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『考え抜く』子どもを育てるために

頭ごなしに大人の判断を押し付けず、子どものビジョンを認めるのが大切

公開:2012年10月22日 更新:2020年3月24日

キーワード:指導者育成

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前回と前々回の記事では、上野山氏が長年の経験で培った指導哲学を紹介しました。しかし、上野山氏も最初からこのような答えにたどり着いていたわけではありません。何度も失敗を繰り返し、そのたびに自らを振り返りながら成長し、今の指導哲学を構築しているのです。
 
 
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■上野山氏が指導者として変わったのは、何がきっかけだったのでしょうか?

「途中で考えてみたんですよ。自分がサッカーしていたときに出会ったコーチはどんなふうだったかなと。それから彼らコーチの言葉や行動を思い出して、書き留めてみたら、何も良いことがなかった。いろいろ言われたけど、モチベーションも全然上がっていない。“がんばれ、がんばれ”って言うけど、がんばっても全然試合に出してもらえない。うそつきやん、と。そこからですね。だったらこんなコーチにならなければいいと。
 
コーチの方々の中には、自分が今までに習った恩師の方々の指導が染み付いていて、きつい言い方になるけど、勉強もせずにそれを受け継いでしまっている人もいる。それは、私は違うと思います。過去の指導をすべて否定はしないけど、やっぱり自らを反省しながら構築しなければいけないと思うんです」
 
 自省―。指導者としての言葉、行動、哲学を振り返ること。それは、上野山氏が指導者として成長するための大きな要因となりました。
 
 さらに、上野山氏はサッカー以外の日常生活の場面でも、指導者としての大きな学びを得る機会があったそうです。
 
「(指導者として変わった)もう一つのきっかけは、私に子どもができたときの妻の言葉ですね。夜中に子どもが泣くので睡眠が十分に取れず、 “うるさいな! 寝かせてよ!”と言いました。そうしたら、妻に言われたんです。“子どもは泣くものでしょ”と。正直そのときは私もまだピンと来ていなくて、“じゃあお父さん寝かせてよ”と言われましたが、私がやっても全然子どもは寝ないんですよ。で、妻が抱いた瞬間にすぐに寝てしまった。“子どもは無理矢理には寝ないよ。寝たくなったら寝るんだから、それまで我慢しなければいけないでしょう”と。
 
私はそこで一つの気付きがありました。子どもには子どもの欲求があり、また大きな夢(ビジョン)があるんだなと。その前後からですね、指導者として変わってきたのは。自分を振り返ってみて“これではイカンな”と思いました」
 
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 子どもにもビジョンがある。状況をどのように見ていたのかを聞く、プレーの意図を聞く、判断の理由を聞く……。上野山氏の指導の根本にあるのは、頭ごなしに大人の判断を押し付けず、子どものビジョンを認めていることではないでしょうか。
 
「子どもを指導するのは難しいですよ。目線やスタンスが違うし、いちばん難しいのは、練習に飽きやすいこと。ある指導者研修会を開いたときの話ですが、指導者の代表がそれぞれ90分間ずつ、普段指導しているチームではない子どもたちを指導するんですよ。で、終わった後に子どもたちに“楽しくなかった? 正直に言っていいぞ”と聞くと、みんな“ハーイ!”と手を上げる。“何が楽しくなかった?”と聞くと、“話が長い”とか、順番に言う。
 
普段、決裁権のある監督に対してどれだけ子どもが言いたいことを言えてなかったのかが分かってしまう。指導者にとってはきついけど、それでもやらせています。“普段のチームではお前に対してこんなふうに指摘してくれないだろう? ありがたいよな”と。辛いけど、そこで分かってくれるコーチは伸びますよ」
 
 子どもを指導するのは難しい。人間としての落ち着きや余裕がなければならないためか、ヨーロッパや南米では育成年代を年配のコーチが指導することが多いそうです。しかし、上野山氏は…、
 
「私もずっとそれが正解かなと思っていました。ただ、最近は少し考えが変わってきましたね。人生経験による引き出しの多さも大事だと思いますが、いちばんは指導に対する使命感かなと思います。ヨーロッパや南米のコーチは、自分の国や地域のサッカーを勝たせたい、世界一にしたいという使命感を持ってやっていると思います。ただこなすだけじゃなく、日本の指導者にも、どれくらいそういうことを考えている人がいるのか。サッカーを通して日本社会を動かすとか、目の前の子どもを成長させたいとか、いちばん大事なのは使命感だと思いますね。使命感があれば、経験は自然と積まれる。そういう指導者がたくさん育ってほしいと思います」
 
 
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上野山信行(うえのやまのぶゆき)//
公益社団法人日本プロサッカーリーグ技術委員長
1957年大阪府生まれ。
1976年からヤンマーディーゼルサッカー部でDFとして活躍し、1986年引退。
その後、釜本FCでジュニア、ジュニアユースの指導を皮切りに、92年ガンバ大阪ユースの監督に就任。
2009年Jリーグ技術委員長に就任し、現在に至る。
「自ら考えさせる」一貫した指導で、多くの日本代表選手を育てている。
日本サッカー協会公認S級コーチ。
 
 
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取材・文/清水英斗 写真/サカイク編集部

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