦でも最後のキッカーとなってしまった南野拓実が外した瞬間、真っ先にピッチに向かい、うなだれる仲間たちをはげまし続けた。
(取材・文/安藤隆人)
■ベンチでの振る舞いが、ピッチ上に作用する
高木大輔は高木大輔をよく知っている。良い部分に限らず、悪い部分もしかり。それを受け入れ、自分にできることを考える。それは簡単なようで非常に難しい作業だ。プライドや劣等感が邪魔をして、自分を抑え込んでしまう。ところが高木は、そういった感情を抑えて自らをうまくコントロールする術を心得ている。実際に彼に話を聞いてみると、非常に明快な答えが返ってきた。
「正直、自分がうまい選手だとは思ってはいない。いまここにいる意味は、他にもっといい選手がいる中で、鈴木監督が僕を選んでくれたのは、そうやって声を出してチームを盛り上げる部分も大きいと思う。それに僕がうまい選手ではないからこそ、誰よりも工夫をしないといけないし、周りに自分を理解してもらわないといけない。たとえば、『自分がこうしたいから、このタイミングでパスが欲しい』などを味方に気付かせる。いまぼくはこのチームでサイドをやっていますが、ボランチが前を向いたとき、シュートフォームに入っていてもいいから、『おれは裏に走り出すからな』と主張します。そこでぼくにパスを出してくれてもいいし、ぼくをおとりにしてシュートを打てば、ぼくはシュートのこぼれ球に詰めることができる。自分のやりたいことを主張することで、自分にとっても周りにとってもいい方向に持っていくことができる。それがうまく融合しているのがいまだと思うし、もっともっとできると思う。『おれはこういうときには、ここにいる』という主張をもっと強調していけば、パス回しがスムーズになるし、もっと怖い攻撃ができると思う」
それは実際にピッチに表れている。いまや高木の盛り上げは、チームがひとつになるために欠かせない要素となっている。韓国戦の77分にピッチに投入されると、疲労とプレッシャーの中で戦う選手たちを鼓舞した。そしてプレー面でも、攻撃時には、労を惜しまない運動量で味方のパスコースをつくりサイドでタメをつくると、守ってはすばやい寄せと身体を張った守備を披露した。高木が起爆剤となって、チームは苦しい時間帯を乗り切り、タイムアップのときを迎える。2-1の勝利で、決勝トーナメント進出を決めると、ピッチ上では高木が大粒の涙を流していた。その涙が、彼の『苦しみ』を表していた。決しておちゃらけでやっていたわけではなく、本気でチームのためを思い、自分を捧げてきたことの証だった。
「試合に出て実際にプレーしてみて感じたのが、こんな自分の声でもしっかりとみんな耳を傾けてくれるということ。(川辺)駿も僕の声を聞いて、『よし大輔に乗って自分ももう一回やってやろう』と思ってくれてプレーしてくれたことが本当にうれしかった。ずっとピッチ外で試合に出られなかったし、韓国戦ではスタメンが大きく変わったのに、そこに自分は入れなかった。めちゃくちゃ悔しかったけど、それを表に出しちゃいけないのがこういう大事な短期決戦では必要なこと。短い時間だったけど、試合に出てそうやってみんなが呼応してくれたことが、やっていてよかったなと思いました」
取材・文/安藤隆人