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なぜバルサは勝利と育成が両立するのか?
FCバルセロナの指導における考え方。「サッカーは人生の縮図」
公開:2012年1月 6日 更新:2020年3月24日
「勝利か、育成か」これは、サッカーの指導者に常につきまとうジレンマであり、特に育成年代を指導する下部組織の指導者にとっては切実な問題です。ところがFCバルセロナでは、トップチームからジュニアまで世界最高峰のレベルにありながら、それを両立しています。「育成しつつ常に勝利する」FCバルセロナの人材育成術について、バルサのカンテラのテクニカルディレクターであるアルベルト・プッチ・オルトネーダが全4回に渡り解説します。第1回目はFCバルセロナの指導における考え方です。
■お互いの長所を出し合い、短所を補い合うのがサッカー
日本では「サッカーの基本はテクニック」と解釈される傾向がまだ根強いですが、スペインでは必ずしもそうではありません。なぜならば、サッカーには様々な特徴の違うポジションが存在し、しかもポジションによって必要とされるテクニック・戦術・体力・精神力に微妙な差があるからです。
例えば、フォワードとしてプレーするメッシの華麗なドリブルのテクニックを、ディフェンダーのプジョルは求められていません。あるいは、プジョルの闘志溢れるジャンプヘディングのテクニックをミッドフィルダーの小柄なシャビは求められていません。もちろん、一人の選手がすべてをパーフェクトにこなせたら最高ですが、ゴールキーパーからフォワードまでのすべてのポジションに必要とされるテクニック・戦術・体力・精神力を完璧なまでにプレーできる選手は、世界中探しても一人もいないでしょう。そう、サッカーとは不完全な選手がお互いの長所を出し合って、そしてお互いの短所を補い合って、その結果、1つの組織(=チーム)として機能すれば良いスポーツなのです。
「サッカーの監督はオーケストラの指揮者」という表現があります。チームには様々な音を奏でる選手がおり、各選手の奏でる音が違うからこそ素晴らしいハーモニーを醸し出すことができます。そして、それを統括する監督は、まさにオーケストラの指揮者です。個々の選手を見てみると、それぞれが様々な長所や短所を持っています。サッカーの強い、良いチームというのは、一人ひとりの選手が自分の良い部分を理解し、それを最大限発揮することで、ほかのチームメイトの短所を補っています。自分の長所は思いっきり発揮するが、短所はほかの人にカバーしてもらう。それによって現れる全体のハーモニーがチームの力なのです。
■個は組織の機能を高めるために、その能力を発揮する
テクニックが得意なゆえに、ソロ奏者のように見えるメッシでさえ、チームメイトとのハーモニーの大切さを強調しています。なぜならば、一人の力だけで試合に勝てるわけではないことを、経験上彼は誰よりも知っているからです。確かに選手1人ひとりを見れば「個人」ですし、プロ選手になるのも「個人」です。しかし、プロ選手になるための階段を登る際に必要なのは、非の打ち所がない完璧な選手を目指すことではなく、自分の長所を活かしながらチームメイトと最高のハーモニーを奏でることを学ぶことです。自分の個性を磨くことは、社会に出て生き生きとした人生を歩むためにも求められることでしょう。
自分の個性を活かせるような役割を見つけ、そこに集中し、大いに貢献していくことは、ひいては人生の幸福を手にすることにも繋がっていくと思います。そう考えるとサッカーは人間社会の縮図のようにも思えてきます。どちらも組織(チーム)としてオーガナイズされ、全体で機能していくものです。個々は組織の機能を高めるために自分の能力を発揮することが求められています。それは決して「組織のために自分の個性を押し殺すことではなく、全くその逆です。「自分の個性を最大限に発揮し組織に貢献する」ことです。
サッカーを通じて、サッカーを超えたこのような「個と組織の共存」という普遍的な価値観を身につけていくことができたら、どんなに素晴らしいことでしょう。しかもそれは、年齢やサッカーのレベルに関係なく、誰もが一流選手と同じように学べることなのです。
アルベルト・プッチ・オルトネーダ//
Albert Puig Ortoneda
FCバルセロナ「カンテラ」テクニカルディレクター。1968年生まれ。FCカンブリルスのインファンティルチームを監督し、同市内のベテランス・サッカースクールに勤務、その後、レウス・デポルティウと契約した。FCバルセロナのオブザーバーとして、当初タラゴーナ県、次にカタルーニャ州全域を担当。2002年、バルサの下部組織のスタッフとなる。アレビンBを2シーズン率い、2008年からはインファンティルBを監督している。また、カタルーニャサッカー協会のコーチングスクールで教師を務めている。
受賞歴:スペインスポーツ高等委員会のエレナ王女賞、エルネスト・リュチ財団のスポーツマンシップ賞、ジョアン・クレウス・スポーツマンシップ賞、スポーツマン祭典の『スポルト』紙のフェアプレー賞、カタルーニャサッカー協会のフェアプレー賞、カンブリルス・スポーツマンシップ賞など。
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本書は、有名人によって語られたサッカーのエピソード本とは違う。プロサッカー選手になるという夢を叶えた選手たちの経験や彼らが大切にしている価値観を考察し、その中から、夢の実現を目指す若いスポーツ選手、指導者、教育者、更には選手の保護者に役立つエッセンスを抽出し、そしてそれらを皆さんと共有するために書かれたものである。
・第1章 FCバルセロナの指導理念を実践する現役の指導者たち
・第2章 カンテラが生んだスター選手たち
・第3章 経験者が語るFCバルセロナの育成論
・第4章 子どもをサッカー選手にしたい親たちへ
・第5章 教育者が子どもに与える影響
■FCバルセロナの元コーチが教える「サッカー選手が13歳までに覚えておくこと」
FCバルセロナの選手や世界のトッププロをサポートしてきたスペインの世界的プロ育成集団「サッカーサービス社」が監修した選手が見て学べるU-13世代の選手向け教材。彼らが分析した「Jリーグ」の試合映像をもとに、攻守の個人戦術からグループ戦術まで、選手のサッカーインテリジェンスを磨く32のプレーコンセプトを解説。将来、プロや海外で活躍することを目指す選手必見の教材。
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文/「FCバルセロナの人材育成術」アチーブメント出版 写真/小川博久(FCバルセロナキャンプJAPAN2011より)
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