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JFAグラスルーツ推進部部長が行く!あなたの街のサッカーチーム訪問
サッカーで目指す、障がいの有無を超え一緒に楽しむ共生社会の実現② ~グラスルーツ推進番外編~
公開:2018年2月27日
2017年8月に神奈川県横浜市で開催された『U-17横浜サッカーフェスティバル』。この大会には健常者と障がい者が参加し、試合や練習を通じて交流を深める姿がありました。
今回の『グラスルーツ推進部長が行く』特別篇となる座談会では、U-17横浜サッカーフェスティバルの参加者の皆さんにお集まりいただき、健常者と障がい者のサッカーを通じた交流によって得られるものや、サッカー界は障がいとどのように向き合っていくべきかなどについて、意見を出し合っていただきました。(文:鈴木智之)
■サッカーの力で互いの間にある壁を越える。そのためには情報共有が必要
健常者と障がい者がサッカーを通じて交流をすることで、様々な気づきや経験を得ることができたU-17横浜サッカーフェスティバル。日本サッカー協会(JFA)グラスルーツ推進部の松田薫二部長は「サッカーを一緒にすることで、お互いの間にある壁のようなものが消えていく。それはサッカーが持つ、スポーツの力ではないかと思います。そのような場を作ることが、スポーツの価値を高めることにもつながると思います」と、自らの経験を踏まえて語ります。
U-17横浜サッカーフェスティバルに神奈川U-17選抜のコーチとして参加した、元川崎フロンターレの箕輪義信さん(神奈川県立菅高校)は言います。
「たとえば健常者のチームが障がい者のチームと試合をするときに、どのぐらいの強さでフィジカルコンタクトをすればいいのかなどの加減がわかりません。そのあたりの怖さは、健常者、障がい者ともにあるので、互いに交流をする中で理解を深めていければ良いと思います。神奈川県は障がい者サッカーへの取り組みが熱心です。交流の先駆者となって、多くの情報を発信してくことができれば良いですし、子供たちの教育的な観点からも、すごく良い経験になるのではないかと思います」
健常者と障がい者が交流を深めていく上でのポイントは何でしょうか?
神奈川デフサッカークラブで監督を務める武井基さんは「必要なのは情報共有」だと言います。
「私が大事にしているのは、人との出会い。その先に、交流があるのではないかと思っています。私が指導をするクラブは神奈川県の川和高校と交流試合を4年間やっていて、デフ(聴覚障がい)の選手と高校生が手話を交えて会話をしています。デフは補聴器を外すと、音のない世界になります。高校生に耳栓をつけて試合をしてもらい、感想を話し合ったこともありました。このように、健常者と障がい者がサッカーを通じて交流できる場があればいいと思います。そのために必要なのは情報共有で、様々な人と交流できる場が欲しいです」
松田部長はそれについて「情報をJFAにいただいて、みんなで共有できるようにしてきたいです。こういう場があることを知ることができれば、さらに交流が増え、障がい者のみなさんがプレーする場も増えると思います」と、サポートする考えを明かします。
■学校現場での取り組みが共生社会につながる
FPFID特定非営利活動法人 知的障がい者サッカー推進連盟の理事長と事務局長を務め、U-17横浜サッカーフェスティバルに障がい者チームのコーチとして参加した山道栄次さんは、高校生との交流で驚いたエピソードを教えてくれました。
「神奈川県立川和高校サッカー部さんとの交流で驚いたのが、サッカー部の2年生、60人全員が手話をやるんですよ。それも一夜漬けのレベルではないんです。『どうして手話ができるの?』と聞いたら『大学に行って、教員になりたい』『特別養護の教員になりたい』と言うんです。先生に聞いたら『県立高校は週に2時間、手話や介助の勉強をする時間があるんです』と。そのような学校現場での取り組みが、共生社会に繋がるんだという実感がありました」
(右:FPFID特定非営利活動法人 知的障がい者サッカー推進連盟の理事長の山道栄次さん、左は神奈川県サッカー協会副会長で神奈川県議会議員の森正明さん)
NPO法人 知的障がい者サッカー推進連盟の理事を務める竹澤静江さんは「実は最近、知的障がいの選手も、手話を使い始めているんです」と言います。
「彼らは記憶が苦手なので、手話を覚えるのはハードルが高いんですね。でも『デフ(聴覚障がい)の選手と会ったときに話がしたいから』と、本を買って覚えたそうです。障がいのあるなしにかかわらず、お互いのことを知りたい、多くのことを学びたいという気持ちは誰しも持っていると思います。健常者と交流することで上下関係ではなく、一緒にサッカーをする仲間として垣根がなくなればいいですし、実際に良い取り組みが行われているので、これからも発信していきたいと思っています」
■Jクラブができる「橋渡し」
健常者と障がい者がサッカーを通じて交流するためには、グラウンドを始めとする環境が必要です。障がい者サッカーの大会を開催している、横浜FCのアカデミーダイレクター、重田征紀さんは「Jクラブとしてできるのは、環境を用意すること。大会を主催して、健常者と障がい者の橋渡しになり、そこから両チームの交流が始まり、お互いを知る機会にもなると思います。今後も自分たちに何ができるかを考えながら、少しでもお手伝いできるような取り組みができればと思います」と、クラブとしての関わり方を述べます。
(横浜FCのアカデミーダイレクター、重田征紀さん)
神奈川県出身で、現在は新潟県北越高校サッカー部の監督を務める荒瀬陽介さんは「新潟には、障がい者のサッカーチームが1つしかありません。人口が少なく、広範囲にわたる土地柄でもあるため、普及という面で手が回り切らない現状があります。そのため、障がいのある子でもサッカーをする場があること自体を知らない人もいると思います。その中にはサッカーに向いている子もいるかもしれません。我々高校のサッカー部としては、できる取り組みを探していきたいですし、神奈川県の取り組みを参考にしたいです」と、今後の取り組みについて話してくれました。
サッカーに限らず、最初は誰かが小さな種をまき、それが芽吹くとともに成長して、大きなムーブメントになっていきます。神奈川県の障がい者サッカーの礎を作った一人でもある、神奈川県サッカー協会副会長、県議会議員の森正明さんは言います。
「20年ほど前、障がい者サッカーのコーチをしていた時に、視覚障がいの人たちが使うボールを作るためにモルテンにお願いをして、ボールの中に鈴とオルゴールを入れてもらったことがありました。昨年、盲学校の子どもたちのために桜の木の苗を植えに学校に行った時のことです。校長先生に呼ばれて教室に入ると、20年前に私が子供たちにサインをしたモルテンのボールが出てきました。鈴とオルゴールが入ったボールをずっと大事にとっておいてくれたんです。感動で鳥肌が立ちましたし、いまの自分に何ができるのか。できることがあればしてあげたいと、強く思いました」
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