考える力
指示待ち人間にならないために。 言葉より「経験」を通して学ぶことでサッカー選手としてもレベルアップ
公開:2018年3月22日 更新:2018年3月23日
子どもたちが主体となり、会場の設営や大会の運営、試合の審判、出場する選手決めなどを行う『しらゆり招待サッカー大会』。神奈川県伊勢原市を拠点に活動する、FCしらゆりシーガルスが主催するこの大会では、子どもたちが様々な体験をしています。
FCしらゆりシーガルスの一場哲宏監督は「子どもたちが色々な役割をすることで、普段とは異なる立場を経験することができ、それが人間として、サッカー選手としての幅を広げることにつながる」と言います。(取材・文:鈴木智之)
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■言葉で伝えるより「経験」させる方が、はるかに大きな効果がある
「子どもたちは大会の運営だけでなく、カフェを作ってコーヒーやお茶を出したり、試合の審判も担当します。そうすることで、選手としての立場だけでなく、他の立場も経験することになりますし、自分たちが普段参加している大会は、多くの人の協力のもとに成り立っているんだと実感することができます。それが人として、選手としての資質の向上にもつながると思っています」
『しらゆり招待サッカー大会』では、審判も子どもたちが行います。そうすると、判定について、ピッチ内で異議を唱えられることもあります。そこで初めて、審判の気持ちが理解できた子もいたそうです。
「過去にこの大会で審判をしていた子が、『選手に文句を言われて、すごく嫌な気持ちになった。だから自分がプレーするときは、審判に文句を言うのはやめます』と言っていました。色々な立場を経験することで、相手の立場に立つこと、相手を思いやる気持ちも出るんですよね。それはコーチが『審判に文句を言うな』と言うよりも、はるかに大きな効果があるんです」
この大会の趣旨、ルールは保護者からも好評のようです。大会には「1試合3ピリオドで、ピリオドごとに選手は入れ替わる」というルールがあるので、すべての子が試合に出る機会があります。「試合を見に行ったのに出場しなかった」ということもありません。
「少年サッカーは子どもが主役。それを履き違えてはいけません。他のチームの試合を見ていると、コーチや保護者が子どもにうるさく言って、いったい誰のためのサッカーなんだろう? と思うことがたくさんあります。大人が指示を出されなければ動けない選手にはしたくないんです」
■放置、放任とは違う。「見守る」距離でのびのび主体性を育む
その考えの根底には「将来、社会に出て活躍できる人に育てたい」という思いがあるそうです。近い将来、AIやロボットの発達により、言われたことだけをただやる仕事は減っていくことが予想されています。
「これからの社会で必要とされるのは、自分で考えて行動できる人間。それはサッカーを通して身につけることができると思っています。しらゆりが普段の練習から子どもたち主体で練習を考えたり、ミーティングをするのも、そこを目指しているからでもあります。その集大成として、『しらゆり招待サッカー大会』があると思っています」
一場監督の考え、しらゆりシーガルスの理念に共感するクラブは増えており、この大会に参加したチームが、コンセプトを真似て大会や試合を運営するケースも出てきているそうです。
「ただ、大会の真似をしてフォーマットだけを持ってきても、うまく運営するのは難しいと思います。下手をすると、子どもたちを放置、放任してしまう可能性もあります。大事なのは、普段の活動から子どもたちに主体性を持たせること。審判もそうですが、しらゆりは小学3年生の頃から、練習試合の副審を保護者のサポートを受けながら、子どもたちが担当するようにしています。いきなり大会フォーマットのすべてを真似するのではなく、段階的に取り入れているクラブもあるので、徐々に取り入れていってもらえたらなと思っています」
「言うは易く行うは難し」という言葉がありますが、子どもたち主体の大会は、まさにその通りでしょう。参加したチームの中には、コーチに「どうすればいいんですか?」と聞いて、子どもたちが何をすればいいかわからずに、動けなくなってしまうこともあるそうです。
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