考える力
勝ちを目指す情熱がサッカー上達や内面の成長につながる! 強豪国の子供と対戦して見えてきたこと -しらゆり招待 オランダ遠征②-
公開:2018年9月 7日
2018年3月にオランダ、ドイツ遠征を実施した、しらゆりFCシーガルス(神奈川県伊勢原市)。海を渡り、「子どもたちが主役」というテーマで長年行っている「しらゆり招待サッカー大会」(以下「しらゆり招待」)をオランダで開催しました。大会の準備、片付け、開会式、閉会式、大会運営、審判などをすべて子どもたちが主体となって行う「しらゆり招待」。
前編では、オランダの子どもたちと言葉が通じなくてもコミュニケーションが取れたことが自信になり、「失敗するのが恥ずかしい」という気持ちが消え積極的に交流を図っていた様子や、トレーニングでは同年代の日本人相手には経験しえない球際の激しさなどを体験した子どもたちの様子をお伝えしました。
貴重な経験をした子どもたちに、どのような変化が訪れたのでしょうか?
後編では、子どもたちの変化、オランダでの「しらゆり招待」の成果をお伝えします。
(構成、文:鈴木智之)
しらゆり招待オランダ遠征 (写真提供:FCしらゆりシーガルス)
<<前編:子どもたちが「失敗したら恥ずかしい」を払拭し、挑戦するようになったきっかけ
■ついに「しらゆり招待」をオランダで初開催!
「しらゆり招待」のユニークな試みとして、「合同ミーティング」があります。ハーフタイムに両チームが集まり、互いに良かった点、改善点などを話し合うのですが、オランダのクラブの子たちからは「初めてやってみたけどおもしろい!」と評判も上々。
FCしらゆりシーガルス(以下 しらゆりシーガルス)の子どもたちは「合同ミーティングで積極的に発言してくれてうれしかった」「みんな優しかったし、接しやすかった」と、外国人との初めてのコミュニケーションに手応えを感じていたようです。
オランダの子どもたちとのコミュニケーションは英語です。日本で開催しているしらゆり招待の開会式の司会進行を英語に翻訳し、選手たちは英語の文章を暗記して臨んだそうです。言葉の大切さを学んだと同時に「言葉は通じなくても、気持ちは通じる」と、ジェスチャーや日本語などを使って、積極的にコミュニケーションをとっていました。
しらゆりシーガルスの大会成績は1分け2敗。チームの代表を務める一場哲宏監督は「球際の激しさとオランダサッカーの神髄、パスサッカーに翻弄されました。時間が経つにつれて慣れてきて、しらゆりらしいショートパスやフェイントで相手をかわすプレーなどが出ましたが、勝つところまではいきませんでした」と振り返ります。
「しらゆり招待」のフォーマットで大会を経験したオランダチームの監督は、「相手チームと合同でハーフタイムにミーティングをするのは初めてだけど面白い!」と好評価だったようですが、いざ試合になるとやはり勝ちたいので選手たちは自分たちのことで精いっぱいで、相手のことまで見て評価するレベルに達していない、という感想もありました。
また、「世界のサッカーを見ると、以前より相手をリスペクトする精神や意識が薄れていると感じる。それはオランダも例外ではない。確かにトップレベルでは戦いの要素が強いことは理解できるが、子どもたちが楽しむローカルレベルではもっと相手をリスペクトすることが大切なのではないか。その点、しらゆり招待の合同ミーティングはとてもいいアイデアだと思う。このような考えをサッカー協会のトップから伝達していくのではなく、グラスルーツの我々から発信していくべきだ」と大会の理念に賛同してくれました。
■オランダの選手との一番の違い
一場監督に、日本とオランダの選手の違いをたずねると、次のような答えが返ってきました。
「一番は試合に対する、選手の情熱と本気度ですね。勝って喜びを爆発させる。負けたら泣いて悔しがる。日本で行ったしらゆり招待で、負けてあれほど泣きじゃくる選手はいません。衝撃を受けましたね」
サッカーは感情表現のスポーツと言われますが、勝つと嬉しい、負ければ悔しい。情熱を表現し、必死にボールを追いかけるという部分では、オランダの子どもたちに一日の長があったようです。
試合結果では及びませんでしたが、「子どもたちが主役」という大会コンセプトや、選手たちのコミュニケーションといった部分では、大きな手応えを感じた一場監督。
「国内で最も競技人口が高く、サッカー文化が根付いているオランダに行き、彼らが持つ『サッカーとはこうあるべき』という自信と確固たる信念を感じることができました。サッカーの歴史の浅い日本にとっては、尊敬に値すると思います。そんなオランダにおいて、『しらゆり招待』を通して、子どもたちの主体性を伸ばすこと、相手をリスペクトすること、敵ではなくともに上達し、成長する仲間だという考え方を提案し、受け入れられたことは本当に嬉しく思っています」
もちろん、試合に負けた悔しさも忘れてはいません。その悔しさこそが、選手を成長させる良薬です。